「……で、死体が見つかったのは」
「私の部屋ですわ。刺されてましたの。」
龍の部屋を教えてくれと言うので
燁子も質問に答えながら三人で向かう。
「他に同居人は?」
「居ませんわ。」
「では、殺された女性は貴女の…」
「全くの無関係ですわ。
姉妹でもありません」
なるほど、と真剣な顔をして
塩谷は聞いている。
「この家に龍さんと一緒に
二人きりで住んでいる、
というわけですね」
「ええ。そうですわ。」
「失礼ですが、お二人の関係は」
「少なくとも恋仲ではございませんわ」
「そんな気はしていました。」
余計なこと言うなよ……。
燁子がもっと変なことを言いやしないかと
龍はヒヤヒヤしながら扉を開けた。
「……此処が俺の部屋です。」
「ほほう。」
六畳一間。なかなかに狭い空間。
そこは、何もない。
小さいタンスと文机。
少し毛羽立った畳が侘びしさを助長する。
「龍さん、やっぱり何にもないですわね
何か欲しいものがあれば、
何時でも言って良いのですよ?」
「煩いですよ……」
塩谷はちらと二人を見、
申し訳程度に付いた窓のカーテンを
ペラリとめくった。
外は真っ暗であった。
この部屋はどうやら西向きのようで
月は見えない。
「ふぅむ……。」
「もう良いでしょう、
どうせ調べたって何も出ませんし、」
龍としては
さっさと部屋を出ていってほしい。
侘しい部屋を見られるのは
やはり気持ちのいいものではない。
「そうですね、一応後ほど鑑識が入りますが
宜しいでしょうか」
建前上、丁寧に訊いてくるが
断れば自分が犯人だと
決めつけられると解っている。
龍はコクリと頷いた。
大体自分は人を殺していないのだ。
疑われるようなことは避けるべきだろう。
堂々としていれば良い。
横で燁子がソワソワと忙しなかったので
取り調べは長引いてしまったが。
「落ち着いてくださいよ!」
「だって、なかなか見られないじゃない?」
子供のようにキラキラと目を輝かせ
彼女は鑑識の作業を見ながら言った。
「物好きですね」
「そうかしら。
知らないことが嫌いなだけよ。」
手元から一切目線を離さない。
「此方としては、
あんまり見られたくはないのですがね。」
頭を冷やし、冷静になった様子の田所が言う。
どうやら普通にしていれば
できる男のようであった。
まぁ、あんな事を言うようでは
いつまで経っても三下、
警部には一向に成れなさそうである。
「でも、とっても面白いですわ」
ずっと見ていたい。
やはり目を逸らさず、燁子は言った。
死体を前に
いつもと寸々違わぬ華のある笑顔で。
「好きにして下さい」
もうあなた達の身の潔白は証明されたので。
何やら他の刑事と話していたようであった
塩谷が此方に向かいながら言う。
「まさか、死亡推定時刻に
署にいらっしゃっていたとは。」
「ええ。だって、わたくし、」
凶悪犯罪を犯したんですもの。
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