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「はい、お茶をどうぞ」
気落ちするエミリアさんに、お茶を淹れてあげる。
「ありがとうございます……。
……はぁ、やっぱり温かいものは良いですね……」
そう言いながら、エミリアさんは無意識にお菓子を食べ始める。
「もぐもぐ――
……はっ!?」
自分で自分を信じられない表情を浮かべながら、エミリアさんは恐る恐るこちらを向いた。
「いえ、あの。
別に、夜にお菓子を食べるのがダメだなんて言ってませんけど……」
「で、でも!
こんなところを見られたら、絶対に食いしん坊だって思われちゃうじゃないですか!!」
「え? 今更ですか?」
「えっ!?」
……何故、そこで驚きますか。
もしかして、食いしん坊キャラだと思われていないと思っていたんですか……?
「いえ、私はたくさん食べる人の方が好きですよ?
ほら、私が小食なだけに」
「え……? そ、そういうものですか?」
「……というか既に、食事のときはたくさん食べているじゃないですか。
少なくとも私は気にしていませんし、ルークも同じですよ。
別にたくさん食べても良いんじゃないですか?」
「ふむぅ……。やっぱり変わった方々ですねぇ……」
不思議そうな表情を浮かべるエミリアさん。
「え? 変わってます?」
「ええっと、その……。聖堂の方々はなんというか、ちょっとこう、諦めムードでして……。
それで、せめて外の人にはバレないようにって、すごく言い含められていたんです」
「……へぇ?」
「神に仕える者が、無駄に大食いなんて恥ずかしい、と。
それで、ガルーナ村に向かうときも強く言われていたんですが……」
そういえば、ファンタジー作品でお馴染みの『七つの大罪』の中には、『暴食』っていうのがあるよね。
神に仕える者としては、確かに恥ずかしいかもしれないけど――
「まぁ、私は無宗教ですし。
エミリアさんが美味しく、感謝して食べているなら、何の問題もないと思いますよ」
その言葉を聞いて、エミリアさんはほろほろと涙を流し始めた。
「ああ、そんな価値観があるだなんて……。
無宗教って素晴らしいですね、私も――」
「あ! その先は、多分言っちゃダメなヤツ!」
「――……はっ!?
し、失礼しました。わたしの信仰がそんなことで揺らぐだなんて、絶対にありませんから!」
……いや。
今一瞬、危なくなかったかな……?
「少なくとも、私たちと同行してる間は気にしないで良いと思います」
「ああ、アイナ様……。
なんと慈悲深いこと……」
「いえいえ――
……って、そんな理由で呼び方をグレードアップしないで頂けますか!?」
「えぇ……? それくらい感謝しているというのに……。
ルークさんばっかりずるい!」
「いや、ルークとは主従の関係ですので……、一応」
「……なるほど、そこが一線なんですね。
そうしたらわたしはダメですね、聖堂の所属ですし」
「はい、エミリアさんは今までと同じように呼んでください」
「そうですか……分かりました、アイナさん」
うん、エミリアさんはこっちの方がしっくりくるよね。
今後も、仰々しくは呼んでもらいたく無いかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、雑談をしばらくした後で――
「……ところでエミリアさんの宗教って、どういう神様を信仰しているんですか?」
「え? どうしたんですか、急に」
「ちょっと思うところがありまして。基本的な知識として知っておきたいな、と」
「なるほどです。
でも、わたしのところはメジャーですから――」
そこまで言って、エミリアさんはハッと気が付いた。
「あ、そうでしたね。アイナさんは知らないかもしれませんしね。
では、簡単にご説明を」
はい、私はこの世界の常識を知らないところがあるんです。
思い出してくれたようで、話が早くて助かります。
「わたしどもの信仰はルーンセラフィス教と言いまして、絶対神アドラルーンを頂点に、6柱の神々がいらっしゃいます」
「ふむふむ」
「6柱の神々は六属性をそれぞれ司り、アドラルーンの元で、この世界を正しく導いていらっしゃいます。
ただ、この『神々の振るわれる力』というものは『絶対的なもの』では無いのです。
人々の信仰が強く正しいものであれば、より強大なものとなります。
人々の信仰が弱かったり悪しきものであれば……その力は小さいものとなり、この世界は荒れていくとされています」
「なるほど……。
この世界は神々だけではなく、人間の信仰も力になって作られているんですね」
「その通りです! アイナさんは理解が早いですね、入信しませんか?」
「しません♪」
「そんなぁ。
アイナさんの力を信仰に役立てて頂ければ、どれだけの人々が救われることか……」
「信仰は置いておいて、出来る限りは人助けもするのでご容赦を」
「残念ですが、分かりました。
……というわけで、簡単に説明するとそんな感じですが、これだけで大丈夫ですか?」
「大体分かりました!
