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「おはよう。」

「おはよぉ。」

「おはよー。」


今日もリビングで三人揃って目を覚ます。

バイトが始まってから、1週間が経った。

初日は三人とも慣れない仕事にぐったりして(ぼくはただ座ってただけだけど)、夕飯を食べると直ぐに寝てしまったけど、最近は少しずつ慣れてきて、昨日は少しだけ遅くまで話をしてしまった。

実は、昨日、いつもよりテンションが少しだけ高かったぼく達。

その理由は…

今日は、バイトのあとにプールで遊ぶ約束をしていたからだ。

3日前から決めていた、ちょっとしたご褒美の一日。

だから、ぼく達は、遠足前日の子供みたいに楽しみすぎて中々眠れなかったという訳。




昨日散々、布団の中で話したのに、朝食の席でも、やっぱり今日のバイト後の話で盛り上がった。

ぼくと涼ちゃんが楽しく話している中、若井は焦げてはいないがカチカチのスクランブルエッグをつつきながら、『ウォータースライダーだけは絶対に乗らない』と、最後まで呟いていた。






三人一緒に家を出る時、ぼくはこの1週間、ずっと気になっていた、ある素朴な疑問を涼ちゃんにぶつけてみた。




「ねえ、今日はバイトの後に遊ぶから分かるけど…涼ちゃんはフードコーナー担当だから海パンじゃなくてもいいのに、なんでいつも海パンなの?」


そう言いながら、ぼくは涼ちゃんの海パンに目をやった。

ちなみに、今日は初日と同じ青のヒョウ柄。




「えぇ~、だってその方が夏!って感じで楽しいじゃないっ。」


なんとも涼ちゃんらしい、期待を裏切らない理由。

そう言ってニコッと笑って見せたその笑顔は、夏の太陽に負けないくらいキラキラと眩しかった。




・・・




今日も、プールで溺れる人は居なく、平和そのものだった。

がしかし、(あと五分でシフト終わりだな)と気が緩んだ、その瞬間のことだった。

男数人のグループの中の一人が、飛び込み禁止のルールを無視して、目の前の流れるプールに飛び込もうと身をかがめたのが見えた。




「やばっ…!」


ぼくは慌てて首から下げていたホイッスルをつかみ、思い切り吹いて、監視台を飛び降りた。

そして、サンダルをパシャパシャと響かせながら、小走りでそのグループの男に向かう。

飛び込もうとしたその男は、ぼくより少し年上に見えて、見るからにヤンチャそうな雰囲気だった。

正直、一瞬だけ気圧されそうになったけれど、それでも足を止めず、息を整えてから声をかける。



「すみません。」

「なに、このチビ。」

「…スタッフです。飛び込みは禁止になってますので。」


ぼくの言葉に、男はヘラヘラと笑いながら、




「はいはい、分かりましたー。」


と、口先だけの返事をして、仲間たちと肩を揺らして去っていった。

(絶対、分かってないな、あれ。)

心の中でそうツッコみながらも、両手の拳をぎゅっと握り、ぼくはその背中を見送った。


と、まぁ、最後の最後にそんな事があった為、少しだけ上がる時間を過ぎてしまった。

次のスタッフさんに引き継ぎを終えると、待ち合わせ場所である、涼ちゃんが担当しているお店に急いで向かった。


冷静にきちんと対応出来たとは思うが、正直、さっきの男の態度にムカムカしていた。

だからこそ、早く二人に会って、くだらない話でもして、笑って、気分をスッキリさせたかった。




・・・




待ち合わせ場所を見つけると、すぐに赤と青の髪が並んでいるのが見えた。

(ちょっと…二人揃ったら、女の子がほっとかないんじゃないの?)

