ラクルという町に来た。
ここは腕試しや資金稼ぎにもってこいのダンジョンが周辺にいくつも点在している。倉庫の町であるというのも都合がいい。冒険者と商人にとって即決即断出来る場所だからだ。
「し、失礼しますっ! アック・イスティです」
僕にとって耳障りな声を張り上げ、彼は扉を開けてきた。緊張を隠さずにおどおどした態度で入って来る辺り、今までこの部屋に立ち入ることを許されなかった下っ端といったところか。
部屋に入ってからもびくつきを見せているのが何よりの証拠。強そうな部分は一切見当たらず、てんで弱そうだがユニークスキルがあるならこんな奴でもかまわない。
僕はすかさず”上の人間”に聞いてみた。
「――彼がそうかな?」
「はい、その通りでございます。あとはよろしくお願いします」
戸惑いを見せることもないとは。いなくなってくれて良かったといったところか。
「あぁ、ありがとう。あなたは代わりの番人を探しておくといい」
まずは自己紹介といこうか。僕がユニークスキルのことを既に知っていることは彼には言わないでおこう。
「さて、アックくん」
「……え?」
「おめでとう! 君は僕たちの仲間となった。つまり冒険者パーティーに加わった、ということを意味する」
「で、でも倉庫の仕事がまだ残って――」
あぁ、そうか。ついさっきまで倉庫で真面目に仕事をしていたわけだ。可哀想な男だ。
そうではないな。むしろ幸運と思ってもらわなければ。僕たちのパーティーに入ったからには、思った以上の働きをしてくれるだろうしそうでなければ意味が無い。
「光栄に思うことね! 本来なら声がかかることもないあなたが、聖女であるわたくしの荷物持ちとなるなんてあり得ないことですもの」
エドラは打ち合わせ通りのタイミングで割って入ってきたな。
「面倒くせぇ……いいか、倉庫番!! おっと、荷物持ちのアックって名前だったかぁ? 今からお前には、賢者であるこの俺の言葉に従ってもらう! 文句は言わせねえぞ?」
テミドの奴は予想通り。いや、それ以上にアックの敵対心を高めてくれた。この状態なら面白い反応を見せてくれるだろうな。
「そして僕が、賢者と聖女のリーダーでもある勇者というわけなんだ」
「賢者と聖女のリーダーで、ゆ、勇者……!?」
彼は予想通りの驚きを見せてくれる。勇者というだけでそこまでのけ反らせなくてもいいのにな。
とはいえ、その辺の冒険者――それこそ底辺冒険者でも耳にしているはず。Sランク冒険者はそう簡単にはなれないものだ、とね。まして勇者グルート・ベッツ、賢者テミド・ザーム、聖女エドラ・シーフェルといった最強パーティーが一堂に会していれば無理も無いか。
「さて、倉庫番のアック・イスティ。このままずっと倉庫番として生きるのはもったいないと思わないか?」
「……でも仕事が」
「悪いが倉庫の仕事はクビにしてもらったんだ。急ですまないが君には期待しているのでね」
「ど、どうしてそんなこと……」
「君について興味深い話を聞いているからだよ」
そう簡単には納得出来るはずも無いだろうが。ここはエドラとテミドに任せるか。
「フフッ。あなたはわたくしたちによって、使われるべきものということにお気づきではなさそうね」
「だから荷物持ちとして仲間に?」
「へっ、そんなのは聞くまでも無いことだ! 冒険者でもないアックが同行出来るとすれば、荷物持ち以外あり得ないだけの話だ! 分かったなら今すぐ支度しろ!! グズめ」
逆らっても無駄と思ったのか彼はすぐに身支度を始めた。
いいぞ、それでいい。だが、倉庫をクビになりガチャスキルが使えないと分かったその時――アック・イスティには魔物と共に消えてもらう。それが僕たちSランクパーティーにとって傷つかない結末であり最善の道。
それまで、アックくんにはせいぜい楽しませてもらうとしようか!
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