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『本当の地獄を見せてあげる♡』

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『本当の地獄を見せてあげる♡』

5 - もし二人が生きていればの世界線

♥

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2025年06月23日

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もし二人が生きていればの世界線です








― IF:それでも、生きてしまった ―


 


目が覚めた時、真っ白な天井が見えた。


薬の苦味がまだ喉の奥に残っている。

舌が痺れていて、体は重くて、でも、意識だけがやけに冴えていた。


――ここは、病院か。


腕には点滴。

心電図の音が、生きていることを告げてくる。

……うるせぇな、って思った。

だって、俺は死んだはずだったから。


「……ないこ」


隣から声がした。

目をやると、ベッドに腰掛けていたのは――りうら。

包帯だらけで、顔色も悪い。

でも、生きてた。


「……りうら……」


「ああ、生きてんだってさ。俺たち。

間一髪で見つかったらしい。

……ふざけてるよな。あんだけ覚悟したのに」


「……助かりたくなかったな」


ぽろっとこぼれたその一言に、

りうらが、かすかに笑った。


「お前、ほんとバカだな。

でも……俺も同じ気持ちだったよ」


どこか、冷めてた。

生き返ったのに、何ひとつ“嬉しい”と思えなかった。


罪は山ほどある。

これから俺たちは、裁かれる。

檻の中に入れられて、隔離されて、分かたれて、

たぶん、二度と会えないようにされる。


「なぁ、りうら。もしさ、全部終わったら――」


「うん」


「また会いに来てくれる?」


「……俺もそれ、言おうとしてた」


顔を見合わせて、小さく笑った。

虚無と焦土みたいなこの現実の中で、

唯一あったかい、ほんの一粒の火種。


「また、一緒に地獄、作ろうな」


「……ああ。

今度こそ、完璧に、最後まで、ふたりで」


ベッドの上で、手を伸ばして、指先だけ触れる。

それだけで、まだ俺たちは“ふたり”だった。


 



 


――数か月後。


俺は精神科施設にいた。

りうらとは別の施設。名前も顔も出せない。

でも、毎週、必ず“手紙”が届く。


内容は、くだらない。

今日の天気、病院食、看護師の顔の好み。


けどその末尾に、必ず一文だけ添えられていた。


「本当の地獄、またふたりで作ろうな。

今度こそ、誰にも邪魔させないように」

                       りうら


笑えた。泣けた。

どうしようもなく、嬉しかった。


俺も、返事を書く。

薄汚れた便箋に、狂った文字で、こう綴る。


「地獄の扉、また開けよう。

待ってる。ずっと」


 



 


“その日”は、必ず来る。

ふたりとも、大人になって、外に出られるようになったら。

社会が忘れた頃、ふたりはまた出会うだろう。


そして――


今度こそ、

世界の全部を巻き込んで、


「本当の地獄を、見せてあげる♡」


 


 


――終わらない、ふたりのIF




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