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コンコン・・・
「お~い・・・紗理奈ぁ~開けてよ~今度はちゃんと裏口から来たよ~」
―そういう問題じゃないでしょ!―
紗理奈はドアに背中で、もたれながら心の中で突っ込んだ
「何の用?」
「遊ぼうよ」
「嫌よ!」
最初の驚きから少し持ち直した紗理奈が言った
「あっ・・・あなたは私を騙していたわ!酷いじゃない!」
「騙してなんかいないよ、君が俺を男娼と誤解してたからそれに対して俺は、否定も肯定もしなかったってだけだよ」
―ものは言いようだわ―
たしかにその通りだ
あの時彼は自分を男娼だとも言わなかったし、違うそぶりもしなかった、紗理奈が勝手に彼をそう決めつけて、料理を振舞ったり風呂に入れたりして、もてなしたのだ
そして彼はただ紗理奈の、もてなしを快く受けたのだ、体も含めて
こと成宮直哉に関しては突っ込む所が、満載でそれだけこの人が魅力的で、興味惹かれるということだ
彼はどうしようもなく作家心をくすぐる、次に何をしでかすか、まったく予想がつかない
彼の返しの上手さにとても高い知性を感じる、ついついもう少しからかってみようかなと思ってしまう
危険だ
だめよ!紗理奈!これ以上彼に関わってはいけないわ!
「黙ってたことは謝るよ・・・でも君もいけないんだぞ、俺を男娼なんかと間違えて・・・・どうやったらそう見えるんだい?」
―見たまんまじゃない!―
紗理奈はそう叫びたかった、それかあなたをホストクラブに放り込んだら、女性客は間違いなくNo1だと思うわよ!
「ねぇ・・・・開けてよ紗理奈、きちんとあの夜の俺の気持ちを聞いてよ、君は言い訳もさせてくれない無情な女なのかい?」
直哉がドアにおでこをひっつけて、カリカリドアを搔いている、途端に紗理奈は可哀想になった
たしかに・・・先に間違えたのは私だし・・・少しだけなら・・・
ハッとして首をブンブン振った
だめよ!ここで開けたら一生居座られるわ!彼は質の悪い野良犬のようなもの!情けは禁物よ
「ここを開けてくれなきゃ一晩中歌うぞ」
同情を引く手が通用しないと思った直哉は、パターンを変えて来た、THE 虎舞竜の「ロード」の替え歌を大声で歌い出した
「ちょおど~10日前のぉ~この家に来たよる~♪昨日のことのようにぃ~今ハッキリと思い出すぅ~♪」
「思い出さないでっっ!お願いだから忘れてっっ!」
無視するのよ!無視!気高くよ!無視してたらそのうち飽きていなくなるわ!
相手にしないの!
紗理奈は両耳を抑えて、必死に直哉がいなくなってくれるのを祈った
さらに直哉はロードを歌い終わった後「この歌ジンが好きなんだ」と(ヤギさん郵便)の歌を大音量で歌い出した
そしてとうとう紗理奈は耐え切れず、直哉の歌う、「黒ヤギさんからお手紙ついた♪」の三回目のターンで耳を抑えていた両手を離し、ドアを開けて怒鳴った
バタンッッ「永遠に終わらないじゃないのっっ! 」
その時紗理奈の視界が真っ赤に染まった
直哉が玄関口に入り切らないほどの真っ赤な薔薇の、花束を腕一杯に抱えていた
口をあんぐり空けて唖然とした
紗理奈はそのまま暫く大輪の薔薇に見とれていた、なんて良い匂い・・・・
こんな薔薇の花束東京で、買ったらいったいいくらするんだろう
「心からの謝罪です」
直哉は花束から一輪取り出してキスすると、紗理奈に差し出した
紗理奈は薔薇を受け取り、なんとなく口元へもっていった、まるで直哉のキスを逃がすまいとするように
「書いただろう?本物を持ってくるって、すぐに活けないとダメになるんだ」
ああ・・・家中の花瓶を集めても足りるかしら
「お詫びのつもり?」
微笑みそうになるのをこらえて言った
「お詫びのチョコレートもだ」
彼は紗理奈に茶色い包み紙の箱を渡したゴディバだ
クスッ・・・「あなたっていつもこんな風に上手く女を誘うの?」
直哉が手の甲で紗理奈の頬を撫でた、そして優しく微笑んで言った
「良い女だけ 」
紗理奈は目を丸くした
まぁ・・・どうしよう・・・本当に口が上手いわ・・・
..:。:.::.*゜:.
この人の危険な所はここなのよ、作家魂がウズウズする、次は何を仕掛けてくるんだろう
ああっ・・・悪魔のような笑顔
顔の表情筋にグッと力を入れる、でないと思わずニヤついてしまう
「入って早く活けないとお花が枯れちゃう」
「おっじゃましま~す♪」
腕一杯に薔薇を抱えた直哉はキッチンへ向かった
紗理奈はパタンとドアを閉じた
もうウキウキした気分になっていた
::.*゜:.
