テラーノベル
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題名からわかる通り旧国あるからね
そろそろ小説のストック尽きそうでビビる
ていうかBLかどうか怪しいんだけど、たしかに兄弟愛ではあるけど
まあいいでしょう
朝が来た。
時計の針が午前六時を指しているのを、ドイツはただぼんやりと見つめていた。
枕元の目覚ましは鳴らなかった。昨夜、自分で止めた記憶があるような気もするし、ないような気もする。
薄暗い部屋の空気は重く、どこか湿っていた。
壁に掛けられたカレンダーの文字が滲んで読めない。けれどそんなことは、もうどうでもよかった。
「……朝食、何にするんだったっけな」
声に出してみても、返事はない。
ああ、そうだ。独り暮らしだった。いつからか。正確な時期は、思い出せなかった。
冷蔵庫を開ける。
昨日の夕食の残りがパックに入っていた。食べた記憶はない。なのに中身は、確かに減っていた。
……本当に自分が食べたのだろうか。
(どうしてそんなことが分からない……?)
胸の奥がざらつく感覚。背後に何かがいるような気配。振り返ると、誰もいない。
いつも通りの部屋。いつも通りの朝。
でも、どこかが違っている。
違和感を抱えたまま、ドイツはネクタイを締めた。
夢の中で、兄が笑っていた。
昔と同じ声で、昔と同じ髪型で、あの頃のまま。
「また来たのか、ドイツ」
名前を呼ばれるたび、肺が苦しくなる。
わかってる。これは夢だ。兄はもういない。
プロイセンという国は、とうの昔に滅びた。
それでも夢の中でだけ、兄は生きている。
「なあ、まだ覚えてるか? お前が泣きながら“兄さんがいなくなったらどうしよう”って言ってきた夜」
「……やめてくれ」
「ほんと、かわいかったよ。あの時の声、俺は一生忘れないと思う」
そう言って、兄は微笑んだ。
背後に黒い影が揺れていた。光のない目。動かない胸。触れたらすぐに崩れそうな指先。
それでも、ドイツはそこから逃げなかった。
夢から覚めるたび、酷い倦怠感と頭痛に襲われる。
朝が来るのが怖い。
夜が来るのは、もっと怖い。
仕事中も幻聴が混じるようになった。背後から呼ぶ兄の声。何もない壁を見つめて、立ち尽くすことが増えた。
「……お疲れですか?」と、同僚の日本が心配そうに声をかける。
「うわぁッ!?」
「あ、あぁ……なんだ、日本か」
「もう、最近仕事のミスも増えてるし仕事の進みも遅くなってる……、心配なんですからね、?誰がそのミス修正すると思ってるんですか」
「いや、本当にすまないと思ってるよ」
「あんま無理し過ぎないでくださいよ」
ドイツは返答ができなかった。ただ曖昧に笑うことしかできなかった。
日本は大きな溜息をつき、ドイツの机に麦茶とおにぎりを置いた。
「あ、これ差し入れなんで気にしないでください」
そう言って日本は自分の机へと向かった。
そういえば、もう12時だ。
また、仕事が終わらなかった。
今日も、残業か。
あまりの睡魔に机の上の報告書が滲んで読めない。
なのに眠ることは怖い。
また、あの夢に落ちてしまう。
(いっそ、二度と目覚めなければ……)
そんな考えがふと頭をよぎるようになっていた。
「……プロイセン」
帰宅後一人、ベッドに潜りながら呟く。
返事はない。現実には、兄などいない。
「もう疲れたんだ。どうしたらいい」
心の奥が軋む。
誰かに許されたい。楽になりたい。ただ、それだけだった。
「こっちに来いよ」
夢の中で、兄がそう言った。
白い廊下の向こうに手を伸ばしながら。
「もう疲れたろ? 現実なんか、どうでもいいじゃないか」
「俺と一緒にいればいい。そうすれば、全部……終わる」
その声は甘くて優しくて、ひどく冷たかった。
ドイツは震えながら問いかける。
「……じゃあ、兄さん。俺が……ここで死ねば、ずっと一緒にいられる?」
「死ぬ?」
プロイセンは目を細めた。
「違うよ。堕ちるだけだ。こっち側に」
兄が手を取る。その手は冷たくて、でも懐かしくて――
ドイツは、もう何も拒めなかった。
次の朝、同僚がドイツ家の扉をノックしても返事はなかった。
扉の向こうは静かだった。
部屋の中は綺麗に整えられ、ベッドには整然と寝ているドイツの姿があった。
目は開いていた。けれどどことなく焦点は合っていなかった。
彼の世界は、もう夢の中にある。
どこか遠い、もう戻れない場所に――
“兄”と手を取り合って、歩いていた。
コメント
5件
うわぁぁ…文才があり過ぎる…凄く引き込まれました!!その…こういうの大好きなんですよね…()