テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『本作品は楽曲「独白」の歌詞をもとに創作した非公式の二次創作です。
原曲・作詞作曲者・関係者様とは一切関係ございません。
公式設定・解釈とは異なる表現が含まれる場合があります。』
「これ、最高だわ」
スクリーンの中で、男が札束を抱えたまま笑っていた。次の瞬間、それを海に放り投げる。
紙幣が風に舞い、波にさらわれていく。
映画館の暗闇で、君が小さく笑った。
「普通さ、逆だよね。みんな必死に拾う側なのに」
「俺たちは拾わない側でいようぜ」
そう言うと、君は肘で僕の腕を小突いた。
「まともになんて、ならないってことか」
「そう。まじめな大人とか、似合わないだろ」
君は声を殺して笑った。
でも、エンドロールの光が横顔を照らしたとき、その目が少しだけ真剣だったのを、僕は覚えている。
映画館を出ると、真昼だった。
亭午。太陽は真上。
蝉の声がうるさいほど鳴いている。
「暑っ…死ぬ」
「死なないだろ」
「わかんないよ。今日が一生続いたら干からびるかも」
「いいじゃん。今日が一生なら」
僕が言うと、君は立ち止まって振り向いた。
「それ、本気で言ってる?」
「うん」
君はしばらく僕を見て、それから大声で笑った。
「じゃあさ、約束ね。まともにならないままでいよう」
蝉の声をかき消すくらい大きな声で、僕らは笑った。
一生、この日が続くと思っていた。――
終わりは、前触れなく来る。
夏の、なんでもない或る日だった。
仕事から帰ると、部屋が静かすぎた。
「……ただいま」
返事はない。
テーブルの上に、君のスマホはなかった。
クローゼットを開けると、服もいくつか消えていた。
「……え?」
冷蔵庫のモーター音だけがやけに大きく響く。
メッセージアプリを開く。既読はつかない。
電話をかける。呼び出し音が虚しく鳴る。
「出ろよ……」
何度かけても、同じだった。
さよならも告げずに。
理由も告げずに。
君はいなくなった。
床に座り込んだまま、僕は呟いた。
「なんでだよ」
【tell me why】
割れたグラスみたいに、胸の奥で何かが砕ける。
破片はまだそこにある。
踏めば痛い。触れれば血が出る。
でも、片付け方がわからない。
数日後、君の友人に連絡した。
「え? 知らないよ。喧嘩したんじゃないの?」
「してない」
「ほんとに?」
「……してない」
電話を切ったあと、僕は天井を見上げた。
夕景が窓から差し込んで、部屋を橙に染めている。
「思い出って、何の足しになるんだろうな」
誰にともなく言う。
腹も満たさない。
心も満たさない。
ただ重い。
部屋には、君の痕跡が残っていた。
キャンバスに描きかけの風景。
乾きかけた絵の具。
ページを折ったままのペーパーバック。
机の上には、僕の似顔絵。
「こんな優しそうな顔、してないだろ」
紙に向かって言う。
君はよく言っていた。
「あなた、自分のこと嫌いすぎ。もっとマシだよ」
「どこが」
「全部」
その「全部」の意味を、僕は最後まで聞かなかった。
夜、衝動的に外へ出た。
誰もいない路地裏。
自販機の前で立ち止まる。
ガン、と蹴った。
「……くそ」
もう一度蹴ろうとして、やめる。
「物に当たるなんてよくないって、言ってたよな」
君の声が、脳裏に蘇る。
『怒るのはいいけど、壊すのはだめ』
「壊れてんのは、こっちだよ」
不条理を受け入れる広い心なんてない。
感情的になるのをやめられない。
「神様、いるなら出てこいよ」
返事はない。
「いないよな。知ってる」
見放された一匹の、柔い獣。
「いっそ全部消えろよ……」
愛も金も何もいらない。
この記憶の重りだけを、捨てたい。
⸻
帰り道、茜色の空を仰ぐ。
「終わりがあるから美しい、か」
このまえ誰かが言っていた言葉を思い出す。
「そんな綺麗事、軽々しく言うなよ」
終わりなんて、望んでなかった。
あの時見た花火みたいに、夜空で一瞬だけ輝いて、散り散りになるくらいなら。
「最初から、上がらなきゃよかったな」
小さく笑う。
「……いや、違うか」
花火は、上がるから綺麗なんだ。
本当はこんな人間だ。
どうしようもない、くずな人間だ。
それでも。
「せめて終わりは、笑いたいよな」
誰に言うでもなく呟く。
ポケットからスマホを取り出し、未送信のメッセージを開く。
『どうか、どこかで、強く生きて』
送らないまま、画面を閉じる。
胸の奥が張り裂けそうでも、
時は戻らなくても、
神がいなくても。
不完全な人生でもいい。
茜色が夜に溶けるまで、
僕はまだ、ここで生きている。
【詳細】
曲名…独白
作曲…MISUMI様
作詞…MISUMI様
編曲…MISUMI様
『本作品は楽曲「独白」の歌詞をもとに創作した非公式の二次創作です。
原曲・作詞作曲者・関係者様とは一切関係ございません。
公式設定・解釈とは異なる表現が含まれる場合があります。』