【成宮牧場 北斗の薔薇園】
北斗が麦わら帽子に長靴、擦り切れたジーンズに、黒Tシャツ姿で自分が丹精込めて育てた薔薇を見つめている
彼の背中のTシャツには ”一日一善” と書かれている
北斗は議員の仕事で忙しい合間に、ここへきて薔薇の手入れをすることが日課だ、どんなに忙しくても薔薇の手入れをすることで自分が癒されるのだ
しかし今の彼は仁王立ちし、腕を前に組んで何やら、しかめっつらで考え事をしている
「ほっくとさぁ~~~ん♪晩御飯出来たわよぉ~~~」
そこへアリスが北斗を呼びにやって来た、彼女は今日も元気だ(Happy♪)というオーラを全身で振りまいている
弾けるようにスキップして、北斗のそばへやってきてえいっと背中から ”一日一善” Tシャツに抱き着いた
「・・・・?北斗さん?どうしたの? 」
まったく無反応の彼の様子に、不思議に思ってアリスが北斗の顔を覗き込んだ
ムッとした北斗が言った
「・・・この一帯の薔薇が、全部ひっこ抜かれているんだ」
「まぁ!誰がやったのかしら」
二人は薔薇の蔓のハゲた一帯を見回した
「さっきのあなたの言い分はわかりました、でもどうしてずっと黙ってたの?」
「何て言えばよかった?」
「質問に質問で答えないでくれる?口が減らない人ね」
「みんなにそう言われる」
彼がニッコリと目がくらむような笑顔を見せた
優しくて
甘くて
思わず目を奪われる
今着ている黒のポロシャツに、白のデニムも良く似合っている
ジグザグになった細いワイヤーのカチューシャで、前髪を全開にしているのでハッキリした顔だちがとても綺麗だ
瞳が大きく今は真っ黒に見える、陽の光に当てたらどんな茶色なのだろう
やっぱり途方もなくいい男
紗理奈は笑いが込み上げてくるのを、抑えられなかった
「おなか空いてる?スパゲティぐらいしかできないけど・・・」
「やった!君が料理が上手いのは、この間のもてなしで実証済みだ!」
少年のように直哉が無邪気に笑う!もうっ!可愛いんだからっ!
紗理奈はスパゲティを茹で、ベーコンとアスパラとニンニクをさっと炒め、ホールトマトを注いでトマトパスタを作った
その間直哉は紗理奈に覆いかぶさるように、ぴったり横に立って紗理奈を上から下まで、眺めている
肩のストラップが細いナイトドレスに、エプロンをつけ、V字型に切れ込んだ胸元に視線を走らせている
直哉が値踏みにふけっているのを見て、紗理奈の体が熱くなる
「ナオ・・・・やめて」
「何を?俺は何もしてない」
頬が熱くなる
「距離感バグッてるのよ、そんな目で・・・私を見ないで、お料理出来ないじゃない」
思わず口走ってしまった
「すまない・・・でもそれだけはどうにもできない、目が勝手に行くんだ」
囁くように言ってまた一歩近づく
「もうっ!火を使ってるんだから危ないわよ」
「髪をあげてるのも似合うな、女性の髪は降ろしてるのが好きだが、そのねじって束にしたやつは好きだ」
ん~♪と紗理奈にキスしようとしたが、さっと交わされる
「言っときますけど、あの夜の続きを私はするつもりはありません!」
「俺もないよ、実はそのことを話しに来たんだ」
「そのこと? 」
紗理奈は彼の言っている意味がわからなかった、そして少しがっかりしている自分に、気づいて驚いた
::.*゜:.
「俺達のあいだには何かが起こっている」
食事が終わって二人でリビングでジェンガを、している時に唐突に彼が話し出した
「強力な何かが・・・でも俺は一人の女に縛られるつもりはないし、これからもずっとそうなんだ」
「そのようね・・・・」
紗理奈が難しい真ん中のスティックを引き抜こうと、眉間にしわを寄せている、あと少しで真ん中が引き抜ける、ジェンガタワーは倒れそうにグラグラしている
「君の期間限定の恋人になりたい」
直哉の突拍子もない言葉に、紗理奈が動揺しジェンガが音を立てて崩れた
「倒れちゃったじゃない!卑怯よ」
「君は処女を捨てたい、俺は一人の女に縛られるのは嫌だが君とはヤりたい・・・だからこのひと夏だけ君は俺で、今まで恋人にしたかったことを全部すればいい」
さらに直哉が言う、掌でジェンガの一つをもてあそんでいる
「君が俺と遊びたい時だけ呼べばいいし、俺を恋人だと家族や知り合いに紹介しなくてもいい、一緒にいても君が一人になりたくなったら、俺に気を使わなくてもいい、この夏だけ俺と遊べばいい、単純だ、秋になれば恋人ごっこは終わり」