ミンミンと蝉の声が耳に突き刺さる。その一瞬で、自分が屋上で寝てしまっていたことを思い出す。この時間帯の屋上は、暑くて誰もよってはこない。
蝉の音と、サンサンと降り注ぐ太陽の光。
「………あつい」
寝ていたせいなのか、外の気温のせいなのかはわからないが、いつもより体が熱いことは確かだった。
いつのまにか出た汗が、頬を伝う。なんだかくすぐったくなり、ワイシャツで汗を拭いた。
ふと思った言葉を口に出す。
「……とらおー」
誰かに伝えるわけでもないその声は、酷く細く、ぬるい風へと飛ばされていく。
このおれの呼びかけに答える声はない。そんなことはよくわかっているのに、なぜか、耳触りの良いあの低い声がとても恋しくなった。
突然だが、おれには”前”の記憶がある。今でも忘れることのない、潮の匂いが乗った波風、きらきらしている何が起こるかわからない青。――おれの、仲間達。
その中にはもちろんトラ男もいる。仲間というには少し違うと思う。でも、言葉には表せられないなにかがおれたちにはあった。自分の仲間には話せないようなことだって沢山話した。
仲間とは違うこの感情は、今も昔もよくわからない。
ロビンに聞けばよかったかなー。
ルフィが思考の海に沈んでいると、ガチャりと、音が聞こえた。ローだろうか。あまり気にもせず、寝っ転がったままで声をかけられるのを待つ。
「──麦わら屋。」
「…トラ男?」
ローの影がルフィの顔へ影を落とす。
寝っ転がったままのおれの顔を覗き込むように見ているトラ男を逆さま越しに見る。
そんなルフィの様子を気にもせず、言おうとしていた言葉を続ける。
「熱中症になったらどうするんだ、麦わら屋」
「ねっちゅーしょー、一回もなったことないから大丈夫だ!」
「その自信だけは認めてやるよ」
そんなルフィの言葉に、ふっとローは優しい微笑みを浮かべた。ふと脳裏へと記録がよぎる。
【お前、本当にアホだな。】
変わってなんかいない、子を見るような優しい視線、どろどろに溶けてしまいそうになる甘い声だ。
今と昔が違うことなんて、もう慣れている。エースだって死んでねぇし、海軍なんかない
そう微笑まれながら、じーっと琥珀色の目に吸い込まれるかのように目を合わせる。なんだか言葉が失われたかのように、声が出ない。
ミンミンと蝉の声は止むことを知らない。それがなんだか無言なままのおれたちを助けるようでもあった。
さっきも言ったが、トラ男には大切な人が生きている。
昔の記憶がダメってわけじゃないけど、トラ男にはしやわせになって欲しいから。
「トラ男!!」
「あ?」
「しやわせか?」
蝉の声が屋上へと木霊する。蝉の声がうるさかくてなんも聞こえなかった気がするけど。結局、答えなんていらないのかもしれない。
「トラ男!」
「今度はなんだ」
太陽の眩しさに目を細める。
「───すきだぞ。」
そう言われたトラ男の顔を、おれはずっと忘れないだろう。
文章力がない
口調が掴めない
終わり
続きはないかもね
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