捕まったお話のその後のお話
「い…い……こ。…いこ。」
よっちゃんが、俺たちの頭を撫でてくれた。
うれしい。すき。だいすき。
よっちゃん。もっと。もっとなでて。
ずるっ。
ぱた。
「ねぇ、兄ちゃん。よっちゃんが頭撫でてくれたよ。」
キラキラした笑顔で興奮したように喜ぶ凛。
あぁー。きっと俺も同じ顔してるんだろうな。
おかしくてたまらない。
「あぁ。凛。見てみろ。よっちゃん笑ってる。」
凛もよっちゃんの顔を覗き込むと満面の笑みを見せた。
「ほんとだー。きっとよっちゃんも嬉しかったんだね。」
「あーぁ。早く目を覚まさないかなぁ。」
凛が、よっちゃんの手をとって無邪気にガジガジ噛んでいる。
俺は、凛とは反対の腕をとってキスをして、吸い付いたり噛みついたりした。
あっという間にたくさんの綺麗な赤い花が咲いた。
「よっちゃん。起きたら遊ぼーね。」
凛が言いながら、よっちゃんのほっぺたをつつく。
俺は、凛の言葉とは裏腹に早く起きてほしくて顔中なめたり、かじったりしてよっちゃんで遊んでた。
でも、まだ起きない。
反応のないよっちゃんで遊ぶのもいいけど、あの大きな目で見て欲しいな。
きれーなすんだ青い瞳。
あの眼、食べたらおいしいかな。でも食べたらなくなってしまう。
なくなったら目に映してもらえない。それはダメ。
それなら…。なめるのはありかな。
それになめたら、甘いかもしれない。
甘いのは普段食べないけど、よっちゃんは食べる。
ううん。残さず食べる。
絶対においしい。あまい。
じゅるり。あーだめだ。がまんがまん。
「あっ。兄ちゃん。よっちゃんの血あまい。おいしいよー。」
凛が恍惚な表情をしながら、手から流れた血をなめていた。
俺は、凛の頭を撫でてやった。
にこーっとしながら、なめるのをやめない。
ふと、よっちゃんの首に目がいった。
さっき、俺が絞めた赤黒い色の跡がくっきり残ってる。
それが首輪に見えて、艶めかしく映った。
ふらふら吸い込まれるように顔を近づけた。
ふわっと馨しい香りがして、ぺろっとなめてみた。
「おいしい…。」
無意識に口にしていた。
「あぁ。兄ちゃん。笑ってるー。おいしーの?」
「ふふ。やっぱり、よっちゃんはおいしいなぁ。」
はやく。はやく起きてよっちゃん。
起きないとたべちゃうよ。
はっ。唐突に目が覚めた。
体が重い。動かしづらい。なんで?
冴と凛が抱き着いているわけでもないのに、どうしたんだろう。
ゆっくり起き上がってみる。
「いたっ。」
痛みを感じた途端、全身がぞわぞわとおぞけが走った。
なんだ?この感じたことない感覚は。
「あーやっと起きた。」
「凛?」
足元から声がした。
「もうおそいよー。」
寝そべりながら、ぎゅーっと腰に手をまわして抱き着いてきた。
おなかにあたまをぐりぐりしてくる。
どうしていいかわからず、とりあえす頭をなでようと手をあげて、止まった。
なんだこれ。手が血まみれ?
血が止まってるところと流れているところがある自分の手を見て唖然とした。
「あー。まだ血が止まってなかったんだね。貸して。」
凛に手をとられて、そのまま凛の口の中に放りこまれた。
「り、りん?いったいなにを…。」
「んへ?らってよっひゃんのちおいひいもん。」
「よっちゃん。」
驚いて声のした方をむいた瞬間。
目の前が暗くなり、眼に生温いものが触れた。
「は…ぇ?」
「やっぱりあまいね。おいしい。」
「さ、さえ?な、なにをして…?」
そのまま首をなめている冴。
今、眼球をなめられたのか?
それに、凛は血が流れる手をなめてる。
「…んぁ。ひゃぁ。…んん…さ…さぇ。」
考えに浸ろうとしたけど、変な声がでた。
「ぁ…。ま、ま…って。ん。」
なめるのをやめた冴が笑いながら首を傾げた。
「どうした?」
「ふ、ふたりは、これがしたかったのか?」
なんとか、声をふりしぼって聞いてみた。
すると、俺の目からぽろっと涙が流れた。
なんで、涙?不思議にそう思っていた。
「あーもったいない。」
そういって、冴が顔を舐めた。
舐められたのにビックリして、涙が引っ込んだ。
「あー。兄ちゃんずるい。俺も舐めたかったのにー。」
「凛?」
「なあに?」
あれ?そういえば。
なんか、青い監獄の時よりだいぶ幼くなってないか?
それに
「冴?」
「んー?」
にこにこ笑顔。
こんなのまるで、小さかった頃の2人…。
「俺のせいか?」
2人が小さかった頃、拒絶されて、一気に興味を失った。
そこから関わることなく、俺は潔家の養子に入った。
12、3年は会ってなかったが、青い監獄で凛と再会し、U-20日本代表戦で冴と再会した。
再会した時は、2人とも年相応より少し大人びていた。
だから、こんなことになるなんて思いもしなかった。
拒絶されたと思っていたが、先に俺が諦めたのか。
だから、俺を好きだという気持ちの行き場所をなくしてこんなことになったのか?
