テラーノベル
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「……ん、まぶし。もう朝じゃん」
アジトのソファーで目を覚ましたすちが、遮光カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細める。
ローテーブルの上には、いるまが持ってきた新しい指令書(ターゲットの資料)が広げられていた。
「おい、全員起きろ。次の依頼だ。今回のターゲットは宝石じゃない。──これだ」
いるまが指差したモニターに映し出されたのは、一枚の美しい絵画だった。
キャンバス全体に、まるでひまわりや朝の太陽を閉じ込めたような、圧倒的に鮮やかで温かい「黄色」で描かれている。タイトルは『太陽の微笑み』。
「うわぁ、綺麗……!なんだか、みことの髪の色みたいに明るい絵だね!」
らんが目を輝かせると、隣にいたみことが嬉しそうに微笑んだ。
「本当だね。俺、この絵知ってるよ。見る人すべてに幸福を与えるって言われている幻の名画なんだ。でも、今は強欲な悪徳コレクターが地下金庫に隠し持っているはずだけど……」
「そう。だから俺たちの手で、あるべき場所へ戻してやる。……で、今回の作戦だが」
いるまはニヤリと笑って、みことを見つめた。
「みこと、お前がメインだ。あの厳重な地下金庫のロックを解除するには、お前の力が絶対に要る」
「俺がメイン?……うん、任せて。みんなを一番綺麗な場所に連れて行くために、頑張るよ!」
みことはいつもの王子様のような笑顔で、力強くうなずいた。
作戦は深夜、コレクターが所有する巨大な私設ギャラリーの地下で決行された。
こさめの『音響操作(サイレンス)』によって周囲の足音が完全に消される中、みこと、らん、すちの3人は、最深部にある巨大な防壁(セキュリティ扉)の前に到達する。
扉の横にあるのは、最新鋭の生体・声帯認証システム。登録された持ち主の声の波形や、網膜のデータを完全に一致させなければ、1センチも開かない仕組みだ。すちの『共鳴破壊』でも壊せないほどの超高密度合金でできている。
「システムハックでの強制書き換えは無理だ。……みこと、いけるか?」
インカム越しに、アジトから監視を続けるいるまの声が飛ぶ。
「うん、大丈夫。──僕の歌を、よく聴いてね」
みことは優しく息を吸い込み、認証システムの音声入力マイクに向かって、そっと声を響かせた。
彼の特殊能力──
『魅了の歌声(チャーム)』。
帰国子女ならではの美しい発音と、聴く者の心を完全に奪う極上の歌声が、無機質な機械の回路へと染み込んでいく。
みことが紡ぐ甘く切ないメロディに、本来なら拒絶反応を示すはずのセキュリティAIが「魅了」され、プログラムが書き換えられていく。
画面のロック表示が、赤から、みことのカラーである綺麗な「黄色」へと変わり──ガシャコン、と重厚なロックが解除された。
「すごい……!機械までみことの歌声に惚れちゃうなんて、さすがだね!」
らんが小声で拍手する。
「ん、さすがみこちゃん。相変わらず綺麗な声。……じゃあ、サクッと入れ替えちゃおう」
すちが用意していた寸分違わぬ偽物の絵画と、本物の『太陽の微笑み』を鮮やかな手つきで入れ替える。本物の絵画をケースに収め、任務は完了した──かに見えた。
だがその瞬間、部屋の照明が真っ赤に染まり、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
『──警告。重量の分子密度が一致しません。侵入者を感知、隔壁を閉鎖します』
「しまっ……!絵画の『絵の具の重さ』まで感知する特殊センサーだったか!?」
いるまの焦った声が響くのと同時に、背後のハッチが閉まり、廊下から武装した警備ロボットたちが一斉になだれ込んできた。
「みこちゃん、らんらん、俺の後ろに──」
すちが能力を使おうと前に出た。
その時、みことがすちの前に一歩踏み出した。
「すちくん、ここは僕に任せて。──二人とも、耳を塞いで!」
みことは胸に手を当て、今度は優しく囁くような歌ではない、心の奥底を震わせるような、圧倒的に力強い「王の歌声」を響かせた。
空間全体に広がる、黄金の波動のような歌声。
「──『 僕 の 虜 に な っ て 』」
その瞬間、銃を構えて突撃してきた十数機の警備ロボットたちが、一斉にその場に停止した。
それだけではない。ロボットたちのカメラアイが親愛を示す緑色に変わり、まるで偉大な主君を仰ぎ見るかのように、みことに向かって一斉に深々と頭を下げ(お辞儀をし)始めたのだ。
機械の電子頭脳すらも、みことの圧倒的な『魅了』の力には抗えなかった。
「……ワオ。いつ見ても、みこちゃんのこれは圧巻だね」
すちが呆気にとられたように呟く。
「さあ、今のうちに脱出しよう!」
みことは『太陽の微笑み』をしっかりと抱え、らんとすちの手を引いて走り出した。
裏口へ飛び出すと、そこにはすでになつが運転する脱出用の黒い高級車が、エンジンを吹かせて待機していた。
「遅い。待ちくたびれたぞ」
なつがニヤリと笑う。
「なっちゃん!ごめんね!でも見て、無事に回収できたよ!」
みことが車内に滑り込み、絵画を見せると、助手席にいたこさめが「わあ、本当にみこちゃんみたいにキラキラしてる!」とはしゃいだ。
夜のハイウェイを猛スピードで駆け抜ける車の中。
手に入れた絵画の黄色い輝きが、6人の怪盗たちの顔を温かく照らしていた。
「やっぱり、みんなと一緒ならどんな場所からでも盗み出せるね」
みことが満足そうに微笑むと、いるまがインカム越しに「当然だろ」と不敵に笑った。
コメント
2件

とても良かったです!みこちゃんのセリフが何故かキュン?としたような気がします。体調に気をつけてください💦 また続き待っています
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しずく@病み×鬱