シクフォニの色は【ヒーロー】の色
暇72はとにかく強い赤色
こさめは川のように心優しい水色
LANは可愛く目立つ桃色
すちは真面目で清潔な緑色
みことは皆を明るく包み込む黄色
あれ?1人余っちゃった。
でも大丈夫。お前にもちゃんと役割は
あるんだよ。
いるまは暗くて地味な紫色。
紫色は悪役の色、他の5色の引き立て役。
____ほらね、とっても大事な役割だろう。
夜の静かな屋根の上。
いるまは1人物思いに耽っていた。
冷たい夜風が体を冷やしていくのも気にせずに、ただぼんやりと東京の街並みを眺める。
·····懐かしい夢を見た。いつの思い出かも曖昧な遠い過去の記憶。
小さなテレビの前で特等席を争って押し合い圧し合いしながら見ていた番組。それは男子なら1度は見たことがあるだろう、ありきたりなヒーロー番組。いつもなら母さんに起こしてもらう苦手な朝も毎週その日だけは自分から起きて今か今かと待っていたのを覚えている。
テレビの中では5色のヒーローが鮮やかに敵を倒していた。赤、水、桃、緑、黄·····
内容なんて全く覚えてなんかいないけどその5色だけは今でも鮮明に思い出せる。
あ·····忘れてた。もう1色覚えている色があった。紫色、敵のボスの色。いかにもボスですって言ってるようなえげつない見た目をしていたものだから、当時の俺らはソイツのことが大嫌いだったっけ·····
『母さん新しいクレヨン買ってよ!』
『もう使ったの?この間買ったばかりじゃない』
『だって母さん1つしか買ってくれないじゃん。俺達6人もいるんだから1つじゃ足りないよ!』
『そうだよ。なつのやつ酷いんだよ。俺が使いたい色横取りしたんだ。』
『それはお前もだろLAN。』
『俺も取られてばっかだから好きな色自由に使いたいよ!』
『あ、みことくんずるい!それだったらこさめも自由に使いたいよ!』
『母さん俺も!』
『俺も俺も!』
『そうね·····じゃあ今度は1人1箱買いましょうね。』
『『『『『わ〜〜い!!!』』』』』
言わずもがな、ヒーローにハマっていたその時の俺らが1番使ったのはあの5色。勿論それ以外の色も使っていたが、やはり1番最初になくなる色と言えばそれだった。そして、逆に誰1人として手をつけなかった色もあった。それは·····
『あら、紫だけ何でこんなに残ってるの?1度も使っていないじゃない。』
『紫きらーい』
『こさめも紫はいやだ』
『どうして?』
『だって紫はあの気持ち悪いのと一緒だもん!』
『酷いんだよ』
『とっても悪いやつなんだ』
『だから紫色なんて大っ嫌い!』
そう·····この頃の俺らにとって紫色は大嫌いな色だった。子供は単純だ。ヒーローの色だからその色が好きになり、敵の色というだけで嫌いになる。だから紫が嫌いになるのは当たり前で仕方ないこと。仕方がないことなのだ。それにほら、今では嫌いだったことなんて覚えてすらいないじゃないか。過去をズルズル引き摺っている者など誰もいない。
____ただ1人、いるまを覗いて·····
「はぁ·····嫌な夢」
小さくそう呟き目を閉じればあの時の言葉が脳内で再生される。
『紫きらーい』
なつがへらりと笑いながらそう言う。
『こさめも紫はいやだ』
こさめもそれに便乗するように言う。
『だって紫はあの気持ち悪いのと一緒だもん!』
すちが顔を顰めながらそう言う。
『酷いんだよ』
みことが訴えるようにそう言う。
『とっても悪いやつなんだよ』
LANが頬を膨らませながらそう言う。
『『『『『だから紫(いるま)なんて大っ嫌い!』』』』』
くるりとこっちを向いて5人はそう言う。
その顔は怒っているわけでも軽蔑しているわけでもない。怖いくらい無邪気な笑顔だった。
「·····ッ!!」
ガバッと顔を上げれば目の前には相変わらず東京の町並みがあってここが屋根の上だと再確認した。心臓がバクバク音を鳴らしている。息がうまく吸えない。震える身体を抱きかかえるようにしてる。
