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#🐟️×🍇
ねぎ茶
27
ヒヴァを発つ朝、車窓の外では、見慣れた砂色の景色が、少しずつ遠ざかっていった。
数日間、あの迷路のような旧市街で過ごした日々が、まるで長い夢のように感じられる。
サマルカンドに到着し、レギスタン広場へ足を踏み入れた瞬間、誰からともなく、小さな息を呑む音が漏れた。
三方を囲む巨大なマドラサ。
その正面を飾る瑠璃色のモザイクタイルが、陽光を受けて、鮮やかに輝いている。
ヒヴァで見てきた、乾いた土と砂の色合いとはまるで違う、澄みきった青だった。
見上げれば、建物の向こうに、どこまでも広がる青空がある。
「ヒヴァとは、また全然違う雰囲気やな」
「うん。……なんだか、息がしやすい気がする」
舜太が感嘆するように言うと、柔太朗も小さく頷いた。
撮影は、滞りなく進んだ。
瑠璃色のドームを背景にした、キャンペーンの締めくくりとなる一枚。迷いなく一つの絵に収束していく。
「──良いカットになりました。これで、撮影は全て終了です」
ブランド担当者の言葉に、現場の空気が、ふっと緩んだ。
夕食のあと、柔太朗は、思い切って舜太を誘った。
「少し、歩かない?」
「ええけど、どうしたん、急に」
「別に。ただ、歩きたい気分なだけ」
宿の周りを、特に目的もなく歩きながら、二人はしばらく、他愛もない話を交わした。
会話が途切れたところで、柔太朗が、ふと切り出した。
「──あの写真、城壁の上で撮った、本当に出さないの?」
舜太の足が、わずかに止まる。
「出さない」
「そっか」
柔太朗は、耳元の青いガラスに指先で触れながら、小さく笑った。
「あの時さ、嬉しかったんだ」
「……そうなん?」
「うん。被写体としてじゃなくて、俺自身を見てくれてるんだなって。そう思えたから」
静かな声だった。飾らない言葉の分だけ、まっすぐに届いた。
舜太は、しばらく黙って、柔太朗の横顔を見つめていた。
言うべき言葉は、ずっと前から胸の中にあった。それでも、踏み出す勇気だけが、いつも足りなかった。
「──俺も、ずっと思ってたことがある」
「うん」
「カメラ越しやなくて、俺自身を見てほしかった。モデルとカメラマンっていう関係やなくて」
柔太朗が、立ち止まって振り返る。
「それに」
舜太は、少し言葉を探すように、間を置いた。
「仕事終わって帰るたび、ほんまは、毎回ちょっと寂しかった。シャッター切ってる間だけやなくて、それが終わった後も、ずっと、こうして見ていたいって、そう思ってたんや」
「──俺も、同じだった。撮られてる時間が、一番自分らしくいられる気がしてた。撮影が終わって、機材を片付け始めるたびに、いかないでって、ずっと思ってた」
二人のあいだにあった距離が、言葉を重ねるごとに、静かに縮まっていった。
「──好きだよ」
「……うん。俺も」
飾らない、短い言葉だった。
それだけで、ようやく報われた気がした。
どちらからともなく、顔が近づく。唇が触れ合ったまま、しばらく、どちらも動かなかった。
言葉にできなかった想いの全部を、今、ようやく確かめ合うように。
夜風が、二人の間を静かに吹き抜けていく。
遠くに見えるマドラサの輪郭が、月明かりの下で、淡く浮かび上がっていた。
言葉にされた想いは、もう、どこにも迷う必要がなかった。
コメント
1件
るりさん、この第18話、めっちゃよかったです…!😭💕 ヒヴァの砂色からサマルカンドの瑠璃色のタイルへ、景色が変わっていくだけで空気感がガラッと変わって、読んでるこっちまで新しい息ができる感じがしました。 そして何より、城壁の上の写真の話から「カメラ越しじゃなくて俺自身を見てほしかった」って舜太の言葉…!ここまでの距離感をずっと抱えてたんだなって思うと胸がぎゅっとなりました…。 二人の気持ちがようやく重なって、月明かりの下でキスするシーン、星空に溶けそうなほど美しかったです…✨ るりさん、素敵な物語をありがとうございます!完結まであと少しでしょうか?最後まで大事に読ませていただきますね🌸