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#タイムスリップ
えれめんたる
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#架空の病気
えれめんたる
15
物語の怪物が死んだ後、俺と彼女は呆然と立ち尽くしていた。それしか、できなかった。
「……あなた、何者」
今までとの声とは違う、警戒の入り混じった声。
「いや、俺は…普通の…」
「今まで、あの怪物たちを倒せた試しは希少よ。とにかく耐久性が高くて、精鋭を集めてようやく倒せる程度。なのに、あんなにあっさり…なんで」
「…多分だけど、あの怪物たちには…ルールがある。能力…かもしれないけど」
「…ルール」
不審そうに言葉を返す彼女に対して、言葉が詰まる。
「だから…えっと……」
彼女はため息をつくと、こう言った。
「今はいいわ…とりあえず。…ありがとう。とにかく、助かったわ。…後でちゃんと話してもらうからね」
「あ、うん…こちらこそ、ありがとう…」
「…あ、それとだけど、あなたには私たちについてきてもらうわ」
「あ、そうな……は?」
あまりにも急な展開に、思わず声が漏れ出る。
「今から私の仲間が来るから、仲良くしてね」
「え、ちょ、え?」
「あ、もう来るわよ」
困惑する俺をおいて、彼女は指を指す。その方向を見ると…小さな体に手に持ったカゴ。真っ赤な頭巾を被り、背中には…大きな猟銃。あれは、赤ずきん…なのか?
「アリス!大丈夫だった!?怪我はない!?」
赤ずきんの少女がそう言いながら駆け寄る。年相応に、心配そうにワタワタとしている。
「ふふ、大丈夫よ。赤ずきん。…私は無事」
その言葉に、思わず胸がきゅっとしてしまう。彼女が友達と言った彼らは、もうたくさん死んでしまったのだから。
「…そう。でも、アリスが無事でよかった………で。その男は何。誰」
…前言撤回。年相応な声色から、熟練のハンターかのような圧が。いまにも殺されそうなオーラが俺を襲った。
「この人は…現世の人。そして、あの怪物を…退治した人」
ピクリと、赤ずきんの眉が動く。あからさまに信じていない様子だ。
「こいつが?嘘でしょ?武器は。まさかフィジカル?あいつらを、どうやって」
ズカズカと詰め寄ってくる赤ずきんは、まるで身長差を感じさせないほどだった。
「えーえっと…」
「まあまあ、赤ずきん、彼も、まだ落ちてきて間もないから…詳しくは後で聞きましょ。みっちりと。徹底的に」
にこりと微笑む彼女に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「…まあ、アリスがそういうならいいけどさ……にしても、現世から落ちてきたね…まさか、あの御伽話が、急に現実味を帯びてきたなんてね」
「…御伽話?」
聞き馴染みのある単語に、つい聞き返す。
「ああ、私たちの世界にある、誰がいつ話したのかわからない、空想の話があるのよ」
と、アリスが補足を入れる。
「”この世界とは違う、平和で、文明の発展した異世界。現世。そこから人間が落ちてくることがある。その人こそ、後の英雄であった”……ていうね」
「お前が英雄かもな。なんてな。お前には無理だろ。弱そうだし」
…御伽話なのか?それは。嫌に空想的で、嫌に、自分が体験していることと、同じ状況だ。
「…というか、御伽話って概念、あるんだね……え…君たちは…違うの?」
二人は、不思議そうな顔で見つめてくる。
「は?何言ってんだ?違うだろ」
「えっと…どういう意味…かしら?」
「…なんでもないです」
どうやら、この世界は根本的に、俺の知っている世界とは違うらしい。
「そ、そう言えば…御伽話があるなら、童話はあるんですか?例えば、グリム童話とか、アンデルセン童話とか…」
そう言ったことを、俺は後悔した。次の瞬間、首筋にヒヤリとした、鋭利な刃物が突きつけられていることに気づく。赤ずきんの、速技だった。
「その言葉をどこで聞いた。グリムは機密組織だ。そう簡単に聞ける言葉じゃない」
「っ…いや、あの…」
「赤ずきん。やめてあげて」
「無理だアリス。私の中でこいつの評価が変わった。最悪スパイの線もある。今殺す」
「やめて。この人は大事な情報源よ。勝手な真似は、それこそグリムの総則違反よ」
「………チッ」
赤ずきんは舌打ちを残して、刃物を懐にしまった。
「っ…あの、ぐ、グリムって…そんなに、まずい言葉…なんですか」
アリスは少し困ったような顔をし、赤ずきんは俺を睨み続ける。
