テラーノベル
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「スライム? これ、スライムなんだ!」
アリスは目を見開いてスライムを見る。ベッドの上でウネウネと動く姿は、ちょっとかわいらしい。スライムの存在はもちろん知っていた。山奥に散策に行った際、数匹のスライムを見たことがあったからだ。
特に悪さをする訳でもなく、大人しいモンスターだと祖母は言っていた。
でも目の前にいるスライムは、当時見たスライムよりかなり小さい。こんな小さいのもいるんだ。
スライムは卵の殻を液状の体に取り込み、ゆっくりと溶かしている。栄養にしてるのだろうか? アリスは殻が全部溶け切るのを待ち、スライムを持ち上げて部屋を出る。
リビングに行くと、祖母がキッチンで朝ご飯を作っていた。アリスは興奮が抑え切れず、祖母の元へ駆け寄る。
「お婆ちゃん! 大変、これ見て!」
「なんだい? 朝から騒々しいね」
祖母は戸惑った顔でこちらを見た。アリスがスライムを乗せた手を差し出すと、祖母は目を細め、眉間にしわを寄せる。
「これは……スライムかい? どこで捕まえたんだい?」
「お婆ちゃん! わたし、女神様から恩寵をもらったんだよ。その恩寵から、このスライムが出てきたの!」
「ええ?」
戸惑う祖母の手を取り、アリスは自分の部屋へと戻った。不思議な白い箱を見せようと思ったからだ。だけど――
「あれ?」
ベッドの上にあった箱がどこにもない。アリスは「どうして?」と困惑しながら辺りを見回す。
「アリス、夢でも見たんだね。そのスライムは窓から入ってきたのかい?」
「違うの! 女神様がくれた白い箱から出てきたの。モンスターガチャっていう恩寵で……」
「はいはい、分かったよアリス。もうすぐ朝ご飯だから、着替えてリビングにおいで」
祖母はまったく信じていない様子だ。「本当にあったのに……」とつぶやきながら、アリスはキッチンに戻って行く祖母を背中を見送った。手の中では小さなスライムが体を震わせている。
「絶対、夢じゃないよね。ここにスライムがいるんだから」
アリスはモヤモヤした気持ちのまま一日を過ごし、いつものように眠りに就いた。また女神様の夢を見るかもしれないと期待したが、なんの夢も見ないまま朝を迎える。
「う~ん、ダメだったか。やっぱり夢の中の出来事だったのかな?」
アリスはベッド脇の棚に置かれたお皿に目を移す。中にはスライムが入っており、プルプルと揺れていた。
あのスライムも、窓の外からたまたま入ってきたのだろうか? もう、なにも分からない。アリスは起きる気力が出ず、天井を見上げていた。
「絶対、【モンスターガチャ】から出てきたはずなのに」
瞬間――ボンッと大きな音が鳴る。アリスは驚き、ベッドから飛び起きた。
「なに!? 一体……」
ベッドの上に白い箱があった。四つの脚があり、正面に絵柄が描かれている。昨日出てきたモンスターガチャだ。
「やっぱり夢じゃなかった。でも、どうして急に?」
そこまで言って、「あっ!」と気づく。昨日も今日も、【モンスターガチャ】という言葉に反応して出てきたんだ。アリスはベッドの上にちょこんと座り、白い箱と向かい合う。
女神様は言っていた。卵は一日一回出てくると。
アリスはつまみを掴み、昨日と同じように回す。ガチャガチャと音が鳴り、つまみの横にある穴からまん丸の卵が出てきた。アリスは卵を包むように持ち上げる。白い球体は左右に動いたあと、ヒビが入ってパカリと割れた。
中から出てきたのは、またしてもスライムだ。手の上で卵の殻を溶かし、体に取り込んでいる。
「またスライムか……他のモンスターも出てくるのかな?」
ふと見ると、箱の正面に付いた長方形の板が光っている。昨日と同じく、また文字が浮かんでいた。
『スライム Dランク Lv1』
昨日と変わらない『スライム』の表記。でも、すぐに別の文字が現れた。
『種族が同じため、【合成】が可能です。合成を行いますか? はい/いいえ』
「合成? なんだろう……」
よく分からないまま、アリスは『はい』の文字を押してみた。すると、ツルツルの板が光り、また別の文字が表示される。
