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数年前の夏の日だった。暁山が、車に轢かれた。オレが、オレがもっと注意深かったら起こらなかった出来事だったんだ。


「……」


目の前に現れたのは、最近は全く行っていないが少し前に気に入っていたセレクトショップへ向かう時に使っていた道。これは夢、だろうか。そういえば暁山が起きなくなったのは暁山と恋仲になって数回目のデートの帰りだ。この道も通った記憶がある。今思えば最初は何となく好意があっただけだった。でも、何回も恋仲としての行動をしていると自分の気持ちも明確になるわけで、本当にオレは暁山が好きなんだとやっと実感できた時期だった。 だからこそ、あの出来事はより一層辛く感じた。しばらくして、オレと暁山が見えた。久しぶりに、暁山の瞳を見た。あの出来事から暁山は目を開けていなかったから。例え空想でも、あの瞳をまた見られたことは嬉しかった。


『いやぁ、弟くんオススメのセレクトショップ、ほんとにセンス良かった!常連になっちゃいそう!』

『おー、それは良かったが、いい加減弟くんってのやめろよ』

『ん〜、まぁ確かに。折角付き合ったんなら友達の弟くんとしてじゃなくて恋人として、見て欲しいよね?』

『……その言い方やめろ』

『あっはは、大当たりだね』

「な、んで……」


一語一句、あの時と変わらない会話だ。服や、メイクだって何もあの時と変わらない。なら、この先に起こることは、暁山が車に轢かれること? なんで、なんで大切な、愛する人が事故に遭うことを2回も体験しないといけないんだ。こんな夢、早く終わってくれないか。


『お、信号青になったぞ』

『……』

『暁山? どうかしたか? 置いてくぞ』

『あ、ごめん……って、弟くん!』

『なん……へ?』


暁山がまた轢かれた。暁山は呆気なく瞼を閉じた。過去のオレは間抜け面で、瞳には何も映っていなかった。


「……オレ、ほんとに何も出来なかったんだな」


未来を知っているのに暁山を救うことは出来なかった。何故か身体が動かないのだ。暁山から出る赤黒いモノの気持ち悪さと自分の情けなさで不快になって、不意にふらついた。そのふらつきのせいで身体が地面に引っ張られ、視界が暗転した。

目が覚めればセカイの休憩スペースとして使っている場所だった。あの夢を見る前は何をしていたか思い出そうとするも、あの夢が邪魔をし思い出せない。なんで今ここにいるのかすら全く分からなくて、気がついたらあの夢のことを考えていた。


「……オレがもっと周りを見てれば」


迫り来る車、暁山の表情、全てのことが鮮明に思い出された。一つ一つの動きが、オレの無力さを嘲笑っている気がして、胸が痛くなる。これは、罰だろう。暁山を守りきることが出来なかった罰だ。事故どころかあの時少し悩みの顔を見せてくれた暁山にも当時は気付くことが出来なかったから、きっと暁山はまだ悩みを抱えたままなのだ。心に残ったモヤは消えるどころか増えている。自分を責めても暁山が戻ってくる訳では無いのは分かっている。だけど、昏睡状態ならばまだ、可能性があるのではないかと思ってしまう。自分を責める理由にはならないかもしれない。でも、これがもし罰なら、この罪を償えば、戻ってきてくれるのではないかと思ってしまうのだ。


「……彰人」

「とう、や?」

「あぁ、冬弥だ。白石もいるぞ」

「彰人、少しはゆっくりしなよ。びっくりしたんだから」

「分かった、善処する」

「……善処だけじゃダメなんだが」

「冗談だって、今日はもう歌わない」


そうだ、練習中にも関わらずオレは倒れたんだった。多分ストレスだろう。1回暁山のことを考えてしまうと、歌には到底集中は出来ないだろう。


「……歌えそうにもねぇし」

「…………瑞希、起きてくれたらいいね」

「……そうだな」

「すまない、少し御手洗に行ってくる」

「私も! ごめんね」

「大丈夫だ」



「彰人には申し訳ないし、嘘をつくのはやはり難しいな」

「でも、瑞希は昏睡状態なんじゃなくてもう死んじゃったなんて言ったらそれこそ後追いするんじゃない?」


彰人は暁山が昏睡状態だと思っているが、暁山はもう亡くなってしまったのだ。暁山は一生起きることはない。それを彰人が知ったら、ただでさえ今も精神が安定していないのに、それが酷くなるだろう。となると、後追いをしてしまうことも考えられる。


「……本当に、昏睡状態だったらどれだけ良かったか」

「……はぁ、彰人だけじゃなくて私達も結構参っちゃってるよねぇ」


暁山は本当に人脈が広く、暁山の死は周りに大きな影響を与えた。彰人だけでなく俺や白石にまで影響が出てしまい、Vivid BAD SQUADとしての活動を休止になってしまうことがあったり、神代先輩が不調になり、ワンダーランズ×ショウタイムとしての活動を休止してしまったり神代先輩が不調なため、司先輩も少し元気がなくなりいつもの学校の騒がしさがなくなってしまったり、暁山の所属していたサークルの曲の投稿頻度がとても落ちてしまっていたりと、ただ1人の人が亡くなってしまうだけで関係の無い人にまで影響を与えてしまうぐらい、暁山は人脈が広かったのだ。


「……そろそろ、戻らないと行けないな」

「うん、そだね」


俺たちは、彰人を救わなければならないのだと思う。いつか彰人に本当のことを話して、受け止められるような状況を作っていかないといけないのだろう。中々難しい問題ではある。でも、絶対に彰人を救ってみせる。



「……あき、やま」


最近、寂しくなることが多い。いつもからかって来て、うざったく思うあの声がなくなるだけで、オレはこんなになってしまうのか。この寂しさを埋めるためにはきっと、暁山と話さなければならないのだろう。でも、そんなことは不可能だった。暁山の入院している病院も知らないから、もし起きていても会いに行くことすらできない。


「……」


いっそ、本人は死んでいないが後追いでもしてしまった方が楽なのだろう。でもきっと冬弥達が止めるのだろう。止めなくとも、絵名が結構荒れているから後追いしようにもできない。だから、絵名が安定してからではないとダメだろう。


「彰人、すまない。遅くなってしまった」

「あ……いや、大丈夫だ」

「彰人も歌えそうに無さそうだし、もう解散かな?」

「そうだな、小豆沢も居ないし、今日のところは解散としよう」

「了解! じゃ、またね〜」

「あぁ、また。俺も帰らねば」

「オレも帰る。じゃ」

「また学校で」

「はいはい」


後追いなんて、馬鹿らしい。暁山は生きているんだ。暁山が起きるのなんて、一生かけてまで待ってやる。

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