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ある雨の日の廃ビルの屋上。
濡れたフードを深くかぶり、大鎌を壁に立てかけた少女――悪鬼麗奈は、誰にも見せられない涙を、誰にも知られないように流していた。
麗奈(心の声)
「兄ちゃん……。あたし、どうすればよかったんだろ……」
手の中には、兄・颯馬の形見の指輪。
冷たい風が頬の傷をなでる。
――そんな時。
?「……ひとり、ですかぁ?」
(小さな声と足音が近づいてくる)
麗奈「……誰?」
フードの下から睨むような目を向けると、そこに立っていたのは
小さな女の子。ウサギのぬいぐるみを抱えた、びしょ濡れの紫兎だった。
紫兎「えっと……あの、雨、やんでないから、濡れちゃってますぅ~」
麗奈「……あたしに関わらない方がいいよ。危ないから」
紫兎「でも、泣いてる人に“放っとけ”って、お母さんが言ってましたぁ。“誰かの涙には気づいてあげなさい”って!」
(きらきらした目で、まっすぐ麗奈を見つめる紫兎)
麗奈(戸惑い)「……なんで……」
紫兎「だって、紫兎も泣き虫ですからっ! 涙、見えちゃったら……ほっとけないですぅ!」
(次の瞬間、紫兎はぬいぐるみをぽん、と麗奈の膝の上に乗せた)
紫兎「“ウサピョン”、泣いてる人をなでなでする係ですぅ。だから、今日は麗奈の番ですっ!」
麗奈「……なんで、名前知ってるの」
紫兎「うちの近所じゃ有名ですぅ!“怖いけど、かっこいい女の人が夜の町を歩いてる”って!」
麗奈(苦笑)「かっこいい、ね……あたしなんて、兄ちゃんも守れなかったのに」
紫兎(ぽそっ)「じゃあ、紫兎が守りますっ。麗奈を」
(驚く麗奈。その目に、紫兎のまっすぐな笑顔が焼きついた)
麗奈(少し震える声で)「……変な子だね、あんた」
紫兎「えへへ~! よく言われるですぅ!」
その日、雨の中で出会った二人は、
お互いの傷を知らないまま――でも、確かに運命を変えていった。