春の終わり。放課後の光が、少しだけ黄色みを帯びてきたころ。
私たちは、ふたりで撮った写真と描かれた絵を、それぞれ手元に持っていた。
すみれの絵には、私の視線が反映されていた。
私の写真には、すみれの気配が写り込んでいた。
ふたつは似ていて、まったく違っていた。
「ねえ」
すみれがぽつりと、風の中で言った。
「この絵……あげる」
私は思わず顔を上げた。
「いいの?」
「うん。だってこれは、あなたの写真から生まれたものだし――
たぶん、私の気持ちも少しだけ、のってるから」
すみれはそう言って、絵を丁寧にファイルから抜き、
ふわりと私の手に載せてくれた。
私はその重さに、息をのんだ。
「ありがとう……」
気づけば、カメラのポケットから
あの丘で撮った1枚の写真を取り出していた。
「これ、すみれに。
絵に描いてくれた場所……
本当は、すみれがいたから撮れた風景だった」
すみれは目を見開いて、そしてふっと笑った。
「交換だね」
「……うん。交換」
写真と絵。
まるで、ふたりの世界をそっと手のひらで結び直したみたいな瞬間。
すみれは写真を受け取りながら、
少し遠くの空を見た。
「この絵も、この写真も……
どっちも、“もう一度見たい”って思ったときのためにあるんだと思う」
私は、その言葉の意味を深く理解することはできなかったけれど、
なぜか胸の奥がきゅっと締めつけられた。
「また、描いていい?」
「また、撮っていい?」
ふたりの問いは、重ならなかったけれど、
どこかで響き合っていた。