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太宰がポートマフィアから姿を消して三ヶ月が経った頃。
中也の身体に太宰が去ってから初めての本格的なヒートが迫っていた。
「はぁ、っ、はあ……、クソ……ッ」
自室。
中也は尋常ではない焦燥感に突き動かされ、部屋の中をふらふらと彷徨っていた。
頭が熱い。
うなじの番の痕が、まるで冷たい水を欲するようにジンジンと激しく疼く。
いつもなら、この時期になれば太宰が嫌味を言いながら首筋を噛み、濃厚なαフェロモンで身体を満たしてくれていた。
だが、今の部屋には自分以外の匂いがない。
化学物質の抑制剤をいくら煽っても、本能が「αが足りない」と悲鳴を上げて暴れ回る。
限界だった。理性が熱でじわじわと溶けていくなか、中也のΩとしての防衛本能が、あるひとつの狂気的な行動を命令した。
「太宰、の……、あいつの、匂い……っ」
中也はふらつく足取りで、自分のクローゼットの奥へと向かった。
そこには、かつて任務の後に太宰が「邪魔だから」と中也の部屋に放り捨てていった、古い黒いシャツや、替えの包帯、そしてあいつが一度だけ着て中也が着替えるように怒鳴りつけた私服のジャケットが、洗濯もされずに眠っていた。
普段なら「邪魔なゴミだ」と忌々しく思うはずのそれらを、中也は貼いつくばるようにして両腕に抱え込んだ。
鼻腔をくすぐる微かな、本当に微かな太宰のαの匂い。
雨上がりのアスファルトのような、冷徹で、けれど自分を芯から安らがせる唯一の香りがそこにあった。
「あぁ……っ、たざい、太宰……っ」
中也は涙を流しながら、太宰の黒いシャツに顔をうずめて深く息を吸った。
それだけでは足りない。
中也はシーツをベッドから引き剥がし、部屋の隅の最も薄暗い場所に太宰の衣服や包帯を丸めるようにして円状に並べ始めた。
Ωがヒートを安全に迎えるために作る安心の檻──「巣」だった。
「何やってんだ、俺は……ッ、あいつは裏切り者だぞ……!」
頭の一部では、マフィアとしての理性が「こんな惨めな真似はやめろ」と叫んでいる。
しかし、身体が言うことを聞かない。
太宰のシャツを丁寧に敷き詰め、その真ん中にうずくまり、太宰のジャケットを頭からすっぽりと被る。
衣服に残されたわずかなαの幻影に包まれることで、ようやく、狂いそうだった呼吸がわずかに落ち着きを取り戻していく。
中也は太宰のシャツを胸にきつく抱きしめ、うなじの傷を丸めるようにして、その狭い巣の中で小さく震えていた。
「クソ……、置いていくなら、匂いごと全部持って行きやがれ……」
どれだけかき集めても、本物の太宰が放つ圧倒的なフェロモンには遠く及ばない。
中也は、自分が作った不完全な「巣」の中で、消えかけの残り香に縋り付きながら、惨めさと愛しさで声を殺して泣き続けた。
この孤独な巣作りこそが、四年間続く長い地獄の、始まりに過ぎなかった。
敦芥推し
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#文スト中原中也夢
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