それなら俺は、2人を愛してあげないと。
でも愛がわからない。可愛がるでいいのかな。それならできるよ。
「ごめん…な。さえ。りん。あ…い…して……。」
ぐるぐる考え込んだ俺は、感じたことない不可解な感情に目をまわし、そのまま気を失った。
ある男の子のお話
ある日、男の子の前に自分より小さな子がやってきました。
すると、女の人が男の子に「この子を愛してあげてね」といいました。
でも男の子は愛がなんなのかわかりません。
いつも男の子は女の人や男の人に抱っこされたり、抱きしめられたり、頭をなでてもらったりして幸せな気持ちでした。
なので、愛をもらうことは、幸せな気持ちになることだと思いました。
同じことをすれば、この子に愛をあげることができると思ったのです。
しかし、同じようにしても小さな子は喜びません。
男の子はとても困りました。
小さな子に愛をあげても幸せではないのです。
しばらくすると、さらに小さな子がやってきました。
やはり、女の人は言うのです。「この子も愛してあげてね」と。
女の人や男の人が男の子と同じことをしてあげると、2人はすごく喜んで幸せそうな顔をするのです。
それに自分より小さな子がさらに小さな子に男の子と同じことをするとすごく喜びます。
もう男の子にはわかりません。
それに、2人は男の子が構うことをよく思わないのか、なにをしても喜ばず、1番小さな子は、男の子を避けるようになったのです。
男の子が頑張って愛を差し出しても、2人は受け取らず、もうどうしたらいいのかわかりません。
すると、自分より小さな子は「サッカーしないならこっちにこないで」と男の子に言ったのです。
その瞬間、男の子は目の前にいる2人が自分とは違う生き物に見えました。
自分とは違う生き物だから、愛をあげても受け取ることができなかったんだと思ったのです。
同じじゃないならしかたないと、2人に対する『なにか』が一気に消え失せた瞬間でした。
本当はのお話
涙を流して気を失った体を支えた2人は、最後の言葉を聞いてにんまり笑った。
「ばかな世一。」
「かわいそうな世一。」
ふふふ。あはは。
(ひとりじめにできる。ううん。ふたりじめにできる。)
世一と冴と凛の3人だけの世界。
「「やっと手に入れた。」」
「今度は、逃げないで俺からの愛をちゃんと受け取ってね。」
「今度は、俺から逃げないでたくさん構ってね。」
冴と凛は互いに顔を見合わせて暗い笑みを浮かべた。
冴のお話
何も言わずに、表情も変わらず、頭を撫でてもらったことがある。
その時の俺には意味がわからなかった。
でも、大好きな人だったから、どうであれ構われることはうれしかった。
なのに、ある時気づいてしまったのだ。
母さんと父さんには、にこにこと表情がころころ変わるのに、俺を見てもにこりともしないことに。
ころころ変わる顔を見せてほしかったのに、離れていった。
俺のひとことが突き放してしまったとわかったのは、名前が自分たちと違うものになってからだ。
凛のお話
小さな頃、興味をなくした青い瞳を見て恐怖した。
こんなにも綺麗なものがこの世に存在するのかと、歓喜したのだ。
同時に、あの瞳を持つ人がもっとほしくなった。
ひとりじめにしたかった。
でも、あの人は俺を見なくなった。
ずっと見ていたのに、ずっと近くにいたのに、ずっと愛してほしかったのに。
実はのお話
よっちゃんは、ちいさなころ表情豊かな子でした。
両親からぎゅーしてもらったり、撫でてもらったりすると、うれしくていつもにこにこしていました。
でも、わからないことや、考えごとをしていると表情が無になるのです。
本人は表情が変わっていると思っているのですが、見ている人が見ると、なんか考えているんだなとわかるくらいには変わりません。
さえちゃんを愛するにあたって、まず愛がわからないので両親と同じことしても表情は無なのです。
小さい子からしたら、無言で無表情で構われたら恐怖でしかありません。
さえちゃんは、おかまいなしによっちゃんが大好きだったので、構ってくれるのが嬉しかったのです。
ただ、どう反応したらいいのかわからず困っていただけでした。
なので、冴は自分が愛を返さなかったから世一から愛されなかったのだと思ってます。
りんちゃんは、さえちゃんと違って、本当に怖かったので避けました。一種の防衛反応です。
それでも構われるさえちゃんが、うらやましくてしかたなかったのです。
りんちゃんからしたら、さえちゃんは、よっちゃんから愛をもらえるのにどうしてよっちゃんは自分にはくれないのだろうと思ってました。
なので、凛は自分をたくさん構ってたくさん愛をちょうだいね。と言ってるのです。
2人の言う逃げずにというのは潔家の養子になったこと。
知らない間に名前が変わっていたのもあって、逃げられたと感じているのです。
2人が幼くなるのは、3人一緒のときのみに起こる一種の反応。
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