「さて、そろそろ始めさせて頂きますよ。あなたの魔法に比べてオレは派手に出来るものでは無いのでね」
「おれのも派手じゃないけどな! ローブ集団のリーダーのようだが、名は?」
「オレは戦闘魔導士のザルク・カシェ。心配しなくていい。後ろの連中はオレの護衛に過ぎない」
「……それはどうも」
一見すると紳士的といった、拍子抜けともいうべき穏やかな口調だ。少なくとも話をしている限りはだが。
「さてさて……スゥゥ――ハァァッ。面白くなるといいな、アック・イスティさんよぉ~!!」
しかし息を吸い込み大きく吐きだすと同時に、奴はガラリと人格を豹変させる。攻撃時と平常時で性格そのものの切り替えをしている厄介なタイプのようだ。
フィーサがいない以上、魔法だけの戦いになりそうだな。どちらがいいということでも無いが、奴がどこまでやるつもりなのか。
「おいおい、よそ見してんじゃねえよっ!!」
派手な魔法じゃないとザルクは言っていた。だが奴の手から見える黒い球体のような物体は、魔法で作り出したものとしてはかなり目立つ。目に見えるという時点で魔力を消費して即席に顕現させられるようだ。
闇属性にしてはあまりに分かりやすいが、奴は黒い球体を手元から離し、足下の地面に落とした。球体は地面に収まり、黒い影のようなものとなってあちこち動き出し始める。
奴自身はその場から動かず、のけ反りながら何かを待つ仕草を見せている。
「いいねぇ、いいねぇぇぇぇ!! そうやってエサは大人しく待ってりゃあいい! そうすりゃあきっと面白いことが起きるからなぁぁぁ!」
「エサ……? まるで釣りだな」
「そう! それだよぉっっ!! ――なわけだ、吹き飛びやがれ! 『エナジー・ティルト』!!」
「――無属性か!?」
「ヒャハハッハハハ!! いいねぇ、すぐに分かるとは! 受け止めるかぁ~? 吹き飛ぶかぁ~?」
地面を這いずっていた黒い影は、突然おれの正面に現れ衝撃を与えた。まるで思いきり頬を引っ叩かれたような衝撃だ。
「けっけけけ!! どうよ?」
戦闘で豹変するにしても人格が変わりすぎだろ。奴の言う釣りとエサの例えとは随分と異なったが、黒い影はおれを狙い、まんまとヒットさせたということになる。
「残念ながらせいぜい顔を引っ叩いた程度だったが?」
「そうだろうなぁ~! よぉく分かっちまったぜ! けけけっ!!」
「ダメージを与えて満足か?」
「いいねぇ、実にいいぜぇぇ!!」
人格があまりにも違い過ぎないか?
「……面白いのか?」
「そういうてめぇもオレを甘く見てんだろぉ? 分かるんだよ、オレはなぁ」
奴の攻撃は黒い球体に魔力を圧縮、それを地面に放った後に影として這わせ油断を誘う。そこから対象であるおれに対し衝撃波を放ち、見えない影が触れた時点で派手に吹き飛ばすといった攻撃にする予定だったようだ。
「アック・イスティの顔が吹き飛ばなくて良かったなぁ?」
「吹き飛ぶ……なるほど、爆発系か」
ザルクは長身な上、ボサっとさせた黒髪と角ばった顔立ち、小さいつり目で鋭くおれを探ってくる。奴と違い、護衛連中はローブ姿で顔も見えない。
だが魔法防御を周囲に展開している気配があり、それを気取られぬようにしている。ザルクとは一定の距離を保っていながら、戦闘状態で引き起こされる空気の乱れを抑えているようだ。
これが奴の狙い通りなのかは定かではないが、おれに触れた直後に周囲を巻き込んで爆発を起こし、衝撃波を撒き散らすまでがこの攻撃の正体に違いない。
「けけけっ! 顔が吹き飛んじまったら、てめぇを置き去りにした仲間が悲しむよなぁ?」
「確かにそうだな。顔だけは強化のしようがないし、ほぼ無防備に近い。意表でも何でも無いが考えさせられたな」
「この程度ごときで弱音を吐くってわけか? おいおいおい、つまらねえなぁ~」
「……面白い無属性を見せてくれたし、弱点をさらけ出すことも出来た、か」
顔をピンポイントに狙って来る敵は今までそう多くなかった。
だが、それならおれも奴の急所を狙うことにする。
「オレは優しいだろう~? アック・イスティ! ウルティモと戦う前に、てめぇの弱点を突いてやったんだからなぁぁ!!」
「そうだな。感謝しとくよ。感謝ついでにおれの魔力で面白くさせてやるよ」
「けけけけっ!」
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