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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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佐山文至に連れられて、無事家に帰ってきた殿様は、過去に猫を飼っていたことがあるという百合香の指導(?)のもと、短期間で猫用システムトイレを上手に使えるようになった。
「一回粗相をしちゃったんだけどね、それをトイレに入れておいて……トイレ行きたそうだな? って素振りを見せた時に連れて行ってたら……ちゃんとトイレだって認識してくれるようになったわ」
ニッコリ笑って芽生の枕元。膝に抱いた殿様を撫でる百合香からは、〝イロ〟についてあれ以上言及出来そうにない雰囲気が出ていた。
佐山は先に京介が宣言していた通り、本当に猫の飼育用品アレコレを設置――キャットタワーを組み立てる作業が主だった――し終えると、「お大事に」という言葉だけを残して帰ってしまった。
佐山は元々口数の多い方ではなかったけれど、久々だし……もう少しお話してくれてもよかったのに……と思ってしまった芽生である。
そうこうしている内に京介が帰って来て、百合香は「お店がオープンしたら来てね」と言い残して千崎とともに芽生の前から姿を消した。
芽生は、帰宅してきた京介が少し疲れているように感じて、千崎が京介も自分も徹夜明けだと言っていたのを思い出した。
「京ちゃん、殿様がいてくれるから大丈夫だよ? 少し眠って?」
帰り際、百合香から渡された殿様を抱っこして言ったら、「お前も少し横になれ」と、芽生、殿様……の順で頭を撫でられる。
京介が寝室を出てすぐ、殿様も芽生の布団からスルリと抜け出して行ってしまったけれど、熱が上がり始める前に再度解熱鎮痛剤を飲んでおいたのが良かったのか、ピーク時ほどの辛さはなくて、寂しさも思ったほど感じなかった。
殿様が、佐山が買って来てくれたおもちゃをこちらへ持参してきて……芽生の眠っている寝室の片隅で遊んでいる姿が見えていたからかもしれない。
遊び疲れると、温かさを求めてのことだろう。芽生の布団の中へもぐりこんできてくれたから、芽生は京介が眠っている間もそんなに寂しさを感じずに済んだ。
あれから数日。残念ながらクリスマス(=誕生日)は過ぎてしまったけれど、芽生はすっかり熱も下がり、元気になった。
最初のうちこそおとなしめな遊びをしていた殿様も、段々本領発揮。このところは滅茶苦茶やんちゃになってきて、家の中を全速力で駆け回って、挙句の果てにカーテンへよじ登ったり、ソファで爪を研いで京介に「爪は爪とぎで研げ」と叱られたりして日々の生活に笑いと潤いを与えてくれている。
帰宅してすぐの頃こそまだ便が緩めで薬を飲ませないといけなかったけれど、今はコロコロのいいウンチ。それが芽生にはすごく嬉しかった。
殿様は芽生のことも京介のことも飼い主認定をしてくれたようで、遊び疲れると甘えてくれて……それが京介にも伝わるのか、憎まれ口を叩きながらも殿様に注がれる京介の視線はとても柔らかかった。
***
「佐山、無理言ってすまねぇな」
チャイムが鳴って程なくして、佐山文至が姿を見せる。
佐山が入ってくるなり、少しは記憶にあるのだろうか?
