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それに本気で他所の女を好きになって家を出て行くわけでもない夫に
わざわざ離婚を突き付けて2人の子供たちを父無し子に
するはずもないだろうと高を括っていたのかもしれない。
自分の予想の甘さに又、泣けてきそうだ。
浮気も不倫も疑われるようなことはあったかもしれないが
振り返ってみても、どちらの件も不可抗力だったし
俺自身相手の女性たちに対して微塵も浮気心など一切なかった。
そこのところは元妻も分っているはず。
しかし、惚れられているから大丈夫だと高を括っていた俺は
彼女を不安にさせ思い遣りを持たない夫はいらないとばかりに
諸々の疑惑と単身赴任だけでばっさりと元妻に切られたのだ。
仕事にばかり気をとられて元妻の気持ちに寄り添うことを
しなかった俺の無神経で不精の所以が生んだ亀裂なのだろう。
しかも俺に対するただのパフォーマンスなんかじゃなく……
怒りを示すためだけに勢いで離婚届を出したわけでもなく……
再婚までしてその上、再婚相手と子共まで産んでいた。
惚れられていると思っていたのは、ただの自惚れだったのだと思い知った。
家族の過ぎ去った月日と年齢を頭に浮かべてみた。
女盛りの元妻を8年も独りにしていたのだ。
もし彼女が黙って待っていたとしたら……。
親を親として認識し始め甘えたい盛りの子らを8年も放っておけた自分に
今更ながら驚いた。
俺ってバカ?
元妻が俺を捨てた原因はりっぱに筋の通ったものだったのだ。
仕事のできる俺
元妻に惚れさすことのできる俺
お金を儲けてくるんだから少しくらい不自由なことがあっても
……と考えていた俺。
大切なモノを……
大切なことを……
見失っていたんだなぁ~
ホテルのベッドの上で気付いた。
元妻との大切な夫婦の時間も
可愛い子らとの触れ合いや語らいの時間も
簡単に手放した俺に、今は何も残っていなかった。
元妻の言ってたことが正しかった。
俺こそが先に家族を捨てたんだ。
そして元妻は捨てられる前に俺を捨てた……うん?
訳が分からなくなってきた。
どっちが先だ?
夕飯で飲んだビールが今頃身体に効いてきたのか?
8年間独りで毎日充実していると思った日々を送ってきたのに
いきなりこんなにテンション下がるっておかしいだろ?
明日からも単身赴任と思えばいいだけさ!!
8年独りで平気な男なら10年は大丈夫だろ?
そう思って生きろ、将康。
10年過ぎたら又その時身の振り方を考えればいいのさ。
なんだ、考え方を変えれば大したことじゃないと思えるようになってきた。
ハハハっ!
この現実が夢ならいいのにと、その夜の俺はどんなに思ったことか。
その夜、どんなに頑張っても俺は眠ることが出来なかった。
何故こんなことになったのか納得するのだが、いろいろ考えていくうちに
最初の疑問に戻ってしまう。
どうして由宇子、こんなことをしたんだ? ってね。
酷いじゃないかって、ループするわけだ。
ンで元妻の気持ちを理解しようとして、考えたり想像したり
そして納得して俺が悪かったって反省もする。
だが、またいろんな考えに捉われてやっぱり最初の気持ちに戻る。
このループをこの夜4回はしたな!
完全に納得できないのはまだまだ聞きたいことがあって
突然のことに話し合いの時間もそんなに取れず、ひとまずはと
独りでホテルに逗留しているからだろうと思う。
今更だがもっと元妻の胸の内を聞いてみたいと思った。
ベッドに入ったものの、思考の波に飲まれ芯から眠ることが
できずに一晩過ごした俺は、明け方にも関わらずメールの気安さで
元妻に疑問を投げ掛けた。
~将康から由宇子へのメール ~
「あっさりと離婚届けを出せたってことは、もうすでに
俺に気持ちがなかったからなのか?
もしそうだとしたら、俺は大きな勘違い野郎だったってわけだ。
俺は君に惚れていたし、君からも惚れられていると自信を
持っていたからね」
元妻は今も昔と変わらず早起きのようで5分後のAM 5:45に
返信がきた。
こんなに早く返信が来るとは思わず、なんとなく眠れなくて
グダグダな状況で送った質問だったのだが……元妻の返信を見て
俺の小さなプライドに火がついた。
「相変わらずあなたは何にも分かってないのね」
これが元妻の返信だった。
当時……単身赴任した頃、気持ちがあっのかなかったのか
答えればいいだけなのに、なんだというのだこの返事は。
俺をオロオロさせて楽しんでるのか?
自分はさっさと新しい家庭を持って随分余裕あるじゃないか。
こんなワケわかめな返信寄越して。
元妻の返事にガックリきた俺は急に睡魔に襲われ、その身体の欲求に
縋りついて、あぁしばらく何も考えなくていい世界に入っていけるんだなぁ~
などと頭の隅で考えながら深い眠りについた。
37-2
目覚めたのは昼過ぎだった。
なるべく早く住むところを確保せねばならない。
ようやく眠れて疲れが取れたとはいえ精神的疲労のはげしい俺は
不動産巡りをしつつも、その日一日中元妻の放った、あなたは何も
分かってないという言葉の意味を考え続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
仕事始めの前日になる翌日、1度自分の席を確認するため
古巣の事業所に立ち寄った。
事務所には赴任前からいた気心の知れた同僚、樽本絢がいた。
忙しいのか?
そういえば単身赴任を決めた頃、樽本絢からやんわりと忠告を受けてた
ことを思い出した。
『ほんとに奥さん、賛成してくれてるの?
いつこちらに戻れるかもしれないのに、妙にあっさりしてるのね』って。
由宇子がもろ手を挙げて賛成していたわけではなかったが
強行に反対することもなかったので、あの頃の俺は
何で樽本がそんなふうに言うのか分からなかった。