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揚いなり
60
み う . @自給自足
21,546
えりんぎ
235
関田は、よく笑う。
柳田は、それを知っている。
誰とでも気さくに話すし、面白いことがあれば遠慮なく笑う。話を振られれば楽しそうに返すし、仲のいい相手には自分から近づいていく。
そういうところが好きだった。
最初から、そうだった。
だから、練習後に関田がチームメイトと楽しそうに話していても、別に気にするようなことではない。
——ないはずだった。
「関さん、今日このあと時間ある?」
少し離れた場所から、そんな声が聞こえた。
関田が顔を上げる。
「ん?あるよ。どうした?」
「ちょっと聞きたいことあってさ」
「しょうがないなぁ」
返事が早い。
柳田はタオルで汗を拭きながら、そちらを見た。
関田は相手の話を聞いて、何度か頷いている。途中で何か冗談を言われたらしく、声を上げて笑った。
その顔を見た瞬間、柳田は手元のタオルを畳み直した。
一度、きれいに畳んだはずなのに。
「……マサさん?」
隣から声をかけられ、柳田は顔を上げる。
「ん?」
「それ、さっきからずっと畳んでません?」
「……そう?」
「はい」
言われて初めて、自分が同じ動作を繰り返していたことに気づいた。
柳田はタオルをバッグにしまった。
「気のせいだよ」
「ふーん?」
相手は少し不思議そうにしたものの、それ以上は聞かなかった。
柳田も、もうそちらを見ないことにした。
見たところで、何も変わらない。
関田が誰と話そうと自由だし、誰と笑おうと関田の勝手だ。
恋人だからといって、すべての時間を自分に向けてほしいなんて思っていない。
……思っていない、つもりだった。
「じゃあ、後で連絡していい?」
「わかった。おつかれ。」
ようやく会話が終わったらしい。
関田がこちらに振り返る。
目が合うと、ぱっと表情が明るくなった。
「まさ!」
その呼び方に、柳田の胸の奥がわずかに緩む。
「帰ろ」
「うん」
いつも通り。
関田は自分の荷物を持ち、柳田の隣に並んだ。
「今日さ、練習の最後のやつ、ちょっと悔しかったんだよね」
「うん」
「あと一歩だったと思うんだけどなあ」
「そうだね。惜しかった」
「でしょ?」
関田は柳田の顔を覗き込む。
「まさ、ちゃんと見てた?」
「見てたよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「ならいいや」
そう言って笑う。
柳田は、今度こそ自然に笑えた。
自分に向けられる笑顔がうれしい。
自分に話してくれることがうれしい。
さっきまで誰と何を話していたかなんて、もうどうでもいい。
——そう思えたら、よかった。
「そういえばさ」
関田が何気なく続けた。
「さっきの話、あとで聞くことになったんだよね。まさ、先帰っててもいいよ?」
柳田は一瞬だけ、返事を止めた。
「……ふうん」
「そんな時間かかんないと思うけど」
「……うん」
「だから、もし待たせちゃったら悪いし」
関田は気遣って言っている。
それはわかっていた。
自分をないがしろにしたいわけでも、帰りたくないわけでもない。
ただ、予定ができた。それだけだ。
「わかった」
柳田は短く答えた。
関田が少しだけ首を傾げる。
「……まさ?」
「ん?」
「なんか、怒ってる?」
柳田は関田を見た。
心配そうな顔をしている。
本当に、何もわかっていない顔だった。
怒っているわけではない。
関田に何かをやめてほしいわけでもない。
ただ。
今日も一緒に帰れると思っていた。
それだけだった。
柳田は関田の頭に手を置き、軽く撫でた。
「怒ってないよ」
「……ほんと?」
「うん」
関田はしばらく柳田の顔を見つめていたが、やがて安心したように笑った。
「ならよかった」
そして、何のためらいもなく柳田の腕に自分の腕を絡めた。
「じゃあ、あとで連絡するね。おれ、まさのこと待たせたくないし」
——ずるい。
柳田は思った。
そんなふうに笑って、そんなふうに触れて。
自分がどれだけ簡単にうれしくなってしまうか、きっと知らない。
「……ん」
それ以上は言わず、柳田は関田の腕を軽く引き寄せた。
関田は一瞬驚いたものの、すぐに笑って体を寄せる。
「なに、まさ。きょう、くっつきたい日?」
柳田は答えなかった。
代わりに、関田の額にそっと唇を寄せた。
一瞬だけのキス。
関田が目を丸くする。
「……っ、え、なに!?」
「……別に」
「別にってなに!?」
関田が笑いながら柳田の肩を叩く。
「急にするじゃん!」
柳田はその反応を見て、ようやく少しだけ口元を緩めた。
「嫌だった?」
「……やじゃないけど!」
「ならいいでしょ」
「よくない、びっくりする!」
そう言いながらも、関田は柳田の腕から離れなかった。
むしろ、さっきより近くにいる。
そのことがうれしくて、柳田はもう一度、関田の頭を撫でた。
けれど、胸の奥に残ったものは消えなかった。
関田がほかの誰かと楽しそうにしていたこと。
自分との帰り道より、そちらの予定を優先することになったこと。
どれも、責めるようなことではない。
わかっている。
わかっているのに。
好きな人が自分以外の誰かに向ける笑顔を、こんなにも気にしてしまう。
その事実だけが、ひどく面倒だった。
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Haruです
短編集始めました!
明日から、こちらと14×5を一話ずつ投稿できたらな、と思ってます!
よろしくお願いします🙇🏻♀️