テラーノベル
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最後の戦いは、雪の降る夜だった。
今までで一番大きな怪物が、街に現れた。わたしはいつものように変身して、いつものように、杖を構えた。
けれど体が重くて、足がうまく動かなかった。
獣みたいな怪物の大きな爪が、わたしを襲う。背中のリボンがわたしを守る。光が散る。
戦いながら、あの子のことが頭に浮かんだ。
あの子は、今どうしているだろう。
あたらしい学校で、友達はできただろうか。
誰かに、優しくしてもらえているだろうか。
怪物がサイレンみたいな音を出しながら、爪を振り回す。
あと少しのところで、魔法が間に合わなかった。
胸の奥で、鈍い音がした。
ああ、と思った。
それでもわたしは杖を握った。
体の奥に残っていたものをぜんぶ集めて、光を放つ。
ふっと持ち上がった怪物の影が、光の中に吸い込まれて消えた。
********
街に音が戻らないまま静かになる。
わたしはその場に膝をついた。
雪が降っていた。
白い世界にわたしは一人ぼっちだった。
胸にそっと手を当てる。鼓動が聞こえない。
代わりに、つめたくてかたいものが、そこにあった。
ふわっと浮かび上がるような感じがして変身が解けると、わたしの体は、光の粒になってほどけていった。
あとに残ったのは、一粒の大きな真珠だった。
真っ白な中に、よく見ると、うっすらと花びらみたいな色がまじっている。
月の光を受けて、まるくなめらかに、花びらが揺れた。
魔法少女の最後。
わたしは、真珠になった。
あの日、あの子に会いに行かなかった自分より、ずっと、ずっと、きれいな形になった。
どれくらいそこに留まっていたのか分からない。
その真珠を拾い上げたのは、中学生くらいの女の子だった。
雪の降る公園で、彼女はそれを見つけた。
月明かりに照らされた真珠を、そっと手のひらに乗せる。
「やっと……」
彼女は小さく、そう呟いた。
その声は、どこか冷たい感じがした。
その横顔を、わたしは知っている。
大きくなった、あの子だった。
転校したあの子が、この街に戻ってきていた。
「ずっと、探してたんだよ」
彼女は、真珠から目を離さない。
その目は、わたしの知っている、少し気が弱そうで、やさしい目とは、少し違っていた。
公園のはしで、白い猫がじっとこちらを見ている。あの夜の猫と同じ目をしていた。
女の子は、真珠を胸元にしまって、歩き出す。
わたしは何も言えなかった。もう真珠になってしまっていたから。
ただ、真珠の中で震えていた。
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