なんて事を考えながら近付いていくと、ぼくの考えとは裏腹に、今、一番見たくない連中が二人に絡んでいるのが目に入った。

見間違いかとも思った。

けど、声がはっきり聞こえる距離まで近づいた時には、もう確信していた。

顔もはっきり見えた。あいつらは、さっき飛び込みをしようとしていた、あの男のグループだ。

しかも、その例の男が中心となり、主に涼ちゃんに絡んでいるようだった。




「へぇー。彼氏出来たんだー?」

「違うよぉ。彼は友達だよ。」

「あ、って事はこれからって感じ?」

「ねぇ、君。コイツ、ホモだから気を付けなよ?」

「そーそー!そのうち、“僕の事抱いて♡”って言い寄ってくるかもよー。」

「あはは~。そんな意地悪な事言わないでよぉ。」


直接、ぼくに向けられた言葉じゃない。

けど、耳に入ってくるそれは、どれもこれも胸糞が悪かった。

笑いながら、悪意だけを放つその言葉の群れに、ぼくの中の何かがギリギリと軋む。

それでも…

涼ちゃんは、笑顔を崩さずに、いつも通りの調子で受け流していた。

その姿に、ぼくは泣きそうになった。

どうしてあんなに強くいられるんだろう。

どうして、こんな時まで、優しくいられるんだろう、と。


涼ちゃんの隣に立っている若井は、何も言えずに立ちすくんでいた。

いや、もしかしたらあえて何も言わないのかもしれない。

会話の雰囲気から察するに、あの男達と涼ちゃんは前からの知り合いのようだった。

なので、事情を知らないぼく達が割って入れば、火に油を注ぐ事になるかもしれない。


…分かってる。分かってるけど。


気付いたら、ぼくはまた拳をぎゅっと握りしめていた。

そして、目を凝らしてよく見ると、若井も同じように手に力を込めていた。

爪が食い込みそうなほど、強く、強く。




その後も、聞くに絶えない言葉を涼ちゃんに浴びせ続ける連中。

その悪意の矛先が、何度も、何度も涼ちゃんを傷つけようとするのを、若井はじっと耐えていた。

けれど、ついに限界が来たのだろう。

若井は、低く、絞り出すように『…もう行こ。』とだけ言うと、 迷いのない手つきで涼ちゃんの腕を引き、その場を後にした。




・・・




若井と涼ちゃんが向かったのは従業員用出入口の方だったので、 きっと更衣室に向かったのだと思い、ぼくは奴らに気付かれないように、急いで更衣室に向かった。

更衣室のドアをそっと開けると、 外の喧騒とは対照的に、静まり返った室内には、どこか重苦しい空気が漂っていた。

そして、更衣室の真ん中に設置されているベンチには、悔しそうに唇を噛み締めている若井と、それを困ってるような、申し訳ないような顔で見つめている涼ちゃんが居た。




「…涼ちゃん、大丈夫?」


前に何かの本で、“大丈夫ですか?”と聞くのは良くないと見た事があった。

理由は、そう聞かれると、大抵の人が“大丈夫です”と答えてしまうから。

…たとえ、本当は大丈夫じゃなくても。

ぼくの問いかけに、涼ちゃんはドアのところで立ちすくむぼくを見て、無理に作ったような笑顔で『大丈夫だよ。』と答えた。


…その瞬間、ぼくは何かが弾けたように、大声を上げた。




「大丈夫な訳ないじゃん!!!嘘つかないでよ!!!」


なんで、こんなふうに言ってしまったのか自分でも分からなかった。

涼ちゃんに悪意を向け続けた彼奴らへの怒りか、それとも、目の前で傷つけられている涼ちゃんを、何も出来ずに見ている事しか出来なかった、自分への怒りか…

いや、きっとどっちもだ。

そして、あんな事があったのに『大丈夫』と答えた涼ちゃんにも…

そう、言わせてしまったのはぼくなのに…




「涼ちゃん…!どうして…!」


ぼくはまた涼ちゃんに何かを言おうと声を荒らげた。

でもその時、黙ったまま、じっと耐えているように見えた若井が、ぼくの名前を呼んだ。




「元貴。」


その瞬間、ぼくはふっと力が抜けて、我に返った。

そして、その後の言葉を、喉の奥で詰まらせた。




「…ごめん。プールの気分じゃなくなっちゃったよね。」


涼ちゃんはそう言って、困ったように笑うと、ベンチから立ち上がった。




「…帰ろっか。ね?」


その一言に、ぼくも若井も、何も言えなかった。

涼ちゃんの背中を見つめながら、ただ無言で、そのあとをついていくことしか出来なかった。




・・・




家に帰っても、ぼくは一言も言葉を交わせずにいた。

こんな暗い雰囲気になるのは、ぼくと若井が喧嘩した時以来だ。

でも、あの時は、涼ちゃんがずっと笑顔でいてくれたから何とかなっていた。

