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■ 第四章:砂嵐の間に立つ影(裏切り者編)
赤い月の照らす山道を、小隊は静かに進んでいた。
仲介人が潜むという洞窟まであと数百メートル。
だがロジンの心には、敵の行動パターンが“あまりにも正確だった”という違和感が残っていた。
「内部に情報を漏らせる人物が一人だけいる…。」
ロジンは、これまでの行動をひとつひとつ照らし合わせ、
誰が罠の位置を“知り得たか”を冷静に考え続けていた。
■ 小隊の停止命令
突然、ロジンは手を挙げ、小隊に指示した。
「全員、停止。」
隊員たちが身を屈めて散開する。
ロジンは小声で続けた。
「敵があたしたちのルートを知っていた理由が分かった。」
シラン(無線手)が不安げに尋ねる。
「まさか……本当に裏切り者が?」
ロジンは静かにうなずいた。
「ここまでの作戦経路を知っている人物は限られている。
そして、敵は私たちの配置…特にあたしの動きを正確に読んだ。」
アザルが息を飲む。
「ロジン隊長の行動は、隊の中でも予測しにくいはず…
ということは。」
ロジンは一人の隊員へ視線を向けた。
■ 指差されたのは―
ロジンが名を呼んだ。
「ホシュワン。」
皆が一斉に振り返る。
ホシュワンは若い男性兵士で、ロジンに格闘訓練で何度も指導を受けていた。
温和で、誰よりも仲間思いに見えた。
しかし、その表情に浮かんだ一瞬の迷いが、すべてを物語っていた。
「どうして、気づいたんですか。」
ロジンは銃口を向けることはしなかった。
ただ冷静に言う。
「敵の罠の位置
あれはあたしが一度だけ、あんたと二人で地図を確認した時のルートそのものだった。」
ホシュワンは拳を握りしめ、静かにうつむいた。
■ ホシュワンの告白
「ロジン隊長。
俺は、裏切り者なんかじゃない。
ただ…あいつらに、俺の妹が人質に取られたんだ。」
隊員たちが息を呑む中、ホシュワンは続けた。
「俺は嘘をついたつもりはなかった。
敵の位置も、補給路も、全部
指示されたとおりに伝えただけだ。」
シランが叫ぶ。
「それでも仲間を危険に晒したのよ!」
ホシュワンの目に悔しさが溢れる。
「分かってる!!
でも、妹を助ける方法はそれしかなくて。」
ロジンは一歩、彼の前へ進む。
「ホシュワン。
あんたを憎んでいるわけじゃない。
だが今、この状況で黙っていることはできない。」
そして静かに銃を構える――
だが、銃口はホシュワンではなく山の奥へ向けられた。
ホシュワンが驚く。
「隊長!?」
ロジンの声は低く、鋭かった。
「ここを包囲している敵が、あんたの告白に気づいて動揺するはずだ
と思って待っていた。」
-その瞬間-
山の暗闇から、一斉に銃火が走る。
■ 裏切り者の真実
ホシュワンは裏切り者であり、同時に“利用された被害者”だった。
敵は彼の妹を人質にし、小隊を誘導させていたのだ。
そして、ロジンは、彼の告白を“罠を逆手に取る機会”と見て、敵を誘い出した。