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人型生活三日目。
僕は、ある計画を立てていた。
『聖騎士と暗殺者』にあったイベントを決行するんだ。
「夜、一緒に晩酌する大作戦」
使用人も寝静まった夜中に、二人きりでお酒を飲みかわす。
酔って距離が縮まった二人は、自然とそういう雰囲気に。
「なるはず!」
僕は使用人の皆さんに協力してもらって、お酒の準備をした。
食事の時に使っている部屋より狭い、ソファのある部屋にした。
(のんびりゆったりできたら、気持ちも緩んで近付くかも)
僕は二人の風呂上がりを狙って、この部屋に引っ張った。
「リンネ、どうしたんだい?」
「シュメリと一緒にお酒を飲もうと思って、準備したんだ」
「お酒? リンネ、飲めるのかい?」
「飲んだことないけど……きっと飲める!」
シュメリの腕を引きながら、振り返る。
笑いを噛み殺しながら、シュメリが歩いている。
「私と一緒なら、構わないよ。他の人とはダメ」
「うん、わかった……」
僕は部屋の扉を開けた。
「バルトは良いよね」
部屋では風呂を先に終えたバルトが、既に飲み始めていた。
「あー! バルト、待っててねって言ったのに」
「ん? 悪い。喉が渇いてた」
その光景を、シュメリが冷めた目で眺めていた。
「こんなことだろうとは、思ったよ」
僕はシュメリの手を引いた。
「ねぇ、座って。三人で飲もう」
最初は三人で飲み始めて、そのうちに僕が抜ければいい。
きっと二人で良い雰囲気になってくれるはず。
(小説では庭の話とか魔術師団の話で盛り上がってた。そう言う話をすれば……!)
と、思ったのに。
「何で僕が真ん中なの?」
僕は大きなソファの真ん中に座らされた。
両脇にシュメリとバルトが座っている。
「これは譲歩だよ。本当は反対側に避難させたい」
「俺の隣ってことか?」
「逆だね」
シュメリとバルトが言い合いをしている。
(そういうの、アリだよ。基本は喧嘩ップルだから)
暗殺という特殊な出会いをしているから、二人はなかなか素直にならない。
でも言い合っている時は、仲良しな時なのだ。
(あれ? 喧嘩ップルって、なんだっけ……あ、前世の知識か)
前はもっと色んな言葉を知っていた気がするのに。
前世の知識が薄れてきて、おぼろげだ。
そうかと思うと、今みたいに突然、思い出したりする。
(自分が何者か、わからなくなりそう。記憶、早く取り戻したいな)
きっとそこに、僕という存在の答えがあるはずなんだ。
「リンネは何を飲む?」
「んー、キラキラしてる、これ」
シュワシュワでキラキラの飲物があったから、それにした。
「シャンパンだね。甘口だから飲みやすいかもしれないね」
シュメリがグラスに注いでくれた。
「うわぁ」
星屑がパチパチ弾けるみたいに、金色のグラスの中で泡が躍る。
僕の心も躍った。
「シュメリは何にする?」
「私も同じにするよ」
「じゃぁ、僕が注いであげるね」
シャンパンのボトルは思ったより重かった。
後ろからバルトがボトルの底を持ってくれて、上手に注げた。
「バルトは、何飲んでるの?」
「赤ワイン」
「次は?」
「同じのにする。注いでくれるのか?」
「うん!」
赤ワインのボトルも、やっぱり大きくて重い。
今度はシュメリが後ろからボトルの底を支えてくれた。
全員のグラスが満たされた。
「じゃ、グラスを持って」
「何に乾杯する?」
シュメリに聞かれて、僕は首を傾げた。
そこまでは、考えていなかった。
「リンネが人の姿になれたこと、だな」
「珍しく意見が合った」
バルトの提案に、シュメリが嬉しそうに乗った。
「リンネ、おめでとう」
二人のグラスが、僕のグラスの淵にあたった。
カン、と小気味いい音がした。
二人が同時にグラスを傾ける。
完全に置いていかれた。
(これじゃ、僕のための乾杯みたい)
そう思いながらも、僕は慌ててシャンパングラスを傾けた。
シュワシュワでパチパチの飲物が口の中で弾ける。
