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にゅうひん☆
905
M_Yuzu
752
間接照明の灯りが点る仄暗い寝室で、阿部はベッドに寝そべって、スマホを見ていた。
真剣な顔をして見つめる画面には、「コスプレを盛り上げるには?」という質問への回答が表示されていた。
要するに、予習である。
他にもいくつかサイトを見たり、AIに聞いてみたりした後、阿部はふう、と一息ついてスマホを置いた。
衣装を着ただけではダメで、設定とロールプレイが必要なことは理解できた。岩本の飼い猫の設定を活かすために、必要なスパイスを考える。
(……『ご主人さま』呼びとか、どうだ?)
猫に扮した阿部を、岩本はすでに第三者に自慢したいくらいに、可愛いと思って気に入っている。その独占欲とSっ気、庇護欲を刺激するには最適な言葉だと阿部は思った。
いつもは甘やかされる側だが、今夜くらいは岩本を翻弄してみたい。
阿部は密かに、そんな野望を抱いていた。
ドアが開く音がして、薄く光が差し込んだ。
阿部は起き上がり、胡座をかく。
「良かった、起きてた」
心底ほっとした口調で、岩本が呟いた。彼は大股でベッドに歩み寄ると、そのままベッドに上がり込み、阿部を抱きすくめた。勢いよく抱きつかれて、阿部はされるがまま後ろにひっくり返る。
「あべぇ、今日はごめんねぇ」
申し訳なさそうに阿部の髪を撫でながら、大型犬岩本が言う。
「……反省したの?」
阿部は尋ねた。
「した。超反省した」
身体を起こし、阿部の目を見て、岩本は即答する。阿部は真顔で岩本を見つめ返した。じっと見つめると、真剣な顔をした岩本に次第に不安の色が滲み出す。
「まだ怒ってる……?」
不安げに聞いてきた。阿部はそのしょんぼりした様子に思わず吹き出した。
「もう怒ってないよ」
笑いながら言う。岩本は、パッと表情を明るくして、覆い被さるように阿部を抱きしめ直した。もし岩本に尻尾があったなら、今頃、千切れんばかりに振り回していただろう。
「ひかるが自慢したくなったのも、誤爆するほど舞い上がったのも、俺が可愛かったからだもん。仕方ない」
うんうん、と頷きながら阿部が冗談っぽく、でもちょっと本気のトーンも滲ませて言った。
「でも、もう誤爆は勘弁」
「うん。気をつける」
阿部は小さく微笑んで、岩本の顔を引き寄せると軽く口付けた。
「……そんなことよりさ」
そして小さく切り出した。
「早くご主人さまに可愛がって欲しいにゃあ」
低く囁く。
「ご、しゅじんさま?」
岩本が上擦った声で反芻した。
(はい、刺さった)
阿部は心の中でニヤリと笑った。
「ひかるは俺の飼い主さんだから、ご主人さまって呼んだんだけど……イヤ?」
熱っぽい視線を注ぎ、小首を傾げる。
「い……いやじゃない……」
絞り出すような声で岩本は、気恥ずかしそうに言った。
「良かった」
阿部はにっこりと微笑む。
(ひかる、チョロいな)
やはり自分の予想は間違ってなかった、と阿部は満足げに口の端に笑みを浮かべた。岩本の首に腕を投げかけ、引き寄せる。
「ご主人さま、交尾しよ♪」
耳元でダメ押しする。岩本が小さく息を吐くのが分かった。
(……今日、俺がイニシアティブ取れんじゃね?)