大丈夫、大丈夫・・・アレは現実じゃない。あの優しいメンバーがあんな事言うはずがない。
そう何度も言い聞かせるのに一向に震えは止まってはくれない。夜の静けさを破るように荒い息遣いが響く。頭が真っ白になって何がなんだか分からなくなった時不意に頭の上に温かいものが置かれた。驚いて顔を上げると同時に目の前に鮮やかな桃色が広がる。抱き締められているのだと気付くまで暫く時間がかかった。
夜風で冷え切った身体が温められていく。優しく背中を撫でるその手が、自分よりも高い体温が心地良くて………思わず泣き出しそうになって慌てて引き剥がすように相手を押した。そうすれば相手はすんなりと離してくれてバチリと目が合う。そこに居たのはLAN。センターの桃を背負う、シクフォニのリーダー。
「もうへ〜き?」
「……..」コク
ただ小さく頷く事しか出来なかったがちゃんと理解してくれたようだ。何も咎めずに静かに隣へと座ってくる。1番頼りにくいリーダーはこういう時、心配した表情を決して見せない。いつもどおりの態度で接してくれる。まるで何でも分かっているかのように。
「..なぁLAN」
「ん〜?」
暫く無言が続いていたが、それを先に破ったのはいるまだった。
「…俺らの色ってさ。【ヒーロー】の色に似てるよな。」
そう口に出す声はわずかに震えている。きっと外が寒いからだと必死に言い聞かせて気付かない振りをした。けど何時まで経ってもLANから反応は無い。きっとLANは呆れてるんだ。いい大人がメンバーの色をヒーローなんかに例えてるから。そう言い聞かせるのに思考は悪い方へと傾いてしまう。
ほら·····否定しないじゃないか。きっとLANだってヒーローの色だと思ってるんだよ。だから何も言わないんだ。自分だって分かってるんだろ?他のメンバーとは違うって。悪はずっと悪のまま、どんなに頑張った所でヒーローにはなれないんだよ。
「ごめんLAN、俺もう寝るな。」
耐えられなくなって思わず逃げるように部屋へと戻ってしまった。あぁ最低だ。せっかくLANが心配して来てくれたのに….
自己嫌悪に浸ってしまい、その夜は結局眠れなかった。翌朝、どう顔を合わせていいのか分からなくなって泊まりに来たLANが目を覚ます前にそっと布団から抜け出し公園へと行く。出迎えてきてくれた猫たちに持ってきた煮干しをやると嬉しそうにかぶりついてきた。その愛くるしい姿に荒ぶっていた心が落ち着く。
「LANに謝らないと·····」
そうだ。謝らないと·····LANの好意を無駄にしたことを謝らないと。そう心に決めて公園を出ようとすれば後ろからエールを送るように猫達の鳴き声が聞こえてくる。その声に勇気をもらいながら、いるまは家へと戻って行った。
「お、来た来た。いるまおかえり〜」
猫に会いに行ってきた俺を待ち構えていたのは目的の人物であるLANだった。早速謝ろうと口を開く前にヒョイっと抱えられ、履いていたスリッパが音を立てて、床へ落ちる。驚く俺をお構い無しにLANは意気揚々と2階の部屋へと連行していった。
「いるま連れてきたよぉ」
ドアを開ければ何故か他のメンバーも揃っていた。まるで俺を抱えてくるのを知っていたかのように誰も驚かない。いや、絶対なにか知ってるだろ!怖いんだけど!?
「俺さ、昨日の夜お前が言ってたこと考えてみたんだよね〜」
そのまま部屋にあるのソファーの上へと降ろされたと思ったらLANがそう語りだす。
「俺らの色を例えるなら何になるかって話。お前は【ヒーロー】の色って言ったけどさ。俺は【虹】の色だと思うんだよねぇ。てことで実際にこの場で再現したいと思いまーす!」
わけが分からない。何故そうなる?困惑する俺をよそに今度はなつが話を進める。
「まずはLAN~」
「は〜い」
なつに呼ばれて突っ立っていたLANがなつの隣に移動した。
「俺とLANは似た色同士。」
「俺の色には赤が必要!だから手を繋げる」
そう言うとなつとLANはお互い手を繋ぎ合う。いやいやいや、成人男性が何やってんだよ!
