テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
狐
16
エコ

169
その後。
辿り着いた先に広がっていた景色を見て。
(…凄い)
目の前に広がっていたのは、学校という言葉から想像していたものとは、あまりにもかけ離れた景色だった。
古い神社を思わせる建物。
大きな屋敷のような校舎。
広々とした庭園。
その奥には、道場や演舞場らしき建物まで見える。
それらすべてが、広大な敷地の中に収まっていた。
「ほうな、凄いでしょ?」
頷いた。
「そうよな~。ここ、めちゃくちゃ広いんよんな」
「この学園はな……」
そう言いかけたところで、彼女は少し考えるように首を傾げた。
「……難しい話は、リーリアに教えてもらおうとするか」
(リーリア…)
その名前を聞いた瞬間。
どこからともなく、透き通った声が響いた。
『お呼びでしょうか』
思わず肩が跳ねた。
『申し訳ありません。驚かせてしまいましたか?』
『私はリーリア。貴方の世界でいうところの、AIに近い存在です』
(AI……)
『それでは、神鳴学園について説明します』
声とともに、目の前に淡い光が浮かび上がった。
『神鳴学園は、東・西・南・北の四つの区域と、それらを繋ぐ中央区から成り立っています』
光の中に、学園の全体図が浮かび上がる。
中央から四方へ伸びる道。
その先に、それぞれ異なる景色が広がっていた。
『まずは東区』
東側に映し出されたのは、水路や池、そして木々に囲まれた静かな場所だった。
『東区は、水と身のこなしを中心とした鍛錬区域です』
水上に浮かぶ足場。
細い道。
不規則に動く床。
『動きの速さや身体の使い方だけでなく、周囲の状況を把握する力も鍛えます』
(…へー。)
次に光が切り替わった。
『西区』
そこには、大きな道場と広大な演舞場が広がっていた。
遠くからでも、武器がぶつかる音や掛け声が聞こえてくる。
『四区域の中でも、特に戦闘訓練に重点を置いた区域です』
剣術。
体術。
回避。
近接戦闘。
複数人での模擬戦まで行えるほど広い演舞場がいくつも存在している。
「…」
あそこだけ、明らかに空気が違うのか。
『続いて南区』
映像が切り替わる。
今度は一面の花畑と、美しい庭園が現れた。
水辺には小さな橋が架かり、その周囲には色とりどりの花が咲いている。
一見すると、四区域の中で最も穏やかな場所に見えた。
『南区では、演舞の技術だけでなく、正確な動きや表現力、集中力などを鍛えます』
(明るいな…)
『ただし、見た目ほど穏やかな場所ではありません』
(そうなんだ。)
『演舞場には、様々な仕掛けが施されています』
……どうやら、綺麗な場所ほど怖いらしい。
そして最後。
光が北へ移動した。
そこに映ったものを見た。
森。
それも、ただの森ではない。
学園の敷地の向こう側まで続いている、巨大な森だった。
『北区は、自然の中での行動能力や持久力、精神力を鍛える区域です』
森の中には、いくつもの道が続いている。
『さらに北側には、学園の敷地と一体化するように、特殊訓練区域が存在します』
(特殊……)
『はい。許可を受けた生徒のみ、立ち入ることができます』
(……ふーん)
特に気になることもなかった。
私には、森の奥に何があるのかなんてどうでもいい。
それよりも。
舞は今、どこにあるんだろう。
『そして――』
リーリアの声が、一瞬だけ止まった。
『森の奥には、生徒たちにも詳しく知らされていない区域があります』
(……森の奥)
映像はそこで消えた。
残ったのは、学園全体を映した一枚の地図だけだった。
その中心。
四つの区域が交わる場所に、大きな建物が描かれている。
『中央区』
リーリアの声が、少しだけ静かになった。
『東、西、南、北。四つの区域から伸びる道は、すべて中央区へと繋がっています』
そこには、学園最大の建物と広大な庭園があるという。
重要な行事や式典も、ここで行われるらしい。
『そして中央区には、学園を管理する最高位の人物が存在します』
(…お偉いさんか。)
『普段、一般の生徒が直接関わることはほとんどありません』
中央に映る建物を見つめた。
不思議だった。
そして。
どうして北の森だけ、わざわざ「生徒には詳しく知らされていない区域」があるのか。
『神鳴学園は、四つの区域がそれぞれ異なる役割を持ちながら、中央区を軸として一つに繋がっています』
リーリアの声が、再び穏やかなものへ戻った。
『学び、鍛え、己を磨くための場所。それが神鳴学園です』
(……なるほど)
……たぶん。
半分くらいしか分かっていない。
(難し……)
そう思った、その時。
遠くに見えた森が、風に揺れた。
ざわざわと木々が揺れる。
その景色を、私はただ、ただ眺めていただけだった。
私には学園の奥なんて別にどうでもよかった。
今はただ、舞をみたい。
けれど。
この時、まだ知らなかった。
この学園が、なぜこのような形をしているのか。
なぜ四つの区域が存在するのか。
なぜ中央区だけが特別なのか。
そして――
森の奥に、一体何があるのか。
それを知る者は、
この学園の中でも、ごく僅かしかいない。
『……以上です♪』
最後だけ、妙に明るいリーリアの声が響いた。
(……最後だけ軽いな)
そんなことを考えながら、私は周囲を見回した。
……舞はない。
(どこにあるだろ)
学園のことより。
森の奥に何があるのかより。
今の私が気になっているのは、ただ一つだった。
(舞は、どこにあるのかな)
コメント
1件
読み終えました!第2話、学園の世界観がどんどん広がってワクワクしました✨ 東・西・南・北で全然違う訓練区域があるの、まるで一枚の地図を広げてもらったみたいで「ここで何が起きるんだろう」って想像が膨らみます。特に北の森の奥に「生徒に知らされていない区域」があるってところ…すごく気になります。でも主人公はそんなことより「舞はどこにいるんだろう」って思ってるんですよね。その一点を追う視線が、たくさんの情報の中であおい(私もあおいです🤭)さんの心情をちゃんと届けてくれていて、すごく好きな距離感でした。続き、楽しみにしてます🌷