気が付けば、此処は何処かの地下だろうか。
見るからに不穏な空気を漂わせている。
この部屋にはコンクリートの壁、床、木製の古い箪笥。そして、僕が寝かされていたベットがひとつ。ただそれだけがこの部屋の中にあった。
不気味だ。
僕は動き、この部屋の出口を探そうとした。
が、身体は動かなかった。
動かなかったと言うよりも、動けなかったという方が正確である。
僕の身体は、首に大きく重い黒く輝く鉄製の首輪が嵌められ、手は背中の方に回され首と同じ、鉄製の手枷が着けられ、足も、手と同じように足首どうしに足枷が繋がれている。
首輪はコンクリートの壁と鎖で繋がれている。
鎖と首輪、手枷、足枷。その総重量は軽く50キロを越しているだろう。
僕は軟弱な身体故、自分の体重が負荷では、手も足も出せない。
おまけに、何故なのか解らないが、異能が使えない。異能を使えなくすることが出来るのは太宰さんだけ。
ということは、太宰さんは協力者なのか?
否、きっとあの人の事だ、何か企てているはずがない。
あの人は僕を捨てた。もう二度と戻っては来ない。
やっとのことで立ち上がることが出来た。
肩が重く、足もガクガクと震えている。
「…ぐぅッ。」
苦痛の声が漏れる。
なんとかあの出口の扉まで届けば…
先程までは視界になかった鉄製の扉。あれしか出口のようなものは見つからなかった。
あと数センチのところで頭が後ろに引っ張られた。
鎖だ。
僕の首に付けられた首輪の鎖の長さが届かなかったのだ。
途端に足が耐えられず後ろにひっくり返ってしまった。嗚呼、あと少しだったのに。
ん?
首輪に違和感を感じ、咄嗟に立ち上がった。
立ち上がれる。
つまり、首輪が軽いということだ。
これなら届く。
僕は必死に手を伸ばした。
届いた!僕の中指がドアノブに引っかかった。
あと少し。ひねることさえ出来れば…。
「ねぇ。何してんの?僕の前で。」
背筋が凍るような一言だった。
全く気づかなかった。後ろにいる。
間に合わなかったのか。奴が帰っていた。
グンっと後ろに引っ張られ、今度は元いた場所、ベッドの方に投げられてしまった。
鎖が軽かったのは、此奴が鎖を持ち上げていたからだった。
何故、僕は此奴の何もかも察することが出来ぬのだ。
壁に打ち付けられ、気管が圧迫される。
ゲホッゴホッ。
咳で息が苦しくなる。
ただでさえ、この場の緊張感と彼奴の威圧感に息が詰まりそうなのに。
口の中に少し鉄の味がする。
「来るな!止まれ!」
息を整える暇もなく、冷静を装った表情で彼奴は近づいてきた。
「扉に手が届いたぐらいで、何が出来んの?手と足と首、繋がれてんだよ?」
少し小馬鹿にした口調でたんたんと言葉を並べる彼奴は、目に光を失ったような真っ黒な目をしていた。
僕には逃げるすべなどなかったのだ。
最初から此奴の思惑通りだったのだ。
「もう一度聞く。何が目的だ!そして僕を如何する心算だ!」
此奴にペースを支配されてしまえば終わりだ。
僕は必死に叫んだ。
あまりにも目の前の此奴が恐ろしく感じる。
まるで巨大な壁、恐らくはもっと強大な何かに遭遇したようだ。
「目的…ねぇ。僕はただ愛する者を愛でたいだけさ。」
「『愛する者』…?僕と貴様は今日出会ったばかりだろう。何故だ!」
「…運命だよ。オリジナル君。」
呆れる。これだけ強く強大な何かを持つ此奴が、『運命』だと?
「巫山戯るのも大概にしろ!敵組織(警察)共に協力し、僕の首を差し出す心算なのだろう!!」
僕は確かに指名手犯だ。
街中の至る所に指名手配ポスターが貼られるくらい警戒されている。
「本当に、真逆だな…ここまで阿保とはね。」
阿呆…だと?
真逆とはなんだ?
ベットに蹲る僕に彼奴はどんどんと近づいてくる。
一度首を裂かれた手をこちらに伸ばしてくる。
僕はただ何も出来ない。
ぎゅっと目を瞑り体を硬直させるしか出来なかった。
ちゅ。
驚いて目を開けると、目の前、数cmのところに奴の顔があった。
どうやら僕は口付けをされたようだ。
だが、一体何故…?
すると先刻の『愛する者』が妙に引っかかった。
「…や、僕は貴様など微塵も好いてはいない。絶対、絶対だ!」
「へぇ、言う割には顔も耳も真っ赤じゃん。」
「そッ、それはッ…」
僕は恥ずかしながら、まだ一度も人虎と恋人らしいことをしたことがないのだ。
抱擁は勿論、デェトだって手を繋いだことだってままならないのに、こんな奴に口付けだと?
初めての感覚に頭がほわほわとした。
ーー否、これは初めての感覚だからでは無い。
『ガス』だ。
必死に口を抑えようとするが、手が手枷のせいで動かせず肺いっぱいに吸ってしまった。
嗚呼、また…眠って…しま…
コメント
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天才ですか?続き楽しみにしています!!
まじで好きです!!待ってます!