夜の帳が静かに街を包むころ、事務所の一室で敦はソファに沈み込んでいた。書類整理を終え、ようやく一息ついたところだった。
「敦くん、疲れてる?」
突如、背後から甘やかな声が降ってきた。温もりと共に肩に回される腕。振り向く前から、誰のものかはわかっていた。
「太宰さん……驚かさないでくださいよ」
「ふふ、そんな顔しないで。ほら、目の下にクマができてる。可愛い顔が台無しだよ?」
敦が抗議の言葉を探す間もなく、太宰の指先がそっと頬をなぞった。その動きがやけに優しくて、敦は一瞬言葉を失う。
「本当に、敦くんは無防備だね。こんなに近くにいるのに、何も警戒しないなんて……」
「え……?」
気づけば、太宰の顔がすぐそこにあった。息が触れそうな距離。心臓が跳ねる。
「敦くん、君は私のものなんだから、もう少し自覚してくれないと困るな」
「……っ、そんなこと……」
反論しようとした唇を、太宰の指がそっと塞ぐ。
「言い訳は禁止。……ねぇ、敦くん?」
そのまま、太宰は敦の顎を軽く持ち上げる。視線が絡み合い、逃げ場を失った敦の唇に、太宰の唇がそっと重なった。
温かく、しかし強引ではなく、まるで大切なものを確かめるかのような口づけ。
「……ふふ、やっぱり可愛いな、敦くんは」
「……ずるいですよ、太宰さん」
頬を赤く染めながらそう呟く敦に、太宰は満足げに微笑んだ。
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