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大好きだった。
どうしようもない程好きだった。
桜色の柔らかい髪、
星を含んだ様なキラキラした瞳、
優しく微笑む姿。
俺の名前を低く、でも優しい綺麗な声で呼んでくれる所が。全てが愛おしくて大切でその一瞬一瞬がかけがえのないものだった。
ライブをする。歌を歌う。動画を作る。企画を考える。
リスナーを笑顔にする。
グループ活動を進めていく中で知っていく新しい君が本当の君が見える度幸せになる。君が居るから今俺はこんなにも幸せなんだ。
君は俺とメンバーにとっての宝物。大切に大事にしたい人。
これからもずっと、そんな宝物である君と俺達メンバーで活動していけたらそしていつか夢の東京ドームに。
でも、そんな儚く大切な夢が叶う事はなかった。
其処に君が居なかったから。
絶望した。涙が止まらなかった。
無機質な機会音が君の命の終わりを告げたから。
病気だったらしい。それも癌。癌に気付いたのは全身に広がってからだった。
抗がん剤治療をし、強い薬を飲み今日この日まで命を繋いでいた。
あれだけ艶があり綺麗だった桜色の髪は抜け落ち、
輝いていた瞳からは光が消え、
今にも消えてしまいそうな儚い姿。
俺の名前を呼ぶ声はか細くて、そして少し苦しそうにする姿。
時間が日にちが過ぎて行く度に消えていく笑顔。食べる事が大好きで健康だった体は
今はまともに食事をする事すら出来なくてやつれて。
俺は動かなくなった君の手に自分の手を重ねる。
冷たく、生気のない肌。ぴくりとも動かない眉。伏せたままの長い睫毛。
その全てがの君が死んでしまったのだという事実を痛いほど突き付けてくる。
『みんなで、いつか夢の東京ドームに』
そう言っていた君の言葉が黒く塗りつぶされ消えていく。
もう、残された俺達に夢を追う気力なんて残っては居なかった。
そこからはあっという間だった。
メンバー脱退発表、グループの無期限活動休止。
とんとん拍子で次々と出されていく発表。
君が死んだという事実は勿論リスナー達に言えるはずもなくあくまで脱退という形で発表をした。
君が居なくなったこのグループで俺達メンバーがいつも通り活動なんか出来る筈もなく互いの意見がすれ違い今では無期限の活動休止までしてしまった。
まるで俺達の夢を君があの世まで持っていってしまった様だ。
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君が居なくなった日から1週間も経たない頃だっただろうか。
メンバーの1人である最年少が首吊り自殺をした。
そのメンバーはよく君から可愛がられていた。少し気持ち悪がられていたけど、今考えるとただツンデレだっただけなのかもしれない。
赤い前髪を纏めてポンパにしていたのが最年少らしくて可愛かった。
最後は君から誕生日に貰ったピアスを耳に着けていたらしい。
「ないくん、素直になれなくてごめんね。ずっと大好きだったよ」
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そこから約5ヶ月後。
今度はグループでも名物の仲良しペア2人が海に飛び込み自殺をした。
そのメンバー2人はよく君をペアで揶揄っていた。いつも君はそれに対して怒っていたけれど裏ではそんなとこもあの2人らしくて好きだとよく言っていたっけ。
水色と紫のグラデーションに1つのアホ毛、ぴょこんと両外側にはねた兎耳の様な髪をしていた仲良しペア。
最後は君がそのペアを思い出して買ったお互いのカラーをしたブレスレットを残していたらしい。
「「ないちゃん、僕達を出会わせてくれてありがとう。
これからもずっとないちゃんは僕達の大切なリーダーだからね/やからな」」
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君とメンバー3人が居なくなって約1年の時が経過した。残るメンバーはもう俺だけになってしまった。
俺と唯一残っていたグループの最年長は何処かに行方をくらませた。
6ヶ月ほど前から連絡が繋がらず、今何処にいるのか。生きているのかすら分からない。
ただ、俺は1人グループのメンバーとして生き続けている。
最近、なんだか疲れが溜まることが多くなった。
ろくに食事も睡眠も取れなくて。目の下も隈は増すばかり。
君が昔くれた服からはもう懐かしい匂いは消え去ってしまった。
少し大人っぽくてそれでいて甘く爽やかな匂い。
まるで君をそのまま表した様なそんな匂いが好きだった。
匂いも声も酷く懐かしく感じてじわりと瞳に涙が滲む。
君と俺が初めて出会った日。君は俺を褒めてくれたよね。
『英語で歌を歌えるなんてカッコいいですね!俺はそんな事出来ないので、尊敬します!!』
あくまでネット越しでの会話だったけれどその元気明るい声が俺の心に光を灯してくれたんだ。
でも、あの日俺の心を救ってくれた君はもう居ない。
その事実が1年経った今でも信じられない。
今でも君が何処かで呼吸をしている気がして、
笑っている気がして、
その優しい声で歌っている気がして、
生きている気がして。
ぐしゃりと俺は自身の頭を乱暴に掴む。
何度泣いても枯れない涙は俺を擦り減らしていくばかりで。俺を明日へと進ませる光など有りはしない。
あぁ、そうか。俺はふと思い浮かんだ言葉を心に落とす。
俺も行けばいいんだ。みんなの所に。
俺1人だけ生きている所で何の意味なんて無い。
それならみんながいる所に行って会いたい。話したい。
俺はふらふらとおぼつかない足取りで引き出しからカッターを取り出すと思い切り自身の手首を切り付けた。
激しい痛みで思わず顔が歪み、血が大量に出た影響か、激しい頭痛に襲われ俺は棚にぶつかり床に倒れ込む。
その拍子に棚に置かれていたアロマの瓶が割れた。
部屋に充満していく甘く優しいそして爽やかな香り。
そういえば、このアロマは君がくれたんだっけ。初めて俺と会った記念日に。
懐かしい匂いと思い出が頭の中を駆け巡る。
早くそっちに行って君に会いたい。
俺は自分の命の灯火が消えていくのを感じながら目を閉じた。
「俺も今そっちに行くから。待っといてな、ないこ」
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髪をすく。今日も。君が綺麗だと言ってくれた髪を。
男にしては少し長過ぎる髪。それでも俺は今日も伸ばし続ける。
そういえば昔一時期だったけれど君がこの髪を乾かしてくれていたっけ。
昔は綺麗な黒だった髪は歳を重ね白が混じる様にになってきた。顔も少しばかり皺が増えた気がする。
ぼんやりと雪が見える外を窓越しから眺める。
雪を見ると、昔を思い出す。メンバー全員で初めて冬に遊んだ時の事を。
俺は自身の腕の中にある写真をそっと指で優しく撫でる。
埃が少し被っているその写真はもう俺以外居なくなってしまった今ではかけがえのない宝物だ。
桜色の髪の青年を真ん中にみんなで笑い合う微笑ましい写真。
君の、亡くなった時の事を思い出すのは今でも苦しいけれど、それでも君はメンバーにも俺にとっても大事な家族だったよ。
俺は最後のクリスマス、君がくれた指輪にそっとキスをする。
「ないこ俺の人生を変えてくれてありがとうな、愛しとるでリーダー」