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翌日の夜
僕は再び、禪院家に赴いていた。
昨日のような応接室ではなく、わざわざ当主の部屋に通された僕は、イライラが収まらないまま待っているとようやく襖が開いた。
直毘「待たせてしもうたな」
五「全くですよ、僕忙しいんで勘弁して貰えます?」
禪院家当主である禪院直毘人と拘束された2人の男、そしてそれを部屋へと入れる使用人であろう人が2人中に入ってきた。
直毘「ソイツらだ、わざわざ自慢して来よった」
五「へぇ……意外と仕事早いじゃない」
直毘「ハッ、よく言う…あれだけ殺気を放っておいて…」
拘束され、連れられてきた2人はガタガタと震えている。
まさか、こんなことになるとは思いもしなかったのだろう。
たかがガキ1人殺したに過ぎない、と2人は思っていた。それが間違いだった。
五条や伏黒一家、及び伏黒癒月という人間に恩があった者達の怒りを買ってしまったのだ。
これが意味することは、もはや言う必要もない。
五「コイツら、好きにしてもいいよね?」
「ご、御当主様!お助けください!我々は、御当主様に尽力しようとしただけなのです!ですから__」
直毘「…構わん」
「そんな……!御当主様!我々はただ…!」
2人は悲痛な声を上げるも、もう届きはしない。結末は既に伏黒癒月という人間を海へ放り投げたあの瞬間に決まっていたのである。
五「はーい、うるさいからちょっと黙っててねー」
五条は2人の首に手刀をくらわせ、眠らせた。
途端に外が騒がしくなった。
何かあったのかと思った矢先、襖が勢いよく開いた。
そこに立っていたのは、禪院甚爾__もとい伏黒甚爾であった。
禪院直毘人は1度戸惑ったが、丈夫と言う言葉では測りきれない程の肉体、何より右端の唇に縦に入った傷を見て確信した。
直毘「甚爾……か…」
伏黒甚爾は畳に倒れ込んだ、先程まで禪院直毘人に泣きついていた男二人を見てようやく口を開いた。
甚「コイツらか」
五「そうだけど」
伏黒甚爾は2人の首根っこをつかみ、引き摺るようにして、廊下に出た。そして振り返り
甚「行くぞ、五条の坊。邪魔して悪かったな」
五「はいはい、悪いと思ってないクセによく言うよ」
そう言って2人は、禪院家を後にしたのだった。
目を覚ました男は、薄暗い簡素な部屋の中に居て拘束されていた。
五「あ、起きた?おはよう」
聞き覚えのある声に、意識を失う前の記憶が蘇る。途端に、自分のこれから辿る結末を想像してしまい、震えが止まらなくなった。
五「そんなに怯えないでよ、僕が悪役みたいじゃん」
怯えないで、と言われて誰がこの震えを止めることができるだろうか。
なぜなら目の前にいるのは、現代最強の呪術師の五条悟なのだから。
五「早く情報吐かないと殺しちゃうよ〜?まぁ、吐かなくても殺すけど」
その言葉に絶句する。
殺される……?今から、この場で?
五「あれ、何意外みたいな顔してんの?禪院家の当主には許可取ったし、上の連中になんか言われてもそう言えば誰も文句言えないでしょw」
あぁ、本当に殺されるのだ。
自分は、この場で為す術もなく殺されるしかないのだ。
ズブズブと絶望の色が男の目を蝕んでいく。
同時にふつふつと怒りが湧いてきた。もうほぼ八つ当たりのようなものである。
「私は、私はただ御当主様に尽力しただけだ!お前があの相伝のガキとその兄弟を匿ったせいで此方にどれだけの損害が出ているのか知らないのか!!」
男はさらに続ける。
「あのガキ1人殺した位で、こんなに大掛かりな事を企てて!相伝でもない術式のガキ1人殺した所で何があると言うのだ!」
もはや自暴自棄になった男は五条の地雷に足を突っ込み、触れてはいけない一線に触れる。
「あんな……呪霊の1匹も祓えないような術式のガキが死んだところで何も変わらないどころか、足でまといに__」
その言葉は最後まで紡がれる事はなかった。
五条悟がその男の言葉を遮り、殺してしまったからである。
五「ホントクソだな、お前みたいなヤツが居るから呪術界が腐るんだよ」
五条は大きなため息をついた後、携帯を取り出して、何処かに電話をかける。
五「……うん、終わったよ。……いや、もう腐ったミカンの典型って感じ。………分かった10分後に高専前で合流で」
五条は電話を切り、部屋の外で待機していた人に声を掛け、その場を後にしたのだった。
兄が大好きだった。
物心ついた頃から俺には母親の記憶がなかった。母の顔は写真でしか見たことがなく、これといった思い出もなかった気がする。
兄は毎日その写真の中の母に語りかけ、朝の挨拶などをしていた。
そんな兄は優しく、温かい人だった。
兄というよりもむしろ母親替わりのように俺や津美紀の面倒を見ていた。
兄は心の広い人だった。
俺がどんな迷惑をかけても、我儘を言っても兄はそれを笑って許した。
兄が大嫌いだ。
世の中の悪を取り払ったような人、まさしく善人。俺にとっても、津美紀にとってもたった一人の兄でかけがえのない人だった。
それなのに、こんなに呆気なく、お別れの言葉も無しに自分の元を離れていった兄が大嫌いだ。
兄は、自分に無頓着でいつも俺たちを気にかけるような人だった。
そんな兄が大嫌いだ。
もっと自分を大切にして欲しかった。
もっと俺や津美紀を頼って欲しかった。
もっと生きていて欲しかった。
兄が大嫌いだ。でも、
それを上回るほどに
兄が大好きだった。