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とても8年も経過したとは思えないほど依然として
変わらぬ広い事務所では、休日出勤者があちこちに
ぽつぽつ散らばって仕事をしていた。
お目当ての彼の人も相変わらず休日出勤しており、仕事していた。
その樽本の近くには幸い誰もいなかったのもあって
俺はしばらくぶりの挨拶をした後、近くの椅子を彼女の側に
引き寄せ座り、簡単に自分の今置かれている状況を話た。
「やばいんじゃないかって思ってたけど、私の想像のずっと上を
いってたのね。
そっか、あっさり承知したのはもうその時決断してたからなのね。
だいたい奥さん扶養に入ってないくらい稼いでたんでしょ?
そんな妻を持ってるんだからもっと慎重になるべきだったんじゃないの。
はぁ~今更だけどねぇ。
妻も子も失ってまでしたかった? 新しい仕事?」
「そんな訳ないじゃないか!
止めてくれよ、そんな言い方……傷つくよ」
「ごめん、……だよねぇ~」
「あなたさ、それだけモテるんだからあるていど自覚はあるんでしょうけど
女性に対する危機管理っていうの? なさ過ぎ。
当時の奥さんあなたのこと、離れたくないほどとても
好きだったんじゃないかな。
だから苦しくなる前にあなたを切ったんじゃない?
あなたはきっと反対のことを考えてると思うけど。
もう自分には興味がなくなってたところへ単身赴任の話が出たので
勝手に行くような……
長期いなくなるような……
夫、父親はいらないって捨てられた、とかって考えてなぁ~い?
たぶん、それ違うと思うよ?」
「どうだろう、元妻に当時の気持ちを聞いてみたんだが
答えは、あなたは何も分かってない、だったよ」
「気持ちがもうなかったのなら、なかったって言うんじゃないのかな。
当時はあなたのこと好きだったと思うわよ、やっぱり」
「そうかな、分からないよ。
好きならどうして離婚届けを勝手に出したのか。
しかもすぐに再婚して、そいつの子を2人も産んでたんだぜ
どうすりゃあいいんだよ。
反省して元妻とやり直すことも出来ないんだから、絶望的だよ」
「まぁ8年間妻子に会わずにいられたあなたにも相当問題あると思うし……。
そっか、奥さん再婚してその相手の子供まで産んでるんじゃあ、
今の奥さんのあなたへの気持ちがどこまで残っているのか、流石の私にも
もう分からないなぁ~。
死にたくなった?」
「まぁね……」
「あーぁ、私が今だ独身なら大倉くんの奥さんになってあげても
よかったんだけど」
「えぇっ、結婚してたのか?
君、結婚なんか仕事の邪魔、カスとか言ってバリバリキャリアウーマン
目指してたじゃないか。何なんだよ」
「ははっ、あれね結婚できない苦し紛れの言い訳も少しあったのよぉ~!
あなた留守の間○○支店から昔△△支店で一緒だった山崎くんが
こっちに異動で来てね、同期のよしみでたまに飲み歩くようになって
どっちもまだ独身だったからなんかなるようになった」
「何か、いい加減なヤツだなぁ~」
「いいのよぉ、難しく考えなくても。
昔からしたいって思った時が結婚適齢期って思ってたしね。
彼ね、大正解だった。
私ら、今仲良い夫婦だよン。
今度一緒に飲も?
仲いいとこ、見せ付けてあげるから」
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「酷いヤツだな。
独身になった寂しい俺に見せ付けようなんて冷酷なヤツだよ、オマエ!」
「大丈夫だよ、あなた。
自分で思ってる以上に女性から見ると魅力あるからさ
すぐに奥さん候補がわんさか群がってくるからいいの選びなさい。フフっ」
「はっ、何言ってんだか」
◇ ◇ ◇ ◇
目の前の男は、寂しそうに反発する言葉を放った。
マジ本心だよ。
かく言う私も実はあなたが独身の頃から単身赴任でこの同じ職場から
居なくなるまで好きだったんだから。
気持ち知られないように上手くやってたから気付かれてはいないと思うけど
そんなモテ男で奥さんもさぞかし疲れたんだろうね。
色男はどんな時も、罪作りだね……ご愁傷さま。
励ましといたけど、彼は寂しさを背中に滲ませて帰って行った。
私は自分の夫を大切にしようと改めて思った。
そして大倉くんがここに戻って来ることになって今日悩みを聞いて
話していて決心がついた。
この機に会社を辞めて年も年だけど子作りに専念しようかと。
私は大倉くんが好きだった。
気持ちに決別するために……
夫だけに気持ちを向けていられるよう……
心が揺れ動かないように……
この日、辞めることを決心した。
大倉くん、Bye Bye!!
私と薫は3つ違いの従姉弟同士だ。
私の母と薫の母親が姉妹で、薫はうちの母の姉の子になる。
妹の母のほうが早くに結婚したので薫は年下の従姉弟になる。
薫は普通の人々とは少し違った個性を持ってこの世に産まれて
きたようだった。
私は近所に住む薫とはそれこそ生まれた時からきょうだいのように
育ってきたので、あまり違和感は持ってない。
だからといって薫が特別な教育を受けたということでもなく
大学まで普通に通っている。
小学校の3年生頃から伯母は、薫の少し変わった性質に気が
ついたのだと言う。
何がどうってそれをひと言で語るのは難しいのだそうだ。
中学生になって伯母からそんな風に薫のことを母と一緒に聞いた。
その頃は?
薫の抱える問題が分からなかったけれど、今なら
何となく伯母の感じる違和感が分かる。
人の考えていることを慮る能力が少し足りない?
全く分からないのではなく、例えば相手が高等な手管できた場合
やさしそうに笑いながら接しているのに腹の中では舌を出している
人がいたなら、絶対薫には分からないと思う。
まぁ、そんな手管を使える人間に対して、私だって分からないかも
しれないけどね。
そんな微妙なラインの話なのだ。
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薫はとにかく容姿が優れていて思春期に入るとそれは
伯母にとってとてもやっかいだったようだ。
同年代の若い女子の腹の中を薫は読めないから
危険が一杯なのだ。
そう言って伯母が母にこぼしていたのを私は薫と一緒に
聞いてた……よ?
振り返ってみれば、怖いよねぇ~
そんなデリケートな問題を当の本人と聞いてたんじゃないのよ全くぅ。
伯母にも吃驚だけど、今の今まで私だって薫と一緒に聞いてたことに
何も思うところなくきてたなんて、OH・MY GOD! イマサラ
薫に対しての配慮の足りなさを……
足りなかったことを今更ではあるが心の中で詫びた。
スマヌ、薫!!
だけどやはりそういう風に、そんなシチュエーションの時に空気のように
一緒に居る私や母、伯母に何も違和感を持たせず場に溶け込める術を
持っているのが薫なる所以でもあるのだ。
中学3年の終わり頃から……
女子たちが色気づく頃から……
いつも薫の側には可愛い女子がいたね。
薫は嬉しげでも嫌そうでもなかった。
淡々としてたのを記憶している。
あの頃の3才の差は大きいからねぇ~
姉貴の目でいつも薫を追ってた気がする。
まぁ、大事な弟分って感じだったね。
離婚後すぐに伯母から話があると言われた。