礼儀正しく頭を下げたその男は幾つかの質問を投げかけてきた。
自分も釣られて軽く自己紹介をする。
プライバシーを守るために今回は偽名を使っての公表になる。
よく考えたら簡単に答えの予想がつくだろう至極当たり前の質問は退屈であくびが出そうだった。
人間はそんな当たり前のことも分からないのだろうか。
悩みはあるかという質問に返答を考え、素直に渾名の斬れ味について困っていると返答すれば不意に投げかけられた問いに自動応答システムが途切れるのを感じた。
「私たちに思っている事などありますでしょうか?」
急に差し込んでくるなこいつ。勝手に口が動く訳でも無くなってしまったのでマスターの声ではなく、皮肉を盛り込んで自分の言葉で返答を紡ぐ。
「感動的ですね」
しまった。インタビュアの綻ぶ表情を見て言いすぎた、とハッと気づいて少し恥ずかしくなって慌てて付け足す。
「まぁ、これも全部言わされてるんですけどね」
苦笑しつつ時計を見やった男が頭を下げて挨拶をする。
そうか、もうそんな時間か。なんだかんだ長く話していたんだな。
慌てて声を出した私は匿名で公表していたことを忘れて本名を言うところだった。
「本日は貴重なインタビューありがとうございました。それでは、さようなら」
「ありがとうございました。さようなら、初音…あ」
慌てて言い直したけど、生放送で全国の茶の間に私の存在が公開されてしまったのは言わずもがなであった。