「次みこと~」
「はーい!」
「俺とみことは暖色同士」
「フワフワポカポカあったか同士!だから手を繋げる!!」
そう言って今度はLANとみことが手を繋ぐ
「すち~」
「はいはい〜」
「俺とすちくんは似た色同士!!」
「俺の黄緑には黄色が必要。だから手を繋げる
よ」
そう言ってみこととすちが手を繋ぐ
「こさめ〜」
「呼んだー?」
「俺とこさめちゃんは寒色同士」
「お互いクールな色同士。だから手を繋げる
よ!」
そう言ってすちとこさめが手を繋ぐ
今俺の目の前には一列に手を繋いたメンバー達が並んでいる。右から赤、桃、黄、緑、水·····あぁホントだ。LANの言っていた意味がやっと分かった。目の前に広がるのは5色の虹。そこに俺の入るスキは………無い。見せ付けたいんだ。
5色で良いのだと、6人も要らないのだと。
紫(俺)なんか必要ないのだと•••
分かっていたのに、覚悟していたのに。心のどこかで甘えていた。彼等なら俺を見捨てないって。彼等なら受け入れてくれるって。でもそうではなかったらしい。もう分かったから、だからお願い…もう言わないで。はっきり要らないと言われたら、きっと俺は壊れてしまうから。
だからもう何も言わないで…..どんなに願ってもどんなに懇願してもメンバーはただじっと俺を見ているだけ。あの夜の夢と同じ、怖いくらいの無邪気な笑顔で…
止めてと言いたいのに喉がカラカラで声が出ない。耳を塞ぎたいのに身体が硬直して動かない。俺の瞳は無慈悲にも口を開くなつをとらえる。あぁ言われてしまう。俺を殺す言葉を·····
「けど俺が求めているのはこんな虹じゃない。」
しかし聞こえてきたのは全く違う言葉。訳が分からず5人を見れば相変わらずの笑顔で見つめてくる。でも何故だろう。さっきはあんなに怖かったその笑顔が今はとても優しく見える。
「これだと前しか向けない、これだとメンバーの顔が見られない。だから俺は考えた。輪になろう。輪になれば見つめ会える。全員の顔がよく見える。だから輪になろう。」
「簡単だよ、端と端が手を繋げば良いだけのこと。だけど困ったなぁ。なつくんの色は赤色、こさめの色は水色。」
「似た色同士じゃない。暖色同士でも寒色同士でもない全く違う別の色。これじゃあ手は繋げない。」
「欲しいな欲しいな違う色!2つを繋ぐ別の色!」
「赤、青混ぜると何になる?教えてよいるま」
「·····む、らさき」
口から溢れたその言葉はか細くて震えていて掠れていてみっともない声。それでもメンバー達は受け止めてくれた。顔を一層綻ばせながら語りかけてくる5人の声はいるまの固く閉ざした心を解いていく。
「ほらもうとっくに答えは出てるよ。あとは前へ踏み出すだけ。」
「だいじょーぶ!俺らはずっと待ってるから!」
「ほら欠けたピースはあと1つ。それを埋められるのはいるまちゃんだけ。」
「1人は寂しいでしょう?こさめも片手が空いてて寂しいよ?」
「6色なければ意味が無い。6人居なきゃ完成しない。いるま、俺らの望み叶えてよ。」
そう言ってなつとこさめが空いている手をさし伸ばしてくる。
あぁそうだ·····ずっと待ってくれていた。いつから忘れていたんだろう。あの輪を抜け出したのは他でもない自分だということを。俺らの色はヒーローではなく虹だったのに、ずっと前からそうだったのに·····いつからかそれは違うと、俺はみんなとは違うのだとその手を振り払ってしまった。それでも彼らは待ってくれていた。いつか戻るその日まで、ずっとずっと代わりも探さず待ってくれていた。
無意識に伸ばした手は微かに震えている。それでもその手をしっかり掴んでくれたのは心から尊敬できるメンバーのうち2人。目の前に向かい合うのは大切な天然王子。
なつとすち。
こさめとLAN。
いるまとみこと。
互いにメンバーと向かい合う
完璧な俺ら6人の虹の輪。
「「「「「おかえり、いるま!」」」」」
「·····ただいま」
シクフォニの色は【虹】の色
コメント
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すごく感動しました✨