ちなみに神々が司っている『六属性』……というのは何ですか?」
「あ、それはいわゆる一般的な魔法属性と同じものです。
『火』『水』『風』『土』『光』『闇』の6つですね」
「え? 『闇』も含まれるんですか?」
「はい? 『光』が在るから『闇』も在りますし、『闇』が在るから『光』も在るわけで――。
……あ、いえ、そうですよね。確かにご存知ない方からすれば、不思議になるかもしれませんね。
闇属性は、いわゆる呪いや不死者が属するものですし」
「そうそう、それです!」
「ですよね。ただ、そうは言ってもそれを除外する教義では無いんです。
『すべての現象がこの世界を作っている』ということを受け入れて、それを正しく導いていくのがルーンセラフィス教の教えなんです」
……何だかちょっと、私のイメージとは違う感じかな?
闇属性なんていうのは、それこそ悪魔や悪者のイメージなわけだから……。
ただ、教義がそうだからといって、悪魔や悪者を等しく愛する……ということでも無さそうだ。
「私の知っている宗教は、『闇』が敵対する感じになっているので……。
そういう意味では、新鮮に感じました」
「なるほど。確かに敵対するような存在があれば、信仰を広めるにも分かりやすいですね」
ちなみにルーンセラフィス教のいうことが正しいのであれば、私の会った神様こそが絶対神アドラルーン……ってことになるんだよね。
うーん。あんなに平和そうなおじいちゃんが、そんなに立派な神様だったとは。
「ところでエミリアさん、神様ってどんなお姿をされているのですか?」
「伝説上は、とても立派で神々しいお姿を――
……とは言っても、それは昔の画家が描いた絵でしか残っていないんです」
「実際に会った人って、いませんか?」
「実際にですか? いえ、それはさすがに……」
エミリアさんは、苦笑しながら言った。
私は多分会ったことがあるけど……まぁ信じてくれないだろうし、いちいち言うことでも無さそうかな。
「それじゃ、6柱の神々と会った人もいないですよね」
「そうですね。
ただ、6柱の神々の眷属については……いわゆる『竜王』がそれに当たるという説もあります」
「竜王……ですか。そういえばいつだったか、ルークが話してたなぁ。
確か、ガルーナ村に行く最中だったかな?」
「竜王の存在自体は知られているのですが、実際に会うことはとても難しいとされています。
神々の眷属というのであれば、それも納得ですが」
うん、確かに納得だ。
そんな高位の存在が、おいそれとそこら辺を歩いていても困るからね。
「……ふわぁ。
あっと、もう寝る時間ですね」
気が付くと、時計の針は23時を指していた。
さすがにそろそろ眠くなる時間だ。
「本当ですね。
アイナさんも明日はお寝坊しないように、早く寝てしまわないと」
「う……。そ、そうですね。
それでは、お話をありがとうございました」
「いえいえ、私も楽しかったです。
またお喋りしましょうね! お菓子も用意しておきますから!」
……あ、はい。
そのときはお茶も持参させて頂きます。
「では、おやすみなさい」
「はーい、おやすみなさい!」
……やっぱりお喋りは良いものだ。
エミリアさんのことも知ることができたし、信仰のことも少しは知ることが出来たし。
ちなみに自分の部屋に戻るとき、ルークの部屋のドアをノックしてみたけど……まだ戻っていないようだった。
大丈夫かな……?
少し心配になってしまうけど、いつ戻るか分からないし……やはり今日は、もう寝ることにしよう。
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