『合成の主体をどちらにしますか? 前者/後者』
「主体? どっちかが消えるってことかな?」
どちらも変わらないような気がするが、アリスは取りあえず最初に出てきたスライムを残すことにした。『前者』を指で押すと、二匹のスライムが輝き出す。ふわふわと浮かび上がり、空中で合わさった。
眩い光が弾け、アリスは目をすがめる。
ぼとっとベッドの上にスライムが落ちてきた。一見すればなにも変わっていないように思える。でも――
「あれ? ちょっとだけ大きくなってる?」
スライムを持ち上げると、先ほどより重い。間違いなく成長している。アリスは白い箱に付いた板に目を移すと、そこには新しい文字が浮かんでいた。
『スライム Dランク Lv2』
「Lv……2? 強くなったってことかな?」
確かにスライムは大きくなっている。合成するとモンスターが成長するらしい。なんにしても、恩寵が夢でなかったことはハッキリした。
祖母に知らせなくちゃ、と思ったが、いつの間にか白い箱が消えている。
「時間がくると消えちゃうのかな? これじゃあ、信じてもらえない」
アリスはどうしたものかと頭を悩ませるが、それなら出てくるところを見せればいいんだ、と思いつく。
翌日――起床したアリスはキッチンに行き、朝食を作っている祖母に話し掛ける。
「お婆ちゃん! わたし、恩寵が使えるようになったの! そこで見てて」
「なんだい? 朝っぱらから。恩寵って……」
怪訝な顔をする祖母を余所に、アリスは「モンスターガチャ」と口にする。すると、突如、目の前に四つの脚が付いた白い箱が現れる。
これには祖母もビックリして、「なんなんだい!? この箱は?」と戸惑っていた。
アリスは〝つまみ〟を回し、前日、前々日と同じように卵を出した。殻がヒビ割れ、中からは緑色の小鬼が現れる。アリスは箱に付いた板に目を移す。
『ゴブリン Dランク Lv1』
初めてスライム以外のモンスターが出てきた。アリスは卵の殻をかじっているゴブリンを掴み、祖母の前まで持って行く。祖母は目を白黒させ、困惑したままアリスを見る。
「こ、これが恩寵なのかい? 小さなモンスターを出す箱ってこと?」
「うん、そうみたい。夢の中に出てきた女神様が、これで友達を作ればいいって言ったんだよ」
アリスは一昨日から今日にかけて起こったことを、詳細に説明した。祖母はまだ信じられないといった様子だったが、最終的には「良かったわね。夢が叶って」と喜んでくれた。
翌日からも恩寵を使い、アリスは色々なモンスターを誕生させる。
ゴブリンやスライム、オークに火蜥蜴など。どれも小さいけど、ちゃんとしたモンスターだった。最初はちょっと怖いかもしれないと思ったが、モンスターはどれも人懐っこく、狂暴なものは一匹もいなかった。
本当に友達みたいだ。いままで祖母以外に話し相手のいなかったアリスは、モンスターを可愛がるようになっていった。
なにより夢中になったのは、モンスター同士の『合成』だ。何度も合成を試した結果、分かったことがいくつかある。
まず、合成は同じ種族でしかできない。同じ種族、同じランクのモンスターを合成すると、レベルが1づつ上がるということ。そしてレベルが10を超えると、モンスターのランクが上がり、進化するということ。
ランクDのスライムが、ランクCのレッドスライムに。ランクDのゴブリンが、ランクCのホブゴブリンになる。といった具合に。
レベルが上がるごとに、進化する度にモンスターは大きくなっていった。それでも狂暴になることはなく、やさしい友達のままだ。
アリスは神様に感謝した。こんな素敵な恩寵を与えて下さって、ありがとうございます。と。
可愛いモンスターたちは徐々に増えていき、祖母と二人っきりだった生活は色合いを増した。
アリスは毎日ガチャを回し続け、祖母も次々に誕生するモンスターを可愛がった。
そして、8年の歳月が流れた。
コメント
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最後の一行のインパクト。 進化していくモンスター……8年経ったら絶対やばいでしょう。