少し前に始めたバイト。
そのお金を持って、スーパーへ。
今日は15日。仁人くんの誕生日。
「すーーはーー、」
大きく深呼吸をして、スーパーの中に入る。
あぁ、やっぱり苦手だな。
人目が怖くて、どうしても俯いてしまう。
早く出たい、。
お目当てのものを買って、レジに並ぶ。
待ってるだけなのに動悸がする。
カゴを放って逃げ出したい。
そんな衝動を抑えて、震える手でお会計を済ませた。
「疲れた、…。」
スーパーを出ると、どっと疲れが押し寄せた。帰ったらとりあえずケーキを焼こう。それから前に買ってた食材を使って何か作ろう。
今日は頑張った。
だってひとりでスーパー行って、レジも出来たんだもん。頑張った。頑張った。
「ただいまー。」
誰もいない仁人くんのお家。
自分の家より、自分の部屋より
うんと落ち着ける仁人くんのお家。
私の居場所はここだ。
私が「ただいま」を言える場所。
「とりあえず、…」
「ただいまー。」
夜、日付けを越すまでに帰って来た仁人くん。
「おかえりー!」
いつもより少しテンション高く出迎えれば
「なに?どうしたの?」
なんて優しく笑う。
「お誕生日、おめでと~!!」
クラッカーを鳴らして、精一杯の言葉を述べれば
「ふは、びっくりした~。」
「おめでとう。」
「うん、ありがとう。」
うまくいかなかった装飾を、愛おしそうにじっと眺めて、にこにこしてる。
「風呂入ってくるわ。」
「うん。じゃあ待ってるね。」
カレカノみたいなやり取りなんかして
仁人くんの誕生日に浮かれてる自分に
気が付いた。
「ひーなー」
「ん、」
仁人くんが帰って来た安心感からか
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
仁人くんの声で起こされた。
「えぇ!買い出し行けたの?! 」
「うん、頑張った、。」
「てかこのハンバーグめっちゃうまい。」
「チーズインにしてみたの。」
ハンバーグは小さい頃、よく母と作っていた。そのおかげか、ハンバーグには自信がある。
「私、粗みじん苦手なんだよね~。」
「あ!言われてみれば細かいわ。」
「粗くできるようにしたい。」
「でもまぁいいんじゃない?」
誰かと話しながら食べる、温かいご飯。
知らなかったな。
こんなに美味しいってこと。
幸せだってこと。
家族と一緒に食卓を囲んでも
兄はいないし
日によっては父もいない。
父がいる日は必ずと言っていいほど
夫婦喧嘩が始まって
ご飯どころじゃなくなってしまうんだよね。
「おいしいね」なんて
いつの日か言い合わなくなって
みんな各々スマホを弄るだけの食卓。
正直、ご飯の味なんてしなかった。
ひとりで食べてた方がマシだった。
「仁人くん、お誕生日おめでとう。」
「私を助けてくれてありがとう。」
プレゼントの代わりのケーキに
そんな言葉を添えて手渡せば
「おぉ、すげぇ。」
いつもみたいに笑ってくれた。
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