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(タクヤ side)
「……ったく、どこ行ったんだよ、あのガリガリ」
打ち合わせの時間になっても現れないリーダーを探して、俺は事務所内を歩き回っていた。楽屋にもトイレにもいない。ふと思い立って、あまり人が通らない非常階段の重い扉を開けた。
「……あ」
踊り場の途中で、長い手足を折りたたむようにして蹲っている影があった。
ひどく肩を上下させて、漏れ聞こえるのは苦しそうな呼吸音。
「ちょっと、リョウガ! 何やってんの」
「……あ、タク……ヤ……」
顔を上げたリョウガは、いつにも増して顔色が土に近かった。額にはびっしょりと汗をかいていて、瞳の焦点が合っていない。
「風邪? だったらさっさとマネージャーに言えよ。隠して階段で死んでるとか、ホラーでしかないんだけど」
文句を言いながらも、俺は迷わずリョウガの体に腕を回した。
「……悪い、重いだろ……」なんて掠れた声で言われたけど、正直、驚くほど軽い。これだけ痩せてれば、運ぶのなんて造作もない。
俺はそのまま、リョウガの体を軽々と抱え上げた。
「……うわっ、タクヤ、……お前、力持ちすぎ……」
「黙ってろ。そのまま医務室まで運ぶから。暴れたら階段から落とすよ」
観念したのか、リョウガは俺の肩に力なく頭を預けてきた。
(リョウガ side)
気づくと、俺は医務室のベッドに寝かされていた。
喉の奥からせり上がってくる激しい咳を必死に堪えていると、カーテンがシャッと開く。
「はい、水。あとこれ、今すぐ飲みな」
現れたタクヤの手には、コップと薬。そして、なぜかめちゃくちゃ不機嫌そうな顔。
「ごほっ……、ごめん、タクヤ……。忙しいのに……」
「本当だよ。自分の体調管理もできないとか、リーダー失格以前に大人としてどうなの? 階段で蹲るとか、悲劇のヒロインのつもり?」
容赦ない毒舌が飛んでくる。けれど、差し出された水は飲みやすいように少しぬるく調整されていて、俺に掛けられた毛布の端は丁寧に整えられている。
「……ふふ、手厚い看護、ありがとうございます」
「笑う元気あるならさっさと治せよ。お前のせいで打ち合わせ延びたんだからな。この分の貸しは、アイス三本……いや、ハーゲンダッツ一週間分で手を打ってやる」
「高っ……」と言い返そうとした瞬間、また激しく咳き込んでしまった。
「……っ、げほっ! ごほごほっ!」
すると、さっきまで毒づいていたタクヤの手が、そっと俺の背中に置かれた。
リズム良く、優しく叩いてくれるその手の温もりに、喉の痛みが少しだけ和らぐ気がした。
「……ほら、無理して喋んない。寝ろ」
「タクヤ、……ありがと」
「……うるさい。さっさと意識飛ばせ」
タクヤはそっぽを向いたけど、繋ぎ止められた視線の先には、俺を心配して離れられない彼の本音が透けて見えた。
毒舌の裏にある、不器用すぎる優しさ。
俺はそれに甘えるように、ゆっくりと重い瞼を閉じた。
(……治ったら、ハーゲンダッツ、一ヶ月分くらい買ってやるか)
心地よい眠りに落ちる直前、タクヤの「おやすみ」という小さな、本当に小さな声が聞こえた気がした。
𝐹𝑖𝑛.
コメント
2件
タクちゃ〜不器用すぎる優しさが好きすぎてメツ最高すぎる😭👏✨
うわ、このエピソード良すぎます……! タクヤの「毒舌だけど行動はめちゃくちゃ優しい」ギャップが完璧で、ぬるめの水とか毛布の端を整えるとか、細かい仕草に彼の不器用な本音が滲んでるのがたまらないです。最後の「おやすみ」が小さな声だったっていう描写、リョウガが意識を手放す寸前に拾うところも含めて、二人の距離感が絶妙に表現されてるなあと。ハーゲンダッツネタも好きです、笑。