テラーノベル
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その日の夜、僕はいつもの通りにベッドにダイブした。
ゴロゴロしてシーツを馴染ませると、布団の中に潜り込む。
シュメリの隣で丸くなった。
「……リンネ」
「ん?」
「ちょっと……近い、かな」
シュメリが向こう側にズレた。
僕は普通に間を詰めた。
「なんで? いつもと同じだよ」
「そうなんだけど。そう、かな?」
シュメリの歯切れが悪い。
何がダメなんだろう。
「あ、そっか。人型になったから」
「うん、そうだね。少し距離感をね」
シュメリが安堵したような声を出した。
「僕が大きいから、寝苦しい?」
「そういうわけでは、ない」
きっぱりという割に、及び腰だ。
二人の間に、微妙に距離がある。
「僕、猫の時みたいに、くっ付いて寝たい」
思い切って言ってみた。
シュメリが息を飲んだ。
「リンネ、それは……」
シュメリが戸惑っている。
どうやらダメらしい。
(猫じゃないと、ぎゅってしてくれないんだ)
それは悲しい。
シュメリの体温を感じられるのが嬉しいのに。
でもシュメリが嫌なら、無理にはできないから。
僕は、迷いながらシュメリの手を握った。
「これなら、いい?」
上目遣いに聞いてみた。
シュメリが、ぐっと唇を引いた。
握った手を引いて、僕を腕に抱いた。
「そういう誘い方は、悪い子だよ。我慢できなくなる」
猫の時みたいに、シュメリがぎゅっと抱きしめてくれた。
誘うって何だろう。
一緒に寝ようはダメなのかな。
「腕枕、してあげよう」
「うん!」
シュメリの腕枕、好き。
シュメリの胸にピタってくっ付いて寝るのが好き。
僕はシュメリの胸に顔をくっ付けた。
「全く」
困ったように零して、シュメリが僕の髪にキスを落とした。
『特別なキスは、お預けだよ』
あの言葉は、いつ聞いたんだっけ。
思い出せない。
(そういえば、前世の記憶も曖昧になってきた)
この世界での過去を思い出すたび、前世の記憶が曖昧に滲んでいく。
僕は、いつから病気だったんだっけ。
病院に入院する前は、どこにいたんだっけ。
はっきりと覚えているのは『聖騎士と暗殺者』、あの本だけだ。
(僕は誰と、恋をしていたんだっけ)
そんなことを想いながら、温かい腕の中で眠りに就いた。
「リンネ……早く私を、思い出して」
額に、柔らかい温もりが触れた。
「特別なキスは、まだお預けだ」
シュメリの声だ。
悲しそうで、切なそう。
だけど、前みたいに胸は苦しくないよ。
だって、僕はシュメリの隣で一緒に寝てる。
隣にいるから。
だから、悲しまないで、シュメリ。
温もりに包まれて、僕の意識は眠りに沈んでいった。
カーテンの隙間から陽が差し込む。
いつの間にか、朝になっていた。
目の前にシュメリがいる。
腕枕してくれてる。
(シュメリの寝顔、綺麗)
整った美しい顔に見惚れた。
うっかり手が伸びて、頬に触れた。
「寝込みを襲ってくれるのかい? 嬉しいね」
シュメリがゆっくりと目を開けた。
その表情が妖艶で、僕は息を飲んだ。
途端にこの距離が近すぎる気になった。
「ごめん」
手を引っ込めて、ちょっと後ろに下がる。
「ん? どうしたんだい?」
シュメリが不思議そうに僕を眺めている。
「急に、恥ずかしくなっちゃった。シュメリがとても、綺麗だから」
猫魔の僕が一緒に寝て良いんだろうかって。
そんなこと、考えちゃった。
「今更そんなことを言っても、離さないよ」
シュメリが僕の腕を引いて、胸に抱いた。
「シュメリ!」
「くっ付いて寝たいと言ったのは、リンネだ」
「そうだけど」
「今夜も、一緒に寝ようね」
シュメリが僕の手を持ち上げる。
手の甲にキスをした。
その仕草までも艶っぽくて、見惚れる。
だけどやっぱり、恥ずかしい。
「今夜は、ちょっと離れて寝る」
「ダメだよ。こんな風に、くっ付いて寝る」
昨日の夜みたいに、シュメリが僕をぎゅっとした。
トクンと鼓動が跳ねて、走り出す。
「ダメ、ダメ。ドキドキするから」
「もっとドキドキして。私で胸を乱して」
そんなこと言われたら、ドキドキが止まらない。
こんなんじゃ、きっと眠れない。
「シュメリ、ごめんなさぁい」
ついに泣きが入った。
「謝る必要なんかないよ。私は嬉しかったんだ。ただ、ちょっと無防備すぎて心配にはなったよ」
シュメリが僕を覗き込んだ。
「バルトにも、一緒に寝たいなんて言っていないだろうね」
僕は首を傾げた。
「バルトとは、一緒に寝てたよ。でも、もう一緒には寝られないんだって。僕が大人になったから」
「それなら、よかった」
シュメリが、ほっと息を吐いた。
「それにしてもリンネは、ちょっと幼くなったね。前はその辺りのことを、もう少し心得ていたような」
シュメリの独り言に、僕は首を傾げた。
「何でもないよ。結婚したら、子供ができるようなこともしようねって話だ」
「こ、こども!」
かっと顔が熱くなった。
「大丈夫、今はしないよ。でも覚えておきなさい。男と寝るとは、そういうことだよ。特にリンネは魔種持ちだ。誰に狙われるか、わからない」
「わかった……シュメリとは、もう寝れない?」
恐る恐る問い掛ける。
「私は結婚するまで、そういうことはしないよ」
「良かった。じゃぁ、今夜も一緒に眠れるね」
僕はシュメリの手を握った。
「ちゃんとわかってるのかな。今夜は、わからせてあげたほうがいいかな」
シュメリが僕を抱きしめる。
不穏な言葉が聴こえたけど、シュメリだからきっと大丈夫。
一緒に眠れることのほうが大切だから。
僕はシュメリを抱き返した。
「あぁ……大事にしたくなる」
そう零したシュメリは、ちょっと嬉しそうだった。
コメント
1件
ああ〜〜もうこのエピソード最高すぎて叫びそう😭💕💕 人型になっても猫の時みたいに"くっ付いて寝たい"って言うリンネの純粋さに胸キュンだし、それを「そういう誘い方は悪い子だよ」って窘めながらも結局ぎゅ〜って抱きしめちゃうシュメリ、尊すぎるでしょ……!!🫠✨ 特に「特別なキスはお預け」って言いながら、夜中に「早く私を思い出して」って囁くシーン、切なくてエモくてもうダメだった……! リンネの記憶が曖昧になっていく展開も気になりすぎるし、二人の距離感が絶妙に甘くて苦しくて、次の話が待ちきれないよ〜!😭🌸
お股ポテト
29
はるにし
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