「それは…ええ、そうね。あまり口にしない方が…身のためよ」
「私はお前を信用しない。監視する。何かしたら…命はないと思え」
ゾッとする俺を横目に、アリスは微妙な表情を浮かべている。とりあえず、この世界に俺の味方をしてくれる人はいないし、常識が違うことを覚えておこう。
赤ずきん(赤ずきんの傭兵とかの方がいいのではないか?と思いつつも)は俺を敵視しながら続ける。
「今から…私たちの所属している組織、グリムに行く。拒否権はない。抵抗したら殺す。いいな」
……前途多難。俺は生きて帰れるのだろうか。
「さっさと行くぞ」
乱暴な口調とは裏腹に、赤ずきんが示すルートは進みやすく、後ろからついていくだけでよかった。意外といい人なのだろうか。
「そういえば…自己紹介とか全然してなかったわね。私はアリス。で、この子が赤ずきん。よろしくね」
「あ、うん。アリスに赤ずきんね…よろしく…」
知ってた…いや、予想がついていたことは、言わない方がいいだろう。
「チッ…さんをつけろ馬鹿野郎」
「あ、赤ずきん…さん…?」
「アリスにだよ馬鹿が。お前、万一アリスに変な気を起こしてみろ。その〇〇を〇して〇〇〇〇にしてやるからな」
「ちょっと赤ずきん…!自衛くらいできるって!」
…信頼は…一体どこに……
しばらく歩いていると、赤ずきんが足元を注視し始めた。何をしているのだろう。
「ほら、みろよこれ」
赤ずきんが何かを拾い上げる。…いや、拾い上げる動作はした。だが、何も見えない。何も掴んでいない。
「え…っと、何も持ってないように見えるけど…」
「はぁ?……あー…そういえばあったなそんな制約…パンだよ。私は今、パンのかけらを持っている」
「…ヘンゼルとグレーテル?」
「…なんでお前は私たちの仲間を知っているんだ。やっぱ殺しておくか?」
「それに関しては…うん。私も不思議で仕方がないわ」
「はあ…まあいい。ヘンゼルの方の能力だ。あいつの仲間だという”証”を持っている奴は、このパンのかけらが見えるようになる。味はしないけどな。このかけらを辿れば、無事家まで辿り着くって訳だ」
薄々思っていたが、この世界は…童話がモチーフの人物が多い。そして、それらは原作通り、あるいは改変された能力として備わっている。…おそらく、子供たちが屠殺ごっこをした話の怪物も、その一種なのだろう。
パンのかけら(推定)を辿っていくと、迷っているような、それでいて、正しい道のりのような、方向感覚が狂うような、不思議な感覚に襲われた。あたりには白いモヤ、霧が浮かんでいる。
「これもヘンゼルの能力の一種だ。これがあるおかげで、私たちの組織は襲撃を受けたことが一度もない。ほんと、助かっているよ」
襲撃。組織。…やはり、根本から認識を変えた方がいいのだろう。
赤ずきんが足を止め、宙に向かって声を出す。
「もりもり がりがり かじるぞ かじるぞ。
わたしのこやを かじるな だれだぞ」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。あまりにも…見てきた性格から、絶対に出てこないような擬音に、少し口が綻んでしまう。殺されてもおかしくない。笑うな。マジで。
「チッ…やっぱ変えてもらうか…合言葉…」
そう不貞腐れる赤ずきんだが、何かを待っているようだった。…何を待っているんだ?
すると、宙から返事が返ってきた。
「僕たちの家に来るなんて、誰かな誰かな?」
「私たちの家だからね。知らない人はダメだよダメだよ!」
子供の声だ。おそらく兄妹、ヘンゼルとグレーテルだろう。
「かぜ かぜ
そうらの 子」
赤ずきんがそう返すと、聞こえてくる声色が一段階上がり、霧の中から扉が出てきた。さっきまで何もなかったはずなのに。
「赤ずきんたちが返ってきた!返ってきた!」
と男の子。
「アリスもいるよ!アリスもいるよ!」
と女の子。
突如に現れた扉を注視すると、お菓子でできていることに気づいた。チョコなのか、何なのか。未知の材質かもしれない。扉を開け、赤ずきんたちについていくまま、中へと足を運ぶ。
コメント
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読み終わりました!第2話、一気に世界観が広がってワクワクしましたね……! アリスと赤ずきん、それぞれの距離感の描き方が絶妙で、特に赤ずきんの一瞬で刃を突きつける速さにゾッとしつつ、ヘンゼルとグレーテルの家の前で「もりもりがりがり」って言っちゃうギャップに思わず笑いました😂 御伽話と現実が混ざり合うこの感じ、すごく好みです。続きが気になります!