※この話は敦目線ではなく、芥川目線のお話です。
任務帰り、僕は人目のない狭い路地を通っていた。
今日は、敵の数も多かった故、早く自宅に帰りたかったのだ。
ブブッ。
ふと携帯電話が鳴った。
差出人は、『中島敦』。すなわち『人虎』だ。
芥川、今から僕の家に向かってくれない?
至急、芥川に話がある人がいてさ、これから僕の家で待つつもりなんだ。
あと、そっちに『中島敦』って名乗る人がいたら一緒に連れてきて欲しい。
頼んだよ。
僕に話のある者だと?
政府関係か、或いは僕が半壊させた敵組織だろう。
しかし、何処か癪に障る。
嗚呼。
『これから僕の家で待つつもりなんだ。』
これか。
何故一緒に居る必要があるのだ。
『○○で待たせとくから、○○に来てよ。』
これでよかっただろう。
眉間に皺を寄せながら携帯を片手に歩いていると、急に目の前から携帯が消えた。
「…誰だ、貴様。」
僕の携帯を取り上げた男はすぐ後ろ、背後にいた。
「なぁ、お前さ、『中島敦』って奴知らない?」
ハハハッ、と笑いながら携帯を返す此奴は、人虎の名を呼んだ。
「貴様、なぜその名を知っている。」
「その態度なら知ってるな。教えろ、何処に居る。」
僕を全く恐れない。
此奴、只者では無いようだ。
「嗚呼。知っている。然り、貴様に教える心算は無いがな。」
「嗚呼!お前、さては『芥川』だろ。」
僕はその瞬間、其奴の喉に羅生門を展開させていた。
「何が狙いだ。」
お尋ね者になってはいるが、此奴は多分、僕を『お尋ね者』として知っているのではなく『芥川龍之介』として、元から知っていたのだろう。
僕を知り、人虎を知る。
ならば恐らく、探偵社もポートマフィアのこともよく知っているだろう。
「まぁまぁ。そう固くなるなよ。僕は其奴に会わにゃならなくてな。」
「手を出す心算か。」
首を横に振り、手をヒラヒラさせ、
「そんな訳。事情ってもんがあんの。」
と笑って見せた。
「貴様、『中島敦』か?」
人虎からの連絡を思い出し、半信半疑で聞いてみた。
すると此奴は目を丸くして驚き、そして腹を抱えて笑った。その後、はぁ、と息を吐いて、
「嗚呼、そうだよ。僕も、中島敦だ。」
矢張り、そうだったのか。
人虎の元へ連れていかねば。
「…承知した。」
「ん?何が。」
「今から貴様に用事のある者の元へ連れて行く。黙って着いてこい。」
少々、怪しさの残る奴だが、何かあれば羅生門で拘束し、そこらに捨てておこう。
「おお、やるじゃん。」そう言って黒い敦は僕の後を着いてきた。
僕は、もう一度言うが、指名手配犯である。その為、人目に晒される訳にはいかない。
なので、しばらく狭く暗い路地を通り、人虎の家を目指していた。
この選択が間違っていたのかもしれない。
狭く暗い路地。
それは、人目につかないだけでなく、犯罪を犯しやすい場所である。
唐突に、背中に寒気がした。僕はそのまま路地の真ん中で立ち止まった。
身体中に変な汗が出てきた。
先程までは、恐怖などの感情も浮かばないほど、何も感じない男だったというのに、今は只、此奴が恐ろしい。
首元で光る黒い虎の爪は、どんな鋭利な刃物より強固であった。僕の首を一掻きで、引き裂けるだろう。
「もう一度聞くが、貴様、何が狙いだ。」
「…いいね。その顔。」
首筋から背中、ボディラインを撫でるようになぞり、黒い敦は喉を鳴らした。
僕には、さっぱり解らなかった。
すぐに、隙を見て羅生門で攻撃し、吊るす。どんな奴であろうと隙は必ずある。
黒い敦が、僕の首筋に顔を近ずけた瞬間、「今だ!」と思った。
しかし、羅生門は黒い敦に届く前に消えてしまった。
ポタッ。
何かが手に落ちた。
真っ赤な色をした、鉄の匂いのする液体。
血だ。
途端に目の前が暗くなった。
ぼんやりとした視界で、僕は見た。
黒い虎の爪にべっとりと血が着いていることを。
嗚呼、そうか。僕は此奴に裂かれたのか。首筋を。
黒い敦は、芥川が倒れた後、芥川の傷口に自分の血を垂らし、再生させ女子を抱くように抱き上げ、
『嗚呼。僕の芥川だ。』
と呟いた。
その顔は、うっとりとした目をしており、頬を赤らめ、口元を緩くしていた。
コメント
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雰囲気が好きすぎる… 続き待ってます