テラーノベル
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雄英高校。
ヒーローを目指す者なら、誰もが一度は憧れる場所。
私にとっては、ただの任務先でしかない。
『……ここが雄英』
正門を見上げ、小さく息を吐く。
立派な校舎。整備された敷地。
ここから未来のヒーローが生まれるのだと思うと、なんだかひどく滑稽だった。
未来のヒーロー。
その言葉を聞くだけで、胸の奥がざらつく。
__私は、何を期待しているのだろう。
期待なんて、とうの昔に捨てたはずなのに。
「蛇神紫苑さんですね。こちらへどうぞ」
案内された職員室で、私は簡単な説明を受けた。
公安からの指示は明確だ。
雄英高校ヒーロー科1年A組に所属し、学校内部の情報を収集すること。
生徒たちの能力や教育内容、学校生活の様子を定期的に報告すること。
余計な交流は必要ない。
任務を遂行し、報告する。
それだけだ。
『公安職員から、詳細は聞いていますよね』
根津「聞いているのさ。さて、君は相澤くんのクラスに行ってもらうけどいいかい?」
『イレイザーヘッドですね。構いません。』
相澤「できれば生徒の前では相澤の方で呼んでください。」
『わかりました。相澤先生、では先生も敬語はなしでお願いします。一応生徒ですので。』
相澤「あぁ。じゃあ教室に行くか」
担任教師の相澤消太に促され、私は廊下を歩き出した。
教室の前で足が止まる。扉の向こうから、賑やかな声が聞こえていた。
笑い声。くだらない会話。誰かを呼ぶ声。
随分と楽しそうだ。
私は、いつからあんなふうに笑わなくなったのだろう。
瑠華
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#主にオリキャラ視点
#ヴィデク
推しを愛して止まない
6,052
……いや。
考えるのはやめよう。
過去を振り返ったところで、何も変わらない。
相澤「入るぞ」
相澤先生が扉を開けた。
教室中の視線が、一斉にこちらを向く。
相澤「今日からこのクラスに加わる蛇神(なまえ)だ。事情があっての編入だが、余計な詮索はするな。以上」
簡潔な紹介だった。
助かる。
余計な説明も、愛想笑いも、最低限で済みそうだ。
相澤「じゃあ、蛇神。自己紹介」
促され、私は一歩前に出た。
『蛇神紫苑です。よろしくお願いします』
それだけ言って、頭を下げる。
沈黙。
……何か間違えただろうか。
芦戸「先生質問していい!!?」
誰かが声を上げた。
相澤「芦戸、静かにしろ。質問は各自でしとけ。迷惑はかけるなよ」
芦戸「はい!」
おいイレイザーなんてことしてくれるんだ。
質問なんて答える気ないぞ。
そう思いを込めて相澤に一睨みするけど、本人は一瞥しただけで次の説明に入った。
相澤「席は窓側の空いているところだ。授業の準備をしろ」
私は指定された席へ向かった。
視線が追いかけてくる。
興味。好奇心。歓迎。
悪意があるわけではないのだろう。
だからこそ、少しだけ厄介だった。
緑谷「僕、緑谷出久! よろしくね、蛇神さん!」
席に着くなり、緑の髪の少年が話しかけてきた。
緑谷出久。
事前資料で名前は確認している。
(なまえ)『……どうも』
緑谷「えっと、前はどこの学校にいたの? あ、答えにