シャワーを浴びてリビングに戻ると、涼ちゃんは床に座って沢山のプレゼントと包装紙に囲まれていた。俺に気づくと顔を上げて眩しいくらいの笑顔を浮かべる。
「若井!これ、ありがと〜!!」
俺が用意した、涼ちゃんが好きなスポーツブランドのランニングセットを手に持っている。
白いキャップと鮮やかな青のウインドシェル、それにシューズ。
「あれ…なんで俺からって分かったの?」
「え。……なんでだろ?見た瞬間若井からだって決めつけちゃってたけど、ほんとだね…」
うーんと少し考えてから、涼ちゃんがウインドシェルを手にとって体に当てる。
「青いからかな?若井の色」
ふふ、と嬉しそうに目尻を下げる彼の姿に、油断すると勘違いしそうになる。ねぇ涼ちゃん、そんな風に笑うと俺の色を身につけることが嬉しいみたいに見えちゃうよ?
思わず笑顔から視線を逸らし、床に落ちていた包装紙を拾い上げる。
「涼ちゃんが今毎日ジョギングしてるって知ってるの、俺くらいだしね」
妥当な理由を挙げて心を落ちつかせる。手の中の包装紙を軽くたたみながら、彼に微笑みかける。
「明日…っていうかもう今日だけど、何かしたい事ある?レッスンが休みなんて久しぶりだよね」
「ほんとだね〜、何したいかな……うーん………あ!」
思いついた、と少し悪戯っぽい顔で彼が声を上げた。
「え、眠い………」
俺は思わず声を漏らした。時刻はまだ午前6時。普段なら間違いなく寝ている時間だ。
隣からふふ、と笑い声がする。
俺がプレゼントしたシューズを履き、半袖のTシャツの上から青いウインドシェルを羽織った涼ちゃんがニコニコしていた。
「一回若井と一緒に走ってみたかったんだよね、付き合ってくれてありがと〜」
「全然いいけど、俺そんなに走れないよ多分…邪魔しちゃわないかな」
涼ちゃんからの「お誕生日にしたい事」のリクエストは、まさかの「一緒にジョギングしよう」だった。
ずっとダンスのレッスンを受けているから運動不足ではないけど、走るなんていつぶりだろう。
「若井のペースで行けるとこまでにしよう。帰りはお散歩がてら歩いてもいいよね」
言いながら彼が手に持っていた白いキャップを被ると、 いつもよりキリッと美しく見え、見惚れてしまいそうになる。
「…似合ってる」
「嬉しー、おれも気に入ってる。ありがとうね!」
少し照れたように笑い、首を横にコテンと倒す涼ちゃんが可愛い。俺がプレゼントした俺の色の服を着てくれている、それだけのことでこんなに心が満たされるなんて知らなかった。
屈伸を始めた彼の真似をして、2人で軽い準備運動をする。
「じゃあ、行こっか!」
ゆっくりと走り出した彼に、俺も続いた。
朝早いから人通りは少なく、まだ空気がひんやりとしていて気持ちが良い。ゆっくりとしたペースで走ってくれるからどうにか付いていけそうだ。涼ちゃんの隣に並んで走り、いつもお土産話に聞いていたあれこれを教えてもらう。
「ほら、あそこのお家だよ〜、いつもネコちゃんがこっち見てる」
「こないだ言ってた工事中のお店さ、あそこなんだけど、パン屋さんっぽいよね?」
「あっ見て、アジサイがちょっと開き始めてるよ〜!」
軽快に走りながらめちゃくちゃしゃべるな。俺はすでに息が上がっているのに、楽しそうな彼に毎朝積み上げてきた努力を感じて改めてすごいなと思う。
住宅街を抜けて大きな公園についたところで彼はスピードを落とし、早歩きになった。
「ふー、気持ちよかった!ちょっと休憩しよー」
あつー!とウインドシェルを脱いで腰に巻き付けた彼が、こっちーと案内してくれる。
ベンチと自動販売機がある場所につくと、ポケットから小銭入れを出してスポーツドリンクを買ってくれた。
「あ、りがと……」
ベンチに座った俺はまだ息が整わず、なんでこんなケロッとしてるのこの人?と不思議な気持ちになりながら貰ったペットボトルに口をつけた。
「若井も走れるじゃん、さすが元サッカー部」
「いや、いつの話よ……全然だわー、きつ…」
スポーツドリンクを飲みながらこちらを見てふへへ、と変な声で笑う涼ちゃんに首を傾げ、視線でなに?と問いかける。
「いや、若井っていつも余裕ある感じするからさ、なんか珍しくて…可愛いなと思って」
「……うん、可愛いでしょ」
「肯定するんだ」
だはは、と笑う彼を見ながら可愛いのは涼ちゃんだよと思う。
朝日を浴びた笑顔がキラキラして、でも少し上気した頬や首を伝う汗がなんだか艶かしく見えて、ジョギングで上がった心拍数がなかなか落ち着かなかった。
しばらくの休憩の後、俺たちは来た道を戻ることにした。帰りは行きよりも楽に感じて、会話を楽しみながら走れた。
「一緒に走れてめちゃくちゃ楽しかった〜!誕生日プレゼント、ありがとね」
微笑む彼に、こちらこそプレゼントを貰った気分だった。この生活の終わりにいい思い出ができたな、と余計なことを思い出してしまう気持ちを押し込めて笑いかける。
「俺も楽しかったよ、誘ってくれてありがと。さー、朝ごはん何にしようかね〜」
「わー、そう言われると急にお腹すくー!」
笑い合いながら俺達の家へと帰って行った。
コメント
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初めまして! とてもどストライクな💙💛だったので思わずコメントしてしまいました☺️ 💙様のとっても暖かくて優しい愛、大好きです😍 続きを楽しみにしております!