殿様が駆け寄ってきて、佐山にスリスリと身体を摺り寄せた。
悪意を持って接するような細波鳴矢にも愛想を振りまいてしまったような猫だ。元来人懐っこいところがあるんだろう。
今日は、芽生がインフルエンザでダウンして出来なかった誕生日とクリスマスのリベンジ。
芽生は今から京介と二人。日中は街中をデートして、ランチは京介と二人きりでフレンチを食べに行くことになっている。その上で、夜は京介のマンションへ相良組のみんなを招いてパーティーまで開いてくれるというから、芽生は朝からワクワクソワソワなのだ。
京介からそんな提案をされた時、「まだ幼い殿様を一匹残して外出しても平気かな?」と芽生が眉根を寄せたら、「じゃあ佐山に来てもらおう」と、京介が彼を呼んだのだった。
佐山は器用な男だから、殿様の面倒を見るついで。夜のパーティーへ向けて場のセッティングもしてくれるらしい。
芽生としては、インフルエンザで寝込んでいた時、ちょっとだけ顔を見た佐山だったけれど、あの日は百合香が一緒だったとはいえ京介がいなかったからだろう。用を済ませ次第、挨拶だけしてさっさと帰ってしまったのでほとんど話せなかった。
「ぶ……、佐、山さん、今日は色々とお世話になります」
どうしても〝ブンブン〟呼びが抜けきらない芽生が、ぎこちなく〝佐山さん〟と呼び掛け頭を下げたら、
「お久しぶりです、神田さん。体調良くなられたみたいで良かったです。お二人が戻られたらすぐ宴会が始められるようにしときますんで、カシラとの外出、楽しんできてください」
と、やけに距離感のある話し方をされてしまう。
そのことが何だか落ち着かなくて、眉根を寄せて京介を見上げたら、少しだけムッとした顔をされてしまった。
「佐山よ、俺も口止めしたわけじゃねぇ。多分石矢辺りから漏れてるだろうが、芽生は正式に俺のモンになったから」
言うなり、芽生の左手をグッと持ち上げて、例のチューリップモチーフの婚約指輪を佐山に見せ付ける。
「あ、あの……京ちゃん!?」
まさかこのタイミングでいきなりそんなことをされるとは思っていなかった芽生がビックリして京介を見上げたら、
「ってことで、こいつは近い将来、お前らの〝姐さん〟になる」
そう続けた上で、「芽生。面倒くせぇからブンブン呼び、解禁してやるよ」とそっぽを向かれた。
「え……?」
「言っても直んねぇんだろ? ……佐山のブンブン呼び」
言われて、(ひぇっ。バレてる!)と京介をオロオロと見つめた芽生に、「ただ、佐山だけそれだと他の奴らに示しが付かねぇ。なぁ、芽生。手始めに石矢にもつけてやれよ、可愛い愛称」とか。
(この人は一体何を言い出すんでしょうね!?)
と思ってしまった芽生である。
「カシラ……」
それは佐山も同様だったみたいで、「俺のことはホント、佐山呼びしてもらえたら」と、我慢出来ないみたいに言い募ってきた。
「それを決めるのは芽生だ。お前じゃねぇよ」
途端、冷たく言い放ってそんな佐山を一瞬で黙らせると、
「ちなみに石矢のフルネームは石矢恭司だ」
京介が酷薄な笑みを浮かべて芽生を見下ろしてくる。
「なぁ芽生よ。まさか俺と同じように〝きょうちゃん〟ってわけにゃーいかねぇよな? ――どうする?」
ブンブン呼びは許すと言ってくれたくせに、この感じ。京介は絶対意地悪をしている。
そう確信した芽生は、悔し紛れ。ムーッと唇を突き出してちょっとだけ考えてから「キョンキョン」とつぶやいた。
途端京介と佐山二人から同時に何とも微妙な空気を醸し出されて、芽生は選択を間違えたと思った。
だが――。
「今日の運転手はその〝キョンキョン〟だ。車に乗ったら『そう呼ぶことにした』って教えてやれ」
芽生は、石矢の仏頂面を思い出して、(絶対物凄くイヤな顔させちゃう!)と怖くなる。
結局その流れで「千崎雄二のことは〝ユウユウ〟と呼べ」と京介に命令されて、(えっ、ヤダ! さすがに千崎さんにそんなあだ名、怖すぎる!)と思った芽生だったのだけれど。
「あー、ちなみに分かってるだろうが、〝雄ちゃん〟呼びは百合香の特権だから……お前に残された選択肢はユウユウしかねぇ」
と念押しされてしまう。
結果、芽生は「ちょっ、京ちゃん! 相手はあの千崎さんだよ!? そんな呼び方、無理に決まってる! 怖い!」と叫んで京介をニヤリとさせてしまった。
その表情を見て、(これ、絶対京ちゃんの思うつぼにハマっちゃったんだ!)と確信した芽生である。