でも、今は…

今も、涼ちゃんは笑顔で居てくれているけど、その笑顔はどこか痛々しくて。

見ているこっちが胸を締めつけられる。

そんな顔をさせたくて一緒に居るんじゃない。

そう伝えたかったけど、上手く言葉に出来る自信がなくて、伝えたい気持ちは、喉の奥に詰まったまま、どうしても出てこなかった。




キッチンの戸棚を開けて、『…これでいいかな?』と言う涼ちゃん。

それを聞いて『おれ、お湯沸かすよ。』と言って若井がケトルに水を入れる。

二人もそんな必要最低限の会話しか出来ないでいるのを見て、ぼくは更に胸を締めつけられた。


お湯が入ったカップラーメンが静かにダイニングテーブルに並べられる。

いつもなら、誰がどの味を取るか、じゃんけん大会が繰り広げられるのに、今日は、誰も何も言わない。

それぞれが無言のまま、適当に一つを手に取り、ただ黙々と麺を啜っていった。

気持ちが沈んでいるせいか、味がしない。

ふと容器に書かれた文字を目をやると、みそ味とあり、そこでようやく、自分が味噌ラーメンを食べているのだと気が付いたくらいだった。






夕食を終え、それぞれ寝る準備を済ませた頃、若井が電気を消そうと手を伸ばしたその瞬間…




「ぼく、自分の部屋で寝ようかな。」


何を思ったのか、涼ちゃんがそんな事を言い出してた。

けれど、それにすぐさま若井が返した。




「だめ。」


それだけ。

たった一言、そう言うと、まるで涼ちゃんをどこにも行かせないようにと、若井は躊躇いなく電気を消した。




・・・




「…二人とも、まだ起きてる?」


どのくらい時間が経ったのだろう…

セミの鳴く音だけが響く暗闇の中に、涼ちゃんの声がぽつりと落ちた。




「うん。」


先に若井が返事をした。




「ぼくも。」


続けてぼくもすぐに返事をした。


眠くなくて起きてた訳ではない。

涼ちゃんが何か話てくれるのではないか…

そんな淡い期待を胸に、目を閉じずにいた。

暗くて若井の様子は見えない。

でも、きっと若井もぼくと同じ理由で、まだ眠らずにいた気がした。




「今日は、本当にごめんね。予定、台無しにしちゃって。」

「謝んないでよ。」

「またいつでも行けるじゃん。」

「ふふっ、確かに…そう、だよね。」


この暗闇が、不思議と心を落ち着かせてくれるのかもしれない。

ぼくも若井も、“いつもの調子”で返事をする事が出来た。

涼ちゃんも、少しだけ元気を取り戻したような声色だった。

…けれど、その声の奥に、ほんのわずかに滲む歯切れの悪さが気になった。

きっと、無理して笑っている。

そんな気がして、ぼくは胸の奥がまた、少しだけ痛んだ。




「あのね、二人には言ってなかった事があるんだけど…。」


涼ちゃんの声がわずかに震えているように聞こえた。

きっと、今日のことを話すつもりなんだ…

そう思った瞬間、それを待っていたはずなのに、ぼくの知らない涼ちゃんを知るのが少しだけ怖くなった。

思わず、お腹に掛けていたタオルケットを、ぎゅっと握りしめる。

耳を澄ますと、隣に居る若井が、息を呑む音が聞こえた。

若井も、きっと同じ気持ちなのだろう。

そう思ったら少しだけ肩の力が抜けた気がした。


一呼吸置いて、涼ちゃんは覚悟を決めたように、ふぅーっと大きく息を吐いた。

その音が、暗闇の中でやけに響く。

そして、ぽつりぽつりと…少しずつ、過去の話をし始めた。




「元貴も聞いてたよね…?今日、僕に絡んできてたのは、1、2年の時の友達でね。その時は、あんな人達じゃ無かったんだけど…。」


“友達”だった頃の記憶が浮かんだのか、涼ちゃんはふっと笑った。

でも、その笑い声はどこか寂しげで、懐かしさと痛みが混ざっていた。




「彼らが言ってたでしょ?僕の事…..ホモだって。あれは本当の事なんだ。」


涼ちゃんからのカミングアウト。

彼奴らが言っていた事を聞いた時点で、正直、ぼくにも察しはついていた。

でも、本人の口から出たその言葉は、やっぱり、重かった。

静かに、けれど確かに、ぼくの胸の奥にずしりと響いた。

きっと、涼ちゃんはこんな事がなければ、ぼく達にはずっと…いや、一生隠していたかったんじゃないかと思う。

そう考えた瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。

こんな形で、言わせてしまったことが、ただ、ただ苦しかった。




「…2年の時にね、彼らの中の一人をぼくが好きになっちゃってね。あの中では、1番仲良くて…それこそ、元貴と若井みたいに。」


