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病室は静かで、時折聞こえる機械の音だけが空気を引き締める。
祐杏は、すっかり弱っていた。
顔色も悪く、呼吸が浅くなり、時折目を閉じては息を吐く。
笑都はその隣に座り、手を握りしめていた。
何度も何度も、祐杏の名前を呼んでは微笑んだ。
「祐杏裙」
小さな声で呼びかけると、祐杏がやっと目を開けた。
その瞳は、すでに生命の力が薄れているようだった。
「…笑都彡」
「、うん、ここにいるよ」
祐杏は弱々しく微笑んだ。
その笑顔は、笑都にとっては、どんなに辛くても大切なものだった。
「俺、もうすぐだな」
「うん」
「怖くないのか?」
「怖くないよ。だって、祐杏裙が最後までそばにいてくれたから」
その言葉に、祐杏の目から一筋の涙がこぼれた。
そして、すぐにそれを笑都が拭う。
「…泣くなよ」
「ごめん」
「もう泣かないで」
「うん」
笑都はしっかりと祐杏の手を握り返した。
その温もりを感じながら、祐杏はふと、遠くを見つめるように目を閉じた。
「でもな、笑都彡」
「なに?」
「俺、幸せだった」
その言葉を聞いて、笑都は言葉を詰まらせた。
でも、何も言わずに頷くしかなかった。
「俺も、すごく幸せだったよ」
「ありがとうな」
「ううん、わたしこそ。ありがとう」
時間が、少しずつ過ぎていく。
その間、二人はただ、手を繋いで静かな時間を過ごしていた。
「祐杏裙」
「うん?」
「わたしね、約束したんだよ」
「約束?」
「“祐杏裙のこと、絶対に忘れない”って」
「お前、強いな」
「だって、わたしは忘れない。祐杏裙のことも、わたしの中でずっと生き続けるから」
「…ありがとう」
「だから、安心してね」
その言葉を最後に、祐杏の呼吸が止まった。
その瞬間、世界が止まったような気がした。
彼の手のひらの温もりが、少しずつ冷たくなっていく。
笑都は、祐杏の手を握りしめたまま、静かに目を閉じた。
――彼がいなくなったことが、まだ信じられなかった。
でも、それでも、笑都は祐杏との時間を大切にすることを誓った。
祐杏が生きた証、二人で過ごした日々は、決して消えない。
それは永遠に、笑都の心の中に刻まれ続ける。
***
数日後、彼の葬儀の日。
笑都は、涙を堪えて祐杏の遺影の前に立った。
「さよなら、祐杏裙。わたし、頑張るよ。祐杏くんのために」
その言葉を最後に、彼女はゆっくりと目を閉じた。
そして、心の中でそっと誓った。
――祐杏裙、ありがとう。
どんなに時が経っても、あなたのことを忘れることはないよ。
わたしの中で、ずっと生きていてくれるから。
それが、笑都が祐杏に対する最後の言葉だった。