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すみれ

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すみれ

18 - 第18話

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2025年06月28日

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春の終わり。放課後の光が、少しだけ黄色みを帯びてきたころ。

私たちは、ふたりで撮った写真と描かれた絵を、それぞれ手元に持っていた。


すみれの絵には、私の視線が反映されていた。

私の写真には、すみれの気配が写り込んでいた。

ふたつは似ていて、まったく違っていた。


「ねえ」


すみれがぽつりと、風の中で言った。


「この絵……あげる」


私は思わず顔を上げた。


「いいの?」


「うん。だってこれは、あなたの写真から生まれたものだし――

 たぶん、私の気持ちも少しだけ、のってるから」


すみれはそう言って、絵を丁寧にファイルから抜き、

ふわりと私の手に載せてくれた。


私はその重さに、息をのんだ。


「ありがとう……」


気づけば、カメラのポケットから

あの丘で撮った1枚の写真を取り出していた。


「これ、すみれに。

 絵に描いてくれた場所……

 本当は、すみれがいたから撮れた風景だった」


すみれは目を見開いて、そしてふっと笑った。


「交換だね」


「……うん。交換」


写真と絵。

まるで、ふたりの世界をそっと手のひらで結び直したみたいな瞬間。


すみれは写真を受け取りながら、

少し遠くの空を見た。


「この絵も、この写真も……

 どっちも、“もう一度見たい”って思ったときのためにあるんだと思う」


私は、その言葉の意味を深く理解することはできなかったけれど、

なぜか胸の奥がきゅっと締めつけられた。


「また、描いていい?」


「また、撮っていい?」


ふたりの問いは、重ならなかったけれど、

どこかで響き合っていた。


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