ぼくと若井みたいに…

涼ちゃんが、ときどきぼく達のやりとりを見て、どこか懐かしそうな顔をしていた理由が、少しだけ分かった気がした。

もしかすると、涼ちゃんの中で、あの頃の自分とその彼との関係を、ぼく達に重ねていたのかもしれない。

ずっと、胸の奥でひっそりと、懐かしさと痛みを抱えていたんだ。




「それでね…僕、勘違いしちゃって…」


涼ちゃんの声が少しだけ掠れていた。

その先にある言葉を、ぼくはもう、何となく察してしまっていた。

だからこそ、「そんな辛いこと、言わなくていいよ」と、思わず口に出しそうになった。

けれど、それはぼくの勝手な逃げだ。

涼ちゃんは、今、自分の痛みを“ぼくらに”伝えようとしてくれている。

ぼくは、喉元まで出かけた言葉を、ぎゅっと飲み込んで、静かにその続きを待った。




「勇気を出して告白したんだけど、フラれちゃった。」


涼ちゃんはそう言って、泣きそうな声で『えへへっ』と笑った。

実際には暗くて見えないけど、きっと今、涼ちゃんは涙の代わりに、あの“困った時の笑顔”を浮かべている。

それを思っただけで、ぼくの胸はぎゅっと苦しくなった。




「でね、問題はその後だったんだけど…ぼくが彼に告白してるのを仲間の一人が見ちゃって。一気にぼくがゲイだって事が広まっちゃってね…今日みたいな…イジメ…みたいな事が始まっちゃって。あ、でも彼ら以外の人達はそんな事気にしないで、普通に話し掛けてくれる人も居たんだけど…あ!あと…それで言うと、ぼくが告白した彼ね。彼だけは彼らと一緒にぼくにあれこれ言ってこなかったから、それだけはちょっと救いだったかなぁ。」


相変わらず、わずかに震えた声で一気に話すと、ふうっ、と小さく息を吐いた。

まるで、張り詰めていた心の糸を、そっと緩めるみたいに。

きっと、今こうして話してくれたのは、ぼく達を信じてくれたからだ。

なのに、ぼくはただ黙って聞いてることしか出来なくて、何も言葉に出来ない自分が情けなかった。

『告白した彼だけは、一緒になって何も言わなかった』 その一言が、涼ちゃんの中で、どれだけの救いだったのか。

そう思うと、ますます胸が苦しくなった。




「でもね、やっぱり…しんどくなっちゃって…家族の中で唯一、“僕”を受け入れてくれたおじいちゃんに相談したらね…それなら大学休んでアメリカに留学しろ!って言ってくれて。アメリカにはお前みたいなのごろごろ居るし、結婚だって出来るんだぞ!って。」


涼ちゃんは、面白そうに笑った。けど、その声はどこか寂しそうだった。

きっと、あのおじいちゃんの言葉が無かったら、 今ここにいる涼ちゃんは、居なかったかもしれない。

涼ちゃんが真似た、しわがれた声の中に、強くて優しい“心の中で生きている”存在が確かに見えた気がした。

ぼくはリビングの棚に飾られている写真立ての中にある、おじいちゃんの姿をぼんやりと思い浮かべた。

涼ちゃんは、確かに言った…

『家族の中でも唯一、“僕”を受け入れてくれた』と。

これは、ぼくの想像だけど…

きっと家族に理解をされなかった涼ちゃんは、実家に居場所がなくて、唯一の理解者であったおじいちゃんを頼り、この東京に来たのではないのだろうか。

しかし、その唯一の理解者で、涼ちゃんの心を支えてくれていたおじいちゃんが、亡くなり、涼ちゃんはどれだけ心細く、寂しくて、どれだけ…孤独を感じていたのだろう。

想像しただけで、ぼくは涙が出そうになった。




「…だから、前にも言ったけど、おじいちゃんにすすめられてアメリカに留学したって所は、本当の話。まあ、内容はちょっと違ったけど。…嘘ついちゃっててごめんね。 」


涼ちゃんの声はどこまでも優しくて、申し訳なさそうで、だけど、どこか吹っ切れたような強さも滲んでいた。

こんな時まで、涼ちゃんはぼく達にちゃんと向き合おうとしてくれる。

本当の気持ちを話してくれる。

その優しすぎる人柄に、ぼくは堪らなくなって、声を出したくても出せなくなっていた。




「…ありがとう、話してくれて。」


やっとの思いで、そう口に出来た。

涼ちゃんが嘘をついていたことなんて、全然気にならなかった。

むしろ、それが嘘だと言うのなら、きっとぼくは大嘘つきだ。

言ってない事なんて、たくさんあるだろうから。

そんな事より、そんな苦しみを、たった一人で抱えていた涼ちゃんに、何も気付いてあげられなかったことの方が、ずっと、ずっと辛かった。




「…それでね、ここから本題なんだけど。」


…本題?