「京ちゃんの意地悪! ブンブンは毎日一緒にいたから、自然に付けられたあだ名だもん! だけど他のみんなのは違う! どう考えても呼べるわけないのばっかりだよぅ!」
言って、弱り顔で京介を見上げたら、「なら仕方ねぇな。公平性を保つためにも、佐山のことも普通に呼べるようになれ」とにべもない。
京介の頑ななまでの〝ブンブン〟呼び嫌悪を垣間見て、芽生は、(ブンブンのこと、頑張って〝佐山さん〟って呼べるようになろう!)と心に誓った。
だって、京介は、案外呼び名にこだわる男らしいから――。
***
石矢の運転で店が立ち並ぶ通り近くまで来た芽生と京介は、日中はこれといった目的を定めず、ウィンドウショッピングを楽しむ予定だ。
街はクリスマス商戦から一変。ツリーやリース、イルミネーションが仕舞われたあとには、歳末セールの文字が躍る。美味しそうなお節料理や、初売り福袋の売り出しについて書かれたポスターがあちこちに貼られていた。年が明ければ門松が立ったりするのだろうが、今はまだ店舗入り口上部にしめ縄のみを飾っている店が目立つ。
芽生がインフルエンザで寝込んでいる数日間の間に、街は一気に年末年始の様相へと様変わりしていた。
今日は雪模様でこそなかったが、アーケード下を時折吹き付けるビル風が結構冷たい。
そんな中、京介に手を繋がれて芽生はホカホカと温かな気持ちで歩いている。
「わぁー、可愛い!」
思わず立ち止まった芽生の瞳に映っているのは、裾がふわりと広がったミルクティーベージュのコート。大きめのフードには白いふわふわのファーがあしらわれ、ウエストのリボンが何とも愛らしいデザインだ。
鼻をぶつけてしまいそうなくらい近くまで寄って、そのコートを見つめる芽生の目がキラキラと輝いている。
余りに近付き過ぎてしまったからだろう。芽生の吐息でガラスがほわりと曇る様が、京介にはたまらなく愛しかった。
京介はふっと表情を緩めると、「……そんなに気に入ったなら買ってやる」と芽生のすぐ背後から声を落とす。
だが芽生はあたふたと首を振ると、「見るだけで楽しいから!」とそんな京介にニッコリ笑ってみせた。
それと同時、凍えるような冷たい風が鋭く吹き付けて、芽生は思わずギュッと肩をすくめてマフラーを掴む。急に冷えた空気を鼻腔に取り込んだ鼻がツンと痛んで、目尻に涙がにじんだ。
その様子に気付いた京介が、
「寒いのか……」
病み上がりの芽生を気遣って眉根を寄せる。
低く優しい京介のバリトンボイスが、芽生の鼓膜を揺さぶってから、街の喧噪へそっと溶けていった。
芽生は京介の声音にやたらと照れてしまってから、慌てて笑顔を作ると、「だ、大丈夫だよっ?」と答える。
だが京介はそんな芽生の小さな身体をそっと自分の方へ抱き寄せると、ふわりと自らのコートの中へ包み込むのだ。
「ひゃっ」
温かな京介の体温とともに、いつも彼が好んで吸っている煙草のにおいが、京介愛用の香水の香りと混ざり合って芽生の鼻先を甘くくすぐった。
冷たいビル風を遮る京介の温もりに、芽生の身体が一気に熱を帯びる。
芽生は頬を赤らめながらも、小さく「……ありがとう、京ちゃん……」と呟いた。
その瞬間だけ、あんなに騒がしく聞こえていた街のあらゆる音が、かき消されてしまったような錯覚に襲われるから不思議だ。芽生は京介の腕の中で幸せをかみしめた。
だがそんな時――。
「わぁー、そこにいるの、ひょっとして、相良さんじゃなぁーい?」
不意に背後から投げかけられた甘ったるい声音に、芽生はビクッと身体を跳ねさせて、思わず京介から離れた。
「玲奈……」
眉間にしわを寄せた京介が目の前の女性のものと思しき名を苦々し気に吐き出せば、
「もぉ~。相良さんってば最近こっちから連絡しても全部スルーだしぃー、玲奈、すっごくすっごく寂しかったんだからぁー!」
玲奈と呼ばれた女性が、京介の不機嫌さなんて意に介した風もなくにっこり微笑む。
玲奈の長い髪が赤茶の艶をまとって、冷たい風にふわりと揺れる様は、たくさんの人々が行き交う冬の街の雑踏の中でも、ひときわ目立っていた。
コメント
2件
うわー、なんかきた。 デートの邪魔しないでよぅ! それはそれとして殿様元気になってよかったよー!
おお…玲奈さん、来ましたね。デート中の幸せな空気に突然現れたあの甘ったるい声、明らかに波乱の予感がします。京介の「玲奈…」という苦々しい口調がもう、二人の間に何かあったんだなと感じさせて。ブンブンこと佐山さんの呼び名エピソードも微笑ましかったけど、ラストの引きが気になりすぎます…。続き、早く読みたいです!