【淡路島・ホテル・エクシブ・リゾートトラスト】
真っ青な海を目の間にした、リゾートホテルの真っ白なプールサイド、このホテルの目玉は一面壁づたいに流れている、水の滝だ
光に照らされた水がほとばしって、水のカーテンを作り出している、その光のカーテンの向こう側に一人の人影が浮上し、水を通して見る人影がゆらゆらと揺れている
紗理奈がプールサイドでサングラス越しに、うとうとその水のカーテンの向こうの人影をじっと見ている
そしてそのカーテンから直哉が姿を現した時には、きらめく光が彼の上半身裸に反射して、まるで水の神様ポセイドンのようだ
紗理奈は思わず自分の想像力の凄さに笑った
彼といると本当に良いインスピレーションがどんどん湧くのだ、彼がミラーゴーグルを目に装着し、男らしくザバザバ紗理奈の寝ている、プールサイドめがけて泳いでくる
プールで遊んでいる女の子達が、先ほどから泳ぐ直哉をチラチラ見ている
横のヤシの葉の屋根のバーカウンターにいる、ウエイトレスも仕事をするフリをしているが、視線は直哉に向けている
ザバッと彼がプールから上がり、筋肉を収縮させながら、ハーフアップに髪を結わえているゴムをほどいた
ペタペタプールサイドに濡れた足跡を付けながら、こっちへやってくる、紗理奈はベッドチェアーで、寝ているフリを決め込んだ
やがて何かに太陽が遮られ、目を開けると、ずぶ濡れの直哉が紗理奈に覆いかぶさっていた
「ナ・・ナオ? 」
ニヤリと彼は笑うと、濡れた犬のようにブルブルと頭を振って、水しぶきを紗理奈の上にまき散らした
「キャーッ冷たいっっ」
直哉の席で紗理奈の鞄もタオルもずぶ濡れにされた、紗理奈の隣にドカッと座る、紗理奈が鞄からバスタオルを渡そうとする
「拭いて」
「甘えんぼ」
しょうがないわねと言いながらも、紗理奈は彼を綺麗に拭き上げる
そこにウエイトレスがトロピカルドリンクを、持ってきた
頬を染めてチラチラ直哉を見ている、ウエイトレスの視線を感じているのに、直哉は我関せずだ
「ねぇ・・・付き合ってから聞くのもなんだけど正直に答えて」
「俺達の間で正式な事は、何ひとつ当てはまらないな、なにせ出会いがアレだったから」
紗理奈は思い出してキャハハと笑った、たしかに男娼と間違えて一晩一緒に、いようとしたのだから、そんな出会い誰も経験した事ないだろう
「本当に今まで誰とも付き合ったことないの?」
「ないよ」
「付き合った事なくても、奥さんがいるとか?離婚歴とか?」
「ない」
「隠し子は?」
ハハハと直哉が笑った
「いないよ、ハイ」
直哉が自分のスマートフォンを紗理奈に差し出した、トムとジェリーのスマホケースが意外に可愛い
「付き合った子はいないけど、遊んでた子が200人ぐらいいるから、電話番号全部消していいよ、俺は君と付き合っているうちは、他の子とは一切連絡を取らないし、道で会っても無視する」
200人・・・・あきれるというか感心するというか・・・
紗理奈はプッと吹きだした、本当にこの人にはど肝を抜かれる
そしてほら・・・もうこんなに楽しい
「泳ごうよ!君はずっと寝てるじゃないか」
「浮き輪ある?私も暑くなってきたから入りたい」
彼は紗理奈の全身のクリーム色のビキニに、視線を這わせる
「色がエロい!」
「そう?可愛くない?」
胸のフリルがお気に入りで購入したのに、彼はその水着を見て顔をしかめる
「女の「かわいい」ほど、信用できねーものはないな!どこが可愛いんだ 」
紗理奈が笑いながら髪を捻ってクリップで止め、プールサイドに向かう、形の良い尻が左右に揺れる
う~ん・・・いい眺めだ、彼女はバージンのくせに着るものがビッチなんだよな
楽しくなった直哉が、そそくさと紗理奈の後を追った
「水が冷たい!」
「すぐ慣れるよ」
浮き輪の輪っかにお尻を入れようとする紗理奈に、ミラーゴーグルをカチューシャのように、前髪につけた直哉が言う
「泳げないなら俺に乗れば?」
「人間サーフボードね(はぁと)」
紗理奈は直哉の背中に乗って首にしがみついた、彼は紗理奈を乗せたままスイスイ泳いでいく、紗理奈はほうっとため息をついた
「いい気持ちだろ?」
「とっても 」
金色の太陽の下水面に光が反射して、キラキラと輝く世界で水に体をあずけゆらゆらと揺れていると
ふと頭の中で文字が浮かんでくる、何かの物語の冒頭シーンだ
消えてしまったインスピレーションが、戻って来た様な気がした
紗理奈の頭の中でプールサイドの、描写の文字が浮かんでくる、直哉に出会う前は紗理奈の生活の中心を、成していた文字が突然紗理奈の中でぷっつりと消えた
何を読んでも観てもダメだった
そして今は紗理奈が創造性を失ったことを、直哉は内心とても心配してくれている、悲しんでくれているとも感じられた
しかしここ2~3日彼と過ごしているうちに、またインスピレーションが、戻って来るんじゃないかと、紗理奈は希望を持つようになった
それは決まって、彼とこうして、楽しいことをしている時で
また書ける時が近いうちに、迫っているのではないかと感じていた
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