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ブライトン王国の騎士団長、ダーレン・ホープは目の前の光景に息を飲む。
山間の丘陵地にたたずむのは、初めて見るモンスターたち。身の丈20メートルはあろう巨人に、赤い鱗に覆われたドラゴン。馬に乗った首のない騎士も立ちはだかる。
ダーレンの後ろには100人の騎士団がいたが、誰もが息を飲み、動けずにいた。
モンスターは正面にいる三体だけではない。上空を見上げれば、そこには轟々と燃える炎の鳥が旋回している。
山の東斜面に目を向ければ、巨大な鳥が羽をたたみとまっていた。赤い体毛に鋭い爪。あれは南の大陸にいるというグリフォンか?
さらに西側からは、大きな犬のモンスターが駆けつける。体毛は金色に輝き、切れ長の赤い眼でこちらを見据える。あれも見たことのないモンスターだ。
ダーレンはゴクリと喉を鳴らす。
ネビルス山脈にモンスターが出ると聞き、討伐に来たダーレンたちだったが、こんな化物がいるなど想像もしていなかった。
自分たちの前にいるのは、いずれも伝説級のモンスターたち。
「くそっ……逃げることも適わぬか……」
ダーレンは剣を構え、異形の怪物たちを睨み付けた。
◇◇◇
リビングの窓から眺める外の景色は、いつもとなにも変わらない。
たくさんの樹々が山を覆い、抜けるような青空がどこまでも広がっていた。気持ちのいい風が顔に当たり、土の匂いが鼻をつく。
窓枠に頬杖を突いていたアリスは、ほぅと息を吐き、後ろを振り向いた。台所では祖母が料理の準備をしている。いつになく張り切っているのが分かる。
「アリス、もうすぐできるからね。少し待ってな」
祖母は柔和な笑顔を向けてきた。今年60になる祖母の頭は真っ白で、顔や手にはしわしわだ。でも、アリスはそんな祖母が大好きだった。
「うん、待ってる」
アリスはリビングにある背の高い椅子にぴょんっと飛び乗る。体が小さいため、座るのに毎回苦労していたが、それももうすぐ終わるとアリスは思っていた。今日はアリスの10歳の誕生日。徐々に背は伸び、あと数年もすれば祖母と同じくらいの背丈になるだろう。
なにより、10歳の誕生日は普通の誕生日とは違う。
「はい、アリス。お昼ご飯ができたよ。アリパラ茸のシチューとコロコロ鳥の照り焼きだよ。アリスの大好物だろ?」
「うん! とってもおいしそう」
アリスはパッと顔を輝かせ、テーブルに並んだ料理を見る。どれも美味しそうで、祖母が腕によりを掛けたのが分かる。
「ご飯を食べたら、デザートにマーラパイもあるからね。今日はお腹いっぱい食べていいよ」
「ありがとう、お婆ちゃん!」
アリスは神様に祈りを捧げ、スプーンを手に取った。スープをすくって口に運ぶと、ほっぺがとろけるくらいおいしかった。
「お婆ちゃん、すごくおいしい」
「そうかい、そうかい。いっぱいお食べ」
祖母はニッコリと微笑む。アリスはコロコロ鳥を口に頬張りながら、祖母に話し掛けた。
「お婆ちゃん、わたしも神様から〝恩寵〟がもらえるかな?」
この世界では、10歳になる子供に神様が特別な〝力〟を与えてくれることがある。ごく一部の子供だけらしいけど、アリスは自分にも特別な力が与えられると信じていた。
「ああ、アリスはいい子だからな。きっと神様も素敵な〝恩寵〟を与えてくれるよ。アリスはどんな恩寵が欲しいんだい?」
「うーんと、うーんと、うーんとね」
恩寵には色々なものがあると聞く。空を飛んだり、動物に変身できたり、病気の人を治したり、と。
「お婆ちゃんはいつも腰が痛いって言ってるから、それを治したり……あと色んなお花が出せる恩寵でもいいな。わたし、将来はお花屋さんになりたいから」
「お花がたくさん出る恩寵か、それは素敵だね」
「でも、一番ほしいのは……お友達がいっぱいできる恩寵かな」
祖母の顔が、ほんの少しだけ陰ったように見えた。それでも気持ちは抑え切れない。
「たくさんおしゃべりができて、一緒に遊んで……そんな友達がほしいの」
アリスは山奥の家で祖母と二人暮らし。祖母はこの山でマーラの樹を育てていて、その実を売って生活している。山から下りることはほとんどなく、同い年の子供と遊んだ記憶はない。たまに会う知り合いといえば、マーラの実を受け取りに来るフィリップぐらい。
フィリップは町の青果店で働く男の人で、確か21歳と言っていた。
アリスとは歳が離れすぎているし、交わす言葉も挨拶程度だ。アリスはスープを口にしながら、思いを馳せる。
何度も神様にお願いしてきた。友達ができる〝恩寵〟を下さいと。
別に街に行けなくてもいい。違う生活がしたい訳でもない。祖母と暮らし、マーラの実を一緒に収穫する今の生活が大好きだ。
ただ、楽しく話せる友達がほしかった。祖母以外に、自分の気持ちを分かってくれる友達が。
アリスはマーラの果肉が入ったパイを食べ、祖母に「おいしかった。ありがとう、お婆ちゃん」とお礼をいい、席を立った。食器を片付けてから自分の部屋へと戻る。
窓を開け、遠くの山々を眺めながら、もう一度祈った。
――お願いします、神様。わたしに〝恩寵〟を与えて下さい。ずっといい子でいますから。
◇◇◇
その日の夜。深い眠りに就いたアリスは夢を見ていた。それは、とても不思議な夢だった。
『アリス……アリス』
私を呼ぶのは誰? アリスは白いモヤのかかる空間をキョロキョロと見回す。すると、モヤの向こうに人影があった。
『アリス、あなたに特別な〝恩寵〟を与えましょう』
「恩寵? あなたは神様なんですか?」
人影はぼんやりしていて、どんな姿かハッキリしない。でも、優しそうな女性の声だ。
だとしたら、恩寵をくれるのは女神様なんだろうか?
