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三浦春馬君のことを乗り越えられず、寝たきりになった女に朝が来た。
「くそっ、私なんかに朝が来るな」
もはや、女の人生は、三浦春馬君のことを踏み台にして、自分自身の幸福だけを追求する世の中に対する抵抗になっていた。苦しみだけが生きがいだった。
「私なんかが、長生きしないように祈っているだろう」
女は、いるかもしれない神様に話しかけた。神様がいるなら、なぜ春馬君を救わなかった? 神様など、信じられるはずもなかった。
「私はただ甘えているだけなのか?」
男はつぶやいた。女の同世代の人達は働いて、結婚して、子供もいるかもしれない。もう、彼らと関わる権利もない。彼らに迷惑をかけてはいけない。 女のスマホは埃被っていた。 芸能界も、彼らのためにあるのだろう。 自分のような精神的に弱い人間は、社会にいらないのだ。 精神的に弱いからこそ、強くなるために薬学部に入り、薬剤師になったのに、女の心は完全に死んでしまった。 薬剤師は、人の命を扱う大切な仕事である。ミスは許されない。 しかし、今女は生きていることさえ、辛い状況だった。
「一番辛いのは春馬君だ!なんで私なんかに朝を与えるんだ」
女は、自分が生きていることさえ、春馬君に申し訳なくてたまらなかった。 春馬君の笑顔に救われた精神的に弱い自分を許すことはできなかった。
「寝たきりになる権利は春馬君こそ与えるべきだろ!」 女は、近所に迷惑をかけてはいけないので、マスクを二重にして、布団を被って叫んだ。
そんな精神的に弱い自分を許せるはずもなかった。
しかし、春馬君は、自分のような人間にも夢と希望をくれた。 そんな春馬君が救われない世の中はもっと許すことはできなかった。
女は選挙権を放棄した。 春馬君を救えない世の中、自分のような人間に朝を与える世の中を許すことはできなかった。
自分のことだけ考えていれば、女は楽に生きられたはずだ。
パーキンソン病でも必死に働き、家族のために尽くして亡くなった父親。 そんな父親のおかげで取れた薬剤師免許など、返納したかった。 そして、そんな父親の遺族年金で生きることを許されている、精神的に弱い自分自身を許せるはずはなかった。 「私なんかに朝を与えるな!春馬君に朝を与えろよ!」
女は、近所に迷惑をかけてはいけないので、マスクを二重にして、布団を被って叫んだ。
女は車のリコールの部品の交換のため、ホンダに行った。
コストコに行ったら、家族連れが多く、春馬君や父のことを思ったら胸が苦しくなった。
みんな楽しそうで、幸せそうだった。
自分の感情は我慢できても、春馬君のことを思えば、あんまりとしか思えなかった。
自分が救われるために作品を二度とみたくない。
ホンダの雑誌コーナーに他の芸能人の顔が並ぶのも耐えきれなかった。新聞も見たくなかった。未来なんかなかった。テレビがついているのも苦痛だった。
暑ささえ気づかなかった。
自販機やバス停の広告も見たくなかった。
母親は、女が気が狂ったと思い、様々な相談機関に電話をかけた。
しかし、当たり障りのない答えしかなかった。
病院に行っても、春馬君は過去のものとして扱われ、ただ明るく楽しく笑顔で長生きするための人生と、薬しか渡されない。
「自分さえよければいいのか!一番苦しいのは春馬君だろ!ただ楽観的に明るく、楽しく、笑顔で長生きすることだけが人生だというのか!」」
女は絶望した。
春馬君のファンも許せなかった。 彼らは、春馬君のことを悲しんでいたのではなかった。 自分が推し活ができないことを悲しんでいたのだ。 あくまで一番辛くて、可哀想だと思っていたのは自分だと思っているような奴らしかいなかった。
ファンがどれほど偉いというのだろう。 自分の気持ちを訴えたり、誹謗中傷を繰り返したり、陰謀論を唱えるだけで、推しの苦しみを全く考えない。
「春馬君の分まで、明るく楽しく長生きするね♡♡♡」
自分本位のポエムしか語れないファンなど、関わりたくなかった。
「なんでファンだけが救われないといけないんだよ!一番苦しいのは春馬君だろ!ただ楽観的に明るく、楽しく、笑顔で長生きすることだけが人生だというのか!」
女は叫んだ。 迷惑をかけてはいけないので、マスクを二重に被り、布団の中で叫ぶしかなかった。
誰も、春馬君の苦しみを考えない。 考えてもわかるわけはない。だからといって、全く考えないのは違うだろう。
「一番苦しいのは春馬君だと言っているだろう。それなのに、ファンは自分の苦しみだけを訴え、誹謗中傷や陰謀論を唱える。自分が明るく笑顔で楽しく長生きするために、春馬君を利用していただけだろう!まだ文句があるのかよ!」
女の叫びは、誰にも届かなかった。
桜は自分の美しさを知らない。 一生懸命咲いて、散っていくだけだ。 周りは桜の美しさを利用して、自分が明るく楽しく長生きするためだけに利用するだけだ。 桜の苦しみなんか全く考えない。 桜が散れば、すぐに忘れ、前を向いて別の桜を見つけていく。
女は、春馬君と桜を重ね合わせて、涙を流した。
「私なんかに朝を与えるな」