テラーノベル
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背後で、靴音が変わった。引きずるような、
でも確実に近づいてくる音。
「……来るぞ」
実行部隊の一人が、低く言う。
振り返った瞬間、
そこにいたのは――
もう“情報部隊の仲間”じゃなかった。
焦点の合わない目。
不規則な呼吸。
それでも、体の向きだけは正確にこちらを捉えている。
「……くそ……」
銃を構えるが、指が止まる。
「撃つな!」
別の隊員が、反射的に叫んだ。
ゾンビ化した情報部隊が、突然、距離を詰める。
速い。
生前よりも、迷いがない。
「下がれ!」
腕を掴まれそうになり、実行部隊が後ろへ跳ぶ。
ギリギリで噛みつきは避けた。
「……っ、動き覚えてる……!」
「当たり前だろ……!」
ついさっきまで、
この距離で並んで歩いていた。
「右から来る!」
叫びと同時に、仲間が引き倒されそうになる。
別の実行部隊が、体当たりで割って入った。
「触るな!!」
押し返す。
噛まれないよう、距離だけを保つ。
「……名前、呼ぶな」
誰かが、苦しそうに言った。
「呼んだら……躊躇う」
ゾンビ化した情報部隊は、
一瞬だけ首を傾げた。
聞き覚えのある声に、反応したみたいに。
「……っ」
でも次の瞬間、
再び獲物を狙う目に戻る。
「離脱する!」
「誘導するぞ!」
実行部隊は、息を合わせて動いた。
攻撃じゃない。
避けて、押して、距離を取る。
「……情報部隊、足速かったよな」
「今それ言う!?」
「だから厄介なんだよ!」
わちゃわちゃと声を飛ばしながら、
でも動きは一切乱れない。
最後に一人が、路地の外へ飛び出す。
「全員、無事か!」
「噛まれてない!」
「セーフ!」
ゾンビ化した情報部隊は、
路地の奥で立ち止まった。
追ってはこない。
ただ、こちらを見ている。
「……」
誰も、銃を上げなかった。
「……ありがとうな」
誰かが、小さく呟いた。
守られた命。
渡された時間。
「行くぞ」
実行部隊は、背中を向ける。
その瞬間――
後ろから、微かに無線のノイズ音が聞こえた気がした。
使えなくなったはずの、あの周波数。
「……気のせいか」
誰も、振り返らなかった。
レグルス・プライドは、
生き残った者として、前へ進む
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