『アリス。あなたは友達をほしがっていましたね』
「は、はい! わたし……ずっと友達がほしくて……」
ぼやけた輪郭が、ほんの少しだけ揺れた。
『その願い、叶えてあげましょう』
「本当ですか! じゃあ、わたしに恩寵を――」
人影はコクリと頷いた。
『あなたに与える恩寵は、【モンスターガチャ】。一日一回、つまみを回すとモンスターの卵が出てくるユニークなスキルです。この恩寵を使って、あなたが望むものを手に入れて下さい……さあ、手を出して』
女神の言葉の半分も理解できなかったアリスだが、言われたまま両手を差し出す。
掌の上に、キラキラと光の粒が落ちてきた。アリスは大きく目を開く。
『さあ、これであなたは恩寵を使うことができるようになりました。どうか、実りある人生を送って下さい。では……』
ぼやけていた人影が、徐々に輪郭をなくしていく。
「待って下さい! 女神様! まだ聞きたいことがいっぱい――」
女神は光に包まれ、そのまま消えていく。アリスは眩しさに顔をしかめ、ハッとして目を見開いた。
そこには天井があった。自分の部屋の天井。ベッドに寝ていたアリスは上半身を起こし、目を擦る。
やっぱり夢だった。ぼんやりしたまま、アリスはがっかりする。女神様から友達を作るための恩寵がもらえた……はずだった。
でも、全ては夢の中の出来事。結局、自分は恩寵などもらえなかった。
「なんだったかな? 確か【モンスターガチャ】がどうとか……」
近くでボンッと音がした。アリスはビックリして前を向く。そこには小さな箱があった。ベッドの上にポツンと置かれた箱。
四つの〝脚〟あり、その上に箱がくっついている。箱の正面にはなにかの絵が描いてあった。
アリスは恐る恐る箱に近づき、絵を見つめる。描かれているのは、色々なモンスターだ。ドラゴンやゴブリン、スライムやオーグなど。アリスでも知っているモンスターが描かれていた。でも、怖い感じではない。どこか可愛らしい、愛嬌のある絵柄だ。
そして絵の下には【モンスターガチャ】という文字がデカデカと書いてある。
「え? これって、女神様が言っていた。……恩寵?」
アリスは困惑して、なにがなんだか分からなくなる。
夢じゃなかった? 本当に女神様から〝恩寵〟をもらえたの? アリスはベッドの上にちょこんっと座り、白い箱をまじまじと観察する。
絵柄の下には、長方形のツルツルした板のような物があり、その下には〝つまみ〟となにかが出てくるような穴があった。
アリスは夢の内容を思い返す。女神様は、つまみを回せと言っていた。
ゴクリと喉を鳴らしたあと、アリスは手を伸ばし、つまみを回す。ガチャガチャと音が鳴り、穴から白くて丸い物が出てきた。
これが女神様が言っていた〝卵〟なのか。拳より少し大きいぐらいの卵を、アリスは勇気を出して卵をつかもうとした。すると卵はピクリと動き、左右に揺れ出した。
「わっ! ビックリした」
アリスは手を引っ込め、卵を凝視する。卵の殻に亀裂が入り、パカッと割れた。
中に入っていたのはプルプルと震える液体。いや、弾力のある生き物に見える。興奮するアリスは、箱に付いていた板が光っていることに気づく。なんだろう? と覗き込むと、そこには文字が浮かんでいた。
『スライム ランクD Lv1』