「美味しい」
あっという間にグラスが空になった。
「こら、リンネ! 酒は初めてだろ。一気飲みする奴があるか」
バルトが開いたグラスを見て、驚いている。
「れも、おいひい……あれ? なんか、フワフワしゅる」
心なしか、視界も揺れている気がする。
気分が良いから、それでもいいことにした。
「もう一杯飲む」
「はい、リンネはこっちね」
シュメリにコップを手渡された。
この飲み物も、シュワシュワだ。
「美味しいかい?」
「うん、美味しい」
僕は甘くてシュワシュワな飲み物をもう一口飲んだ。
「葡萄ソーダが置いてあって良かった」
「使用人が気を利かせたんだろう。夕飯の後に、リンネが使用人とコソコソ準備していたからな」
隣でバルトが何か言っているけど、フワフワしてわからない。
ちょっと眠くなってきて、僕は目を擦った。
「私たちを、もてなしてくれるつもり、だったのかな」
フワフワして視界が揺れる。
シュメリが僕の肩を抱いたら、揺れが止まった。
「二人とも、お酒を飲みながら、いっぱいお話して、仲良くなってね」
僕はシュメリとバルトに笑顔を振りまいた。
二人が、驚いたような顔をしている。
眠さが限界で、僕はシュメリの膝に、こてんと横になった。
(だって、猫は眠くなったら寝るんだもん)
「やれやれ、困ったね」
シュメリが苦笑する。
その口振は、あまり困っている風でもなかった。
「お話でもするかい?」
シュメリがバルトに声を掛けてる。
良かった。
ちゃんとお話ししてくれる。
「話すことなんか、何も……あぁ、あるな」
「おや、どんな話だろう」
シュメリが興味ありげだ。
バルト良い感じ、いっぱい話して。
「魔術師団に入ったら、この家を出たい。住む場所はこれから見付ける。それまで、置いてもらえるか」
パチン、と音がして、僕は薄ら目を開けた。
バルトが首輪に指をかけていた。
「これも外してくれ」
そいうえば、バルトの首にはシュメリの首輪が付いたままだった。
あのままじゃ、バルトはこの屋敷から出られない。
「魔術師団に入るまでは、君は私の客人だ。首輪はそれまで外せないよ」
「家を探しに行けないだろ」
バルトが困った声を出した。
「住む場所なんて、すぐに見付かるさ。魔術師団に入った後でも充分、見付かる。それまでは、ここにいればいい」
「そういうわけには……」
シュメリが僕の頭を撫でた。
そうだよ。
ずっと、ずっとずっといればいいんだ。
「ずっと三人で、暮らせたらいいな」
僕の尻尾が、バルトの腕に巻き付いた。
「リンネ……」
バルトが優しく僕の足を撫でた。
一緒にいたいよ。
三人でいたいよ。
僕はシュメリもバルトも大好きだよ。
(だから、どこへもいかないで)
流れ落ちそうになった涙の雫は、シュメリが拭ってくれた。
二人の手の温もりに包まれながら、気分良く眠りに就いた。
コメント
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はじめまして、霞花怜さん。みぅです🥀 第18話、読ませていただきました。晩酌作戦、すごく好きです……! リンネが『聖騎士と暗殺者』のイベントを再現しようとしてるのに、バルトとシュメリが両サイドに座っちゃうところからもう愛おしい。自分が乾杯の主役になってるのも気づかない無邪気さが、猫のままみたいでかわいい。 そして酔って寝ちゃうリンネ。計画は失敗したけど、結果的に二人の距離を縮めるきっかけになってて、物語としてすごく優しい回だなって思いました。バルトの首輪の話から「ずっと三人でいたい」っていうリンネの気持ちがぽろっと出てくるところ、じんわり泣きそうになりました……。優しい世界、しっかり受け取りました🌙
お股ポテト
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はるにし
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