これ以上に何を話すと言うのだろうか。

涼ちゃんの声に急に緊張の色が纏い、これから一体涼ちゃんの口からどんな言葉が出てくるのかと、ぼくは息を飲んだ。

すると、涼ちゃんがその“本題”を話始める前に、ずっとぼくの左隣で黙って聞いていた若井が先に声を上げた。




「いやだから。」

「…え?」


若井は、少し怒ったように言ったその言葉の意味が、ぼくには分からなくて思わず声が出でしまった。




「さっきもだけど……別の部屋で寝ようとしたりしてさ。どうせ、ルームシェア解消しようとか言い出すんだろ?」


若井のその言葉に、空気がピンと張りつめた気がした。




「…どうして…っ」


涼ちゃんの掠れた声が、それを破るように漏れた。


まさか…まさか、そんなことを考えていたなんて。

ぼくは一瞬言葉を失った。

『涼ちゃんがそんなこと言う訳ないじゃん』と心の中で否定しかけたその時、涼ちゃんの反応がすべてを裏付けてしまった。

信じられない気持ちと、言いようのない不安が、胸にどっと押し寄せてきた。




「分かるよ。だって、それが涼ちゃん“らしさ”だから。」

「…っ。」

「どうせ、おれ達に気を使って言ってるんだろうけどさ、少なくともおれは、今までの話を聞いた所で、彼奴らが涼ちゃんにぶつけてたクソみたいな感情は一切湧かないし、涼ちゃんが大切な友達だって気持ちは何一つ変わらないし、これからも三人一緒に居たいって思ってるから。」


若井の声は少しだけ震えていた。

そして、ぼくの右側…暗闇の中にいる涼ちゃんの方から、小さく、耐えるような泣き声が聞こえてきた。

その声を聞いた瞬間、ぼくの心の中は言葉で言い表せられない程、色んな感情でぐちゃぐちゃに混ざり合い、気付いたら、目頭がじんと熱くなっていた。




「ぼくだって!若井と同じ気持ちだしっ、三人一緒じゃないと嫌なんだから…!」


少しでも油断したら、きっとすぐに溢れてしまいそうな感情を、ぼくは必死に押し込めながら、震える声で涼ちゃんに想いを伝えた。

普段は素直じゃないぼくは中々想いを伝える事は出来ないけど、この気持ちだけは、言葉にしないといけないと思ったから…




「ほら、元貴も一緒がいいって言ってるけど?…涼ちゃんは? 涼ちゃんの“本当の気持ち”を教えてよ。」


少しの沈黙のあと、若井が柔らかく、でも真っ直ぐな声で問いかけた。

その瞬間、それまで張り詰めていた涼ちゃんの中の糸が、ぷつりと切れたのが分かった。




「…うっ、ひっく……ぅぅ…!」


堪えていた涙が一気に溢れ出すように、涼ちゃんは声を上げて泣き出した。

暗闇の中に、その泣き声だけがはっきりと響く。




「…っ、僕も…..ひっく…三人一緒がいいよぉ…!」


涼ちゃんのその言葉を聞いた瞬間、ぼくは布団から飛び出し、隣で横になっていた涼ちゃんを思わずぎゅっと抱きしめた。




「わわっ!元貴?!」


ぼくの行動に驚いた涼ちゃんはびっくりして声を上げる。

でも、抵抗するどころか、肩の力をそっと抜くと、小さく『ありがとう。』と呟いた。




「ほら!若井も!こっち来なよ!」


暗闇の中で手を上げ、若井を手招きする。

その頃には、ぼくの目からも涙が溢れ出していた。




「若井も泣いてる事なんて、もうとっくに気付いてるんだからっ、恥ずかしがるなって!」

「っ、うるさい!バラすなよ..っ。」


ぼくの言葉に若井は照れ隠しのように小さく文句を言いながら、布団を抜け出しこちらに歩いてきた。

鼻をすすってる音が聞こえてきて、 暗闇の中でも表情が見える距離で、ぼくと涼ちゃんは顔を見合わせ、流れる涙をそのままにそっと笑い合った。

そして、やっと三人一緒になると、ひとつの布団に男三人で肩を寄せ合い、ぎゅっと抱きしめ合いながら、目を閉じた…

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