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昼休み。しんちゃんはいつものように風間くんを探したが、
教室にも廊下にも姿がない。
そこへ同じクラスの男子がぽつりと言った。
「風間ってさ、さっき転んで手首ひねったらしいよ。
保健室行ってるんじゃない?」
その瞬間、しんちゃんの顔から血の気が引いた。
「……風間くんが? なんで言わないんだゾ……!」
机をガタッと鳴らして、すぐに走り出した。
◆ 保健室
バンッッ!!
扉が勢いよく開く。
「風間くーん!!」
驚いた保健の先生が「静かに!」と言う中、
ベッドのカーテンがゆっくりと揺れ、
そこから包帯の巻かれた手首を押さえた風間くんが顔を出した。
「し、しんのすけ!? なんで……」
「なんでオラに言わないんだゾ!!」
叫んだ声は、怒っているようで、どこか泣きそうだった。
風間くんはハッとする。
「……心配かけたくなかったんだよ。
たいしたことないって思ったし……」
「たいしたことないなら、なおさら言うんだゾ!
オラ、風間くんの彼氏なんだゾ!!」
その言葉に、風間くんの肩がピクリと動いた。
しんちゃんがここまで声を荒げるのはめずらしい。
しんちゃんはベッドのそばに座り、包帯を見つめる。
「これ……痛いじゃん……」
「まぁ……少しだけね。でもすぐ治るから――」
「隠すほうが痛いゾ。」
その小さな声に、風間くんは言葉を失った。
◆ 下校後、ふたりきりの帰り道
夕焼けの道。
腕をかばいながら歩く風間くんの隣で、
しんちゃんはふくれっ面をしたまま。
「……まだ怒ってるの?」
「怒ってるゾ。」
「ごめん。ほんとに、ごめん。
しんのすけに知られると絶対飛んでくるから……
迷惑かけたくなくて」
「迷惑じゃないゾ。
むしろ来ないほうが迷惑だゾ。」
風間くんは思わず足を止めた。
「……そんなに?」
「オラ、風間くんが痛いのほんとにイヤなんだゾ。
怪我したら、いちばんに言うって約束してほしいゾ。」
しんちゃんは小指を差し出す。
風間くんは少しだけ目を伏せ、
その細い指に自分の小指を絡めた。
「……約束する。
しんのすけには、真っ先に言う。
……彼氏なんだから。」
しんちゃんの顔がゆっくりとゆるんだ。
「うむ!よろしいゾ〜。」
すると風間くんが小さくつぶやいた。
「……来てくれて、ありがと。」
その言葉は風間くんらしくなくて、
でもしんちゃんには誰よりも嬉しいものだった。
だからしんちゃんは、そっと風間くんの手首に触れた。
「もう痛いのしないように、オラが守るんだゾ。」
「やめてよ、恥ずかしい……!
でも……ありがと。」
包帯の巻かれた手首を、落ちる夕陽が優しく照らしていた。