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MIGI♡SAKU

第11話 - 【🖤】初恋の香り

2025年04月30日

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cham

【sk】

今日の仕事が終わり、控室でいつものようにみんなで騒いで楽しい時間を過ごしていた。

地方での泊まりがけの撮影のため、みんないつもよりどこか浮き足立っている。

俺も浮かれているうちの1人で、はしゃぎ過ぎて全然帰る準備が進まないラウの着替えを手伝ってふざけていた。

「佐久間くんえっち〜♡」

「へっへ…いい体しやがって！」

「キャーーー」

みんなで笑いながらじゃれあっていると、ふと後ろから視線を感じて振り返る。

探さなくてもすぐに分かる視線の正体。

着替えを済ませて座って待っていた蓮がじーっとこっちを見ていた。

目が合うと、ぱっと花が咲いたように蓮が微笑む。

「佐久間くん、こっちおいで」

目が合うのを待ってたみたいに手招きしてくる。

みんな楽しそうにしてたから声をかけずに待ってたんだなと思うと、その健気さに俺も自然と笑みがこぼれた。

「出たよめめの彼氏面」

「彼氏だもん」

ラウの言葉に一切動じず、当たり前ですとでも言わんばかりに笑う俺の彼氏。

「ひゃーやだやだこっちが恥ずかしくなっちゃう！」

蓮を煽るようにラウが抱きついてくる。

揶揄いながらもいつも味方でいてくれるこの末っ子が可愛くて、頭をよしよしと撫でていると待ちきれない様子の声で再度名前を呼ばれた。

「佐久間くん、早くこっち」

名残惜しそうにラウが俺から離れる。

はーいと返事をして小走りで蓮の元へ向かうと、黒い瞳が嬉しそうに輝いた。

「どしたの？やきもち？」

「んーん、隣にいてほしいだけ」

頬杖をついて優しく微笑みながら、隣の椅子を引く蓮。

…ナチュラルにイケメン！

その表情や所作が眩しすぎて、なんだかふっかを摂取したくなる。

「ふっか…！」

呆れた顔でこっちを見ているふっかに助けを求めて手を伸ばそうとした時、

「ちょっとどこ行くの」

ぐっと腕を掴まれてそのまま膝の上に座らされた。

「あーやっぱ丁度いいサイズ感」

後ろから抱き締められて、すっぽりと蓮の大きな体に収まる。

みんながいてもお構いなしに甘えてくる少し空気の読めない困った人。

それでも、甘える姿が大きい犬みたいで可愛くて、結局全部許してしまう。

みんな呆れたような目で見ながらも、俺と同じようなことを思っているのかなんだかんだ微笑ましく見守ってくれていた。

「佐久間くん、今日ホテルまで歩いて帰ろうよ」

「もう外暗いよ？」

「うん、暗いのがいいの」

後ろから抱き締められているから顔は見えないけれど、にこにこと笑っているのが背中から伝わる。

いいよ、と返事をすると俺を抱き締める腕にぎゅっと力が込められた。

＊＊＊

暑苦しいから早く帰れとみんなに追い出されて、暗い夜道を2人で歩く。

「佐久間くん、手」

すっと差し出された手を迷いなく握る。

東京と違って人通りの少ない静かな街。

堂々と手を繋げるのが嬉しくてにへっと笑って蓮を見上げる。

蓮も同じように笑っていて心があったかくなる。

月が綺麗だねとか、虫が鳴いてるねとかどうでもいい話をしながらゆっくりと歩く。

「おじいちゃんになったら佐久間くんと田舎で暮らしたいな」

突拍子もないことを言い出す蓮につい吹き出してしまった。

遠い未来に当たり前のように俺がいることが嬉しい。

「自給自足生活でもする？」

「いいね、俺畑で野菜作るよ」

佐久間くんが飽きないようにたくさんの種類の野菜を作るんだと嬉しそうに話す蓮。

その様子が可愛くて、しばらく蓮の未来計画に耳を傾けてみることにした。

「綺麗な川が近くにあるといいな」

「俺の釣った魚を佐久間くんに食べさせてあげたい」

「花も植えて一緒に季節を感じたいよね」

…なんて平和で幸せな生活だろう。

実際はそんな上手くはいかないんだろうけど、蓮と一緒ならそんな未来もありかもとふふっと笑う。

おとぎ話みたいに幸せな話を楽しんでいると、蓮が急に静かになった。

「どうかした？」

「金木犀の匂いがする」

そう言われて匂いを嗅いでみると、確かに俺の好きな甘い香りがした。

こっち、と手を引かれるまま香りの強い方へ歩みを進める。

少し歩いた先にあった人気のない公園。

その公園の隅に、たくさんの花をつけた金木犀の木を見つけた。

「綺麗だね」

どちらともなく呟いて甘い香りを放つ木を見つめる。

「金木犀も植えようね」

あ、その話まだ続いてたんだ。

あまりにも嬉しそうに夢を語るから、水を差さないようにそうだねと静かに返す。

「金木犀の花言葉ってなんだろう」

ぽつりと蓮が呟いた。

金木犀の花言葉。

前に一度調べたことがあったけど、たくさんあって全部は思い出せない。

「…初恋」

真っ先に思い浮かんだのがこれだった。

俺が呟いた瞬間、薄暗い中で蓮の瞳がきらりと輝いたように見えた。

「初恋か…いいね、それ」

そう言うとゆったりとした動作で屈んで、下に落ちていた金木犀の花を一輪拾い上げる。

「ちっちゃくて可愛い花だね」

佐久間くんみたい、と摘み上げた花を愛しそうに見つめている姿がとても儚くて見惚れてしまう。

「俺たち今までそれなりに恋愛はしてきたけどさ、俺にとっては今が初恋って感じ」

「そうなの？」

「うん、いつだって本気ではあったけど、1人の人にこんなに焦がれたのは初めてだよ」

そうなんだ…

一途な恋愛をしてきたイメージがあったから少し意外だった。

「誠実でいようって後悔しないように生きてきたけど、相手に応えることしか考えてなかった」

蓮らしいな。

話しづらいことでも、真っ直ぐに自分の全部を言葉にして伝えてくれることが嬉しい。

蓮がこの恋を初恋と呼んでくれるのなら、俺だってそう。

心も、体も、全てを許せるほど誰かを好きになったのは蓮が初めてだった。

「俺の方からこんなに求めたのは佐久間くんだけ」

はい、と手に持っていた小さな花を差し出される。

言われるがまま受け取って、その花を見つめる。

さっき蓮が小さくて可愛いと言っていた花。

急に恥ずかしくなって顔を上げようとすると、至近距離に蓮の顔があった。

そのまま静かにキスをされて、一瞬時間が止まったような感覚に陥る。

こつん、とおでこをぶつけて、いたずらが成功した子供のように蓮が笑う。

「ねえ佐久間くん」

ん？と視線だけを蓮に向ける。

「俺と一緒に人生を歩んでくれる？」

まるでプロポーズみたいな言葉。

そんなの、聞かれなくても答えは決まっている。

「もちろん」

ふにゃりと笑う綺麗な顔が、今はきらきらと輝く瞳で更に綺麗に見える。

静かな夜に、ふんわりと優しい月明かりと甘い金木犀の香り。

穏やかで、ゆるやかに過ぎていくこの時間はまるで俺たちの関係そのものみたい。

いこっか、と再び手を繋いで歩き出す。

今日の夜みたいに優しくて心地いい蓮の声が、また夢の続きを語り始める。

その声に耳を傾けながら、いつか本当にやってくるかもしれない俺たちの未来にそっと思いを馳せた。

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