コメント
0件
「そうそう、こんな感じで手の平に魔力を集中させて……」
「こ、こうですか?」
「筋がいいね、あんた。これなら今すぐにも魔導書を読むことが出来そうだ」
おれたちはラクル港から船に乗り、魔法国であるレザンスにやって来た。レザンスへはわずか一日ほどの航海だった。
宝剣フィーサ、水棲怪物であるスキュラ。彼女たちから発される気配でかなり目立っていたらしく、着いて早々怪しげな魔法士に声をかけられた。
「それは≪宝剣フィーサブロス≫!? あんた、何者だい? 一体どこから……いや、ひとまずギルドへ来てもらうとしようかな」
大きすぎる樽を背負って歩いていたルティだけが何故か行商人として勘違いされ、別の意味で人だかりを作った。
「ひぃぃええ~!? どうすればいいんですか~?」
「おれはひとまずギルドに行って来るから、そこで待っててくれないか」
「分かりましたぁぁぁ!? あ~!! こ、これは売り物じゃありませぇん!!」
赤髪でドワーフな彼女はとても目立つ。そのせいか割と注目を集める傾向にあるようだ。もっとも、まだルティ本人からドワーフなのだということを聞いてはいないが。
今さら聞くまでも無く言うほどでもない――などと、おれも彼女も思っているからだな。ドワーフは決して珍しい種族ではない。だが巷に聞いていた話と違い、彼女は親しげなドワーフだ。
「ここが入り口だよ。さぁ、入って」
おれたちは言われるがままに、怪しげな女性とともに年季の入った建物の中へ入った。
それにしても当初の予定では、スキュラから魔法を教わるつもりだった。ところが彼女の使用属性は水属性ばかりなうえ、細かな教え方が分からないと言われてしまい途方にくれることに。
「あたし一人だけなら使えるんですけれど、アックさまにお教え出来るようなスキルは持っていなかったですわ」
「……それは困ったな」
意気込んで教えようとしてくれた気持ちは嬉しかったが、結局スキュラはルティと一緒に外に待機させざるをえなかった。
宝剣フィーサに至ってはずっと眠っているままだ。彼女曰く、その時が来たら眠れなくなるから今のうちにたくさん眠っておきたいということらしかった。
「宝剣使いの……あんたのお名前は?」
「アック・イスティ。おれは宝剣使いでは無いが、ともかく魔法を――」
「あぁ、そうだったね。アックさん。まずはレザンスの魔法ギルドへようこそ! 私はギルドマスターのバヴァル・リブレイだよ」
「――どうも」
ギルドマスターと名乗っているがどういうわけか建物の外はもちろん、部屋の奥からも人の気配は感じられない。魔法ギルドというのなら、所属する魔法士向けの依頼がそこかしこに貼られていてもおかしくないのだが。
それにバヴァルと名乗った老齢な女性は、ギルドマスターの割に随分と腰が低い気がする。それともラクルと同様に、滅多に訪れないギルドに人が久しぶりに訪れたからだろうか?
「ところで、その宝剣を手にしているということは魔法剣を習得したいお考えですな?」
バヴァルの言葉を聞く限りフィーサは相当な剣のようだ。宝剣というだけでも十分に目立つが、英雄が長年に渡って手にしていたこともあるとしたら、持っているだけで目を引く。
宝剣持ちというだけなのに、この流れでは自然と魔法を覚えることになりそうだ。魔法剣となると元々のフィーサの強さに加えて属性を付与することになるはず。そうなれば何が来ても負けないだろうな。
「……むむ? アックさんにはすでに魔力が備わっておりますね」
「それは前々から言われていますよ」
「これまで魔法をその身に受けたことが?」
「一応は……」
正確には状態異常魔法で死にかけた上に睡眠耐性もついてしまっただけだが。
「それならば当ギルドの魔導書に触れるだけで適正の魔法スキルが覚醒するかと」
「魔導書? 適正……?」
「アックさんはまだこれといって決まった属性はお持ちでは無いでしょう?」
スキュラから教わることが出来ていれば、とっくに水属性は身に着けていただろうけどな。
「そうですが……」
「どれ、手の平に魔力を集中させてごらんなされ」
ルティのように拳に力を込めてみた。
「ぬぅぅ……!」
「ふむ、筋がいい。これなら問題なさそうだね」
レア確定な魔石ガチャを所持しているし当然だな。しかし、ガチャをしない時は攻撃魔法の類は打てないし使うことも出来ない。
どうせなら自分の意思で魔法を撃ちたいものだ。どんな強力なものでも歓迎するし、とんでもない化け物クラスでも出せたら嬉しい。
「こんな適当に力を込めた手の平なのに?」
「それを魔導書は判断するのです。あなたにとって相応しい魔法スキルを導き出す……それが当ギルドの魔導書なのですよ」
「触れるだけでいいなら、ぜひ!」
「ではお待ちを……」
そういうとバヴァルは奥にある書庫から埃だらけの魔導書を手にしてきた。
絶対今まで使ったことないだろ。
「けほっ……では、表紙に手を乗せて」
「あ、あぁ、まぁ……ゴホッゴホッ」
何ともひどい埃だ。それでも触れるだけならと思い、古びた魔導書に触れてみた。
「――!」
一瞬だったが触れた途端に熱のようなものを感じた。これはガチャ直後に熱くなる魔石の感じによく似ている。
「――むっ!? 表紙の絵が……変化し始めた」
「えっ? 変化?」
魔導書の表紙の絵は何かの英雄が描かれていたが、若干絵が変わった気がするだけで自分の中で何かが起きた感じはしない。
「……適正が下されました。アックさん、あんたには限定召喚と全属性、そして全精霊のスキルが覚醒しましたな。召喚に関して言えば何かの触媒でもって強化されますでしょうな」
何を言うかと思えば、
「召喚!? それに全属性に全精霊? それに限定召喚とは?」
「アックさんは魔石をご存じかな?」
存じるも何も既に所持しているが黙っておく。
「――ま、まぁ」
「アックさんが召喚をするには魔石が必要となるのですよ。そして魔石を介した召喚は、何らかの力を限定的に現わすことでしょうな」
「……魔石を介して?」
「いずれにしても全てにおける適正がなされた。アックさんには、ぜひとも宝剣に魔法を付与して欲しいものですな」
こんな簡単にと言ってはいけないが、全属性が使えるなんて幸運すぎる。召喚は外で試すしか無いが、依頼でも受けてやってみるか。