出発を急かすように鳴るメロディーに自然と駆け足になり、少し足が縺れそうになる。
それに気付いき三途さんが少し強引に後ろに引き寄せ肩を抱かれる形になりながら乗り込めば
「お前さんは危なかしいンだよ。ちったぁ大人しく出来ねーの?」
と眉を顰める溜息を吐く、そんな彼が何故かいつもより頼もしく感じた。
「ごめんなさい。以後気をつけます。」
素直に謝ればクシャクシャと髪を乱雑に撫でられ口角を上げる三途さん。胸が傷んだ。
嘘、こんなの知らない。
だって、蘭にこんなに心配された事はない。実際はあったかもれないけど、私が自惚れるに足らない位で自分がいかに遊ばれてたのかが分かってしまう。
目の前の人とあの人を比べると涙を流して拝めれる位に三途さんの対応は優しかった。
席に着いてすぐは蘭の事、名古屋に着いたら何するかと話してたのも束の間。暫くしたらお互い話す話題も見つからず、二人の間に沈黙が訪れる。
それを破るかのように、三途さんがゴソゴソと何かを取り出そうと漁っている。
声掛けようか迷ってるところお目当ての物が見つかったらしく、こちらへ振り向いたと思ったら
「コレ。俺だけ飲むのも気ぃ引けるし、やるよ。」
手渡されるペットボトル。中身は水だった。
しかも、まだ冷えており先程まで恥ずかしいくらいに熱かった手もじんわり冷めていく。
「いいんですか?お言葉に甘えて頂きます。」
心地好い温度を手放したくなくてニコリと笑みを浮かべて一口飲む。
甘い。ゴクゴクとラベル真ん中まで飲み進めれば、満足そうに窓の外に視線を移す三途さん。
嗚呼。そうか。いつも飲む水より甘い水は、きっと隣にいる彼のせいだ。
「あ、三途さん。もしかしたら一瞬富士山見えるかもしれませんよ!」
彼の髪より赤くなった頬と芽生えかけた感情から意識を逸らしたくて、名古屋から東京に来た時の記憶を頼りに彼に告げる。
三途さんも新幹線に乗るのは初めてじゃないハズなのに、嬉しそうに口角を上げて「そうか。」と一言呟いては再び黙り込んだ。
不思議に思い窓の外に目をやれば見慣れた都会の街並み。
自分がいう頃には静岡を通り過ぎたと気付き思わずまた赤面してしまう。
気を紛らわす為に、これからリスタートする自分の人生を思い浮かべ胸を弾ませる。
名古屋から再び始めるんだ。私のやりたかったこと、そこヘ置いてきた夢を叶えるために。
正直三途さんはただ優しいのか不器用なのか、裏があるかは分からない。それでもこの人なら何故か守ってくれる気がした。夢を追いかける私の背中を押してくれる気がする。ただそれだけの話。