余裕をなくしていく岩本とは裏腹に、阿部は冷静な頭でそう思った。
今日は自分が主導権を握るつもりだった。
予習とシミュレーションは繰り返し行ったし、岩本も今日は強く出られないだろうという算段もあった。
が。
誤算だったのは、『ご主人さま』呼びが岩本に刺さりすぎたことだ。
最初は良かった。まだ阿部が主導権を握っていた。しかし、猫語と『ご主人さま』で煽り過ぎた。
結果、岩本は早々にストッパーを外し、阿部は完全に主導権を奪われる羽目になった。
「ん…っ、にゃぁ、っん、ご、しゅじ…ッさま、も、無理ぃ、イけないぃ……っ!」
細い腰をしならせ、阿部が狂おしい甘い声を上げる。
執拗な口淫で幾度となく絶頂へ押し上げられ、もはや精液すら出ない。だらしなく先端から蜜を滴らせているだけだ。
「まだイけるでしょ」
快楽の過剰摂取で半泣きになっている阿部を見下ろし、岩本は表情ひとつ変えずに淡々と言い放つ。
「こっちも可愛がってあげるから、もう一回イこうか」
無情にも、熱く濡れた後孔へ指が滑り込まされた。
「んあっ!やっ、両方ッ、は、だめ…っ!」
限界を迎えた体が反射的に逃げようとするが、岩本はそれを許さず、ガッチリと阿部の片脚を抱え込んで固定する。
容赦なく二本の指で前立腺を強く穿たれ、阿部は声にならない悲鳴を上げて喉を反らした。
「っ……!」
視界の端で光がチカチカと弾ける。固くシーツを掴んだ指先に力がこもる。射精を伴わない、強烈な痺れのような絶頂が脳を焼き尽くしていった。
「……頑張ったね」
真っ白になって脱力した阿部に、岩本はふっと柔らかい声をかけ、汗に濡れた頬を優しく撫でた。
その手の温もりに、阿部はとろけた瞳で見つめ返す。
「ごしゅじん……さまぁ、俺と、交尾、してぇ……っ」
完全に自我を溶かされた顔で、乞うように身体を擦りつける。身体の奥が熱く疼いて止まらない。あんなに弄ばれた後だというのに、身体がまだ彼を求めて叫んでいる。
もう一つの誤算。
それは阿部にとっても『ご主人さま』呼びが刺さったことだった。快感の中でご主人さまと口にするたびに、彼の中の被虐性が刺激された。主導権を取ろうとしたことなどすっかり忘れて、ただ主人に甘やかされる、淫らな黒猫に成り下がっていた。
「あんなにイッたのに、まだ欲しいの?」
「ん……ほしい……ちょうだい」
両手を差し出す阿部の腕を取り、岩本は上半身を起こさせると、そのままうつ伏せへと組み敷いた。
「いい声で鳴いて」
耳元で低く囁かれ、耳たぶを甘く咬まれた。細い腰を掴み上げられ、固く熱く猛る質量が、開かれた場所に強く当てがわれる。
じち、と音を立てて奥深くへと侵入してくる塊。
「っ……ふ、ぅ、にゃ……あぁ……ッ!」
体内を強引に押し広げていく圧倒的な熱量に、阿部の唇から快楽の吐息が漏れた。
待ち望んでいた激情が注ぎ込まれた瞬間、胸の奥が満ち足りた愛おしさでいっぱいになる。
押し引きされる腰の動きに合わせ、嬌声が部屋に響き渡る。
自分以上に自分の弱点を知り尽くしている、愛しい『ご主人さま』。阿部は全てを彼に委ね、恍惚の波の中でただひたすらに快楽を貪った。
体の最奥。とびきりの一点を深く突かれ、阿部はこの夜一番高い声を張り上げた。シーツを破らんばかりに握りしめる。
「んあぁッ、は……っ、そこ、きもち、ぃっ……!」
「ん……ここ、好きだよね」
阿部の手の上に岩本の手が重なる。覆い被さるように前傾姿勢をとられ、太い塊がさらに深く、未知の領域へと滑り込んだ。
加速度を増すストローク。一突き叩き込まれるたびに、阿部の首元につけられた金色の鈴が、チリン、チリンと高く鳴り響く。昂まり合う二人の熱に比例して、鈴の音も激しく、切なく乱れていった。
「ぅあ…ッ、あ、イっ、……っ!」
ビクビクと身体が大きく痙攣する。
頭の中が真っ白に弾け、凄まじい快感と圧倒的な幸福感が全身の神経を駆け抜けた。次の瞬間、すべての力が抜け、阿部はシーツの上に崩れ落ちた。
「は……ん、ごしゅじん……さま……」
余韻に震える身体から自身を引き抜いた岩本は、すっかり無抵抗になった阿部を抱き上げ、仰向けに転がした。そしてその上に跨がり、膝立ちになる。
阿部は阿吽の呼吸でトロンとした目を向け、少しだけ口を開けてピンク色の舌を出した。
そこを目がけて、岩本は溜め込んだ熱い精液を迸らせる。
「……ん……」
従順にそれを受け止め、ゆっくりと喉を鳴らして飲み込む。喉奥に広がる独特の苦味さえも、彼に完全に征服された証のように思えて、阿部は満足そうに目を細めた。
すべての欲望を吐き出した岩本が、倒れ込むように隣へ身体を横たえる。
しばらくの間、薄暗い部屋には荒い二人の息遣いだけが重なっていた。
呼吸が整うと、岩本がそっと阿部を横から抱き寄せた。頬に飛び散っていた体液を、指先で愛おしそうに拭う。
阿部が縋り付いて、頬を岩本の胸に擦り寄せた。
「……だいすきぃ」
蕩けた甘い声。その仕草はまるで本物の猫のようで、岩本の耳には彼が嬉しそうに喉をごろごろ鳴らしている音まで聞こえる気がした。
「……そんな可愛いと、また自慢したくなる」
岩本はぽつりと呟いた。
「えっ、ダメ!絶対、ダメ!!」
阿部が慌てて言う。
「これは、ひかるだけの特典なんだから!秘密にして!!」
「分かったよ、可愛い猫ちゃん」
必死になる阿部に岩本は笑って、彼の鼻を軽く摘んだ。もう、と阿部は呟き、また岩本の胸に頭を預ける。
そんな時、サイドテーブルに置いた岩本のスマホが小さく震えた。
マネージャーからの連絡だ。岩本は名残惜しそうに体を起こすと、通知を確認する。明日のスケジュール連絡のあと、未読が溜まっていたグループLINEを開いた。
さすがにもう、からかいは沈静化していた。ざっくりとメッセージを遡ると、ふと佐久間のメッセージが目に留まった。
『あべちゃんから特大の惚気来た!』
「特大の惚気」という言葉が気になり、岩本はさらにメッセージを遡った。そこには阿部が送ったメッセージがあった。
『ひかるは自慢したいくらい、俺のこと可愛いと思ってんだぞ。まいったか』
岩本はその文章を二度読んだ。
それから、隣の阿部を見る。
阿部も横目でこちらを見ていた。メッセージを見たのに気づいたらしく、ちょっと気まずそうな顔をしていた。
「……異論ある?」
ふい、と視線を逸らして阿部が尋ねる。
ちょっと不貞腐れたような口調だったが、その耳がほんのり赤い。
岩本は、胸の奥から湧き上がる愛おしさに耐えきれなくなった。
「ない」
即答して、阿部の柔らかい頬に唇を寄せる。
「全っ然ない」
繰り返して、彼を抱きしめた。
二人は互いの体温を感じながら、しばらく無言で抱き合っていた。心地良い疲労感と、胸いっぱいの多幸感を噛み締める。
「……ねえ、またコスプレしてよ」
ふわふわの猫耳を触り、岩本が言った。
「たまにはいいでしょ」
少し照れたような岩本に、阿部はふわりと笑う。
「ふふ、いいよ。今度は何、着ようか」
「阿部が嫌じゃないなら、何でもいい」
「えー?ひかるも選んでよ。ひかるが気に入るのがいいし」
阿部の言葉に、岩本は微笑んで「分かったよ」と小さく呟いた。
「あ、でも、俺がどんなに可愛くても、自慢すんのは禁止ね」
冗談めかして阿部が釘を刺した。岩本は苦笑する。
「自慢したいけどなあ」
「だーめ」
阿部は柔らかく言って、岩本にぎゅっとしがみついた。
「ひかるにしか見せないよ。特別だからね」
耳元で小さく囁く。
「特別かあ」
嬉しそうに岩本が反芻した。
阿部は身体を起こし、ほんの一瞬、岩本の頬に口付ける。
阿部の首元で、金色の鈴がチリンと鳴った。
コメント
4件
はああああああああ天才すぎる🤦🏻♀️🤦🏻♀️🤦🏻♀️
あの、すごくありがとうございますと言いますか....、ありがとうございます😭
あおいです、読ませていただきました🌷 「ご主人さま」呼びが岩本さんに刺さりすぎて、逆に阿部くんが完全に主導権を奪われちゃうの、もう……! 作戦立てて挑んだはずが、自分もその言葉に酔っちゃう展開、すごく良かったです。鈴の音が二人の熱に比例して激しくなる描写、官能的で心拍数上がりました。最後の「特大の惚気」メッセージを岩本さんに見つかっちゃうところ、阿部くんの照れ具合が愛おしすぎる……。また違うコスプレも見たくなりました!