テラーノベル
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楽屋を出た帰り道。
撮影を終えてタクシーに揺られる2人。
夜の都会の光が窓ガラスに映って、気だるい空気の中に妙な安心感が漂っていた。
スマホを眺めながら黙っていた元貴がふと顔を上げると、隣の若井がなにやら考え込むように口を開きかけては閉じるのを繰り返していた。
「……何?言いたいことあるなら言えば?」
からかうように笑う元貴の声に、若井は慌てて視線を逸らす。
「いや、別に……」
しばらく沈黙が流れたあと、若井は観念したように小さな声で言った。
「なぁ元貴、俺らさ……お揃いのもの欲しくない?」
その言葉に、元貴の眉がぴくりと上がる。
「は?カップルかよ」
「ち、ちげぇよ!……そういうんじゃなくてさ」
慌てて弁解する若井。
だが耳まで赤いのはごまかしようがない。
「ふぅん……?」
元貴は顎に手を当てて、わざとらしくじっと見つめた。
「へぇ〜。若井って、そういうの憧れてたんだ。ペアリング?ペアネックレス?」
「ばっ、馬鹿言うなよ!」
若井は思わず声を荒げる。
「そういうのはさすがに……」
「さすがに、何?」
「……恥ずかしいだろ……」
言葉尻が小さくなっていく。
赤面したまま視線を泳がせる若井の姿に、元貴は思わず口元を緩めた。
「若井さぁ、照れすぎ。顔、真っ赤だよ。かわいい」
「……言うなって」
「じゃあ言わないほうが良かった?」
「……」
不意に黙り込む若井。
その沈黙こそが、答えだった。
タクシーの振動が妙に大きく感じられる。
気まずさを隠すように若井は窓の外を見つめ、低く呟いた。
「……いいじゃん、別に。俺は欲しいんだよ」
その真剣な声色に、元貴は一瞬だけ表情を和らげる。
だがすぐにまた意地悪な笑みを浮かべた。
「へぇ。じゃあ俺が“指輪にしよ”って言ったらどうする?」
「指輪はやめろって!ほんとに勘違いされるだろ!」
「え、じゃあブレスレット?」
「……うん」
「素直〜。やっぱカップルだね」
からかう元貴に、若井はうつむいたまま小さな声で返す。
「……元貴と離れたくないんだよ」
その言葉がタクシーの中に落ちた瞬間、空気が一気に甘くなる。
元貴は窓の外に映るネオンを見ながら、心臓の高鳴りを必死に隠していた。
⸻
後日。
オフの日に、2人は一緒に買い物に出かけた。
ショーケースに並ぶシンプルなシルバーブレスレットを前にして、若井はそわそわと落ち着かない。
「これとかいいんじゃない?」
店員に勧められたペアデザイン。
元貴が手に取って、光にかざす。
「……悪くないな」
若井は小声で答える。
「じゃあ、これにしよっか」
元貴が店員に伝えようとした瞬間、若井が慌てて腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「え、なに?」
「俺……元貴の意見聞いてから決めたい」
その真剣な表情に、元貴は思わず目を細める。
「……俺は、若井とお揃いなら何でも嬉しいよ」
言われた瞬間、若井の心臓がドクンと大きく跳ねた。
耳の先まで真っ赤になりながら、言葉を選ぶように呟いた。
「……っ、じゃあ、これにしよう」
2人で同じブレスレットを手に入れた瞬間。
包みを受け取った若井は、信じられないくらい嬉しそうに笑った。
その笑顔に、元貴の胸も温かくなる。
「これでお揃いだな」
「……俺、これ一生大事にするわ」
「うわ。定番のセリフじゃん」
「うるせーな。……だってめちゃくちゃ嬉しいから。」
帰り道に2人の手首で光るシルバーが、街灯の下でひそやかに輝いていた。
コメント
2件
(⑉・ロ・⑉)オォ-!いい!!2人の仲の良さがきわだってるね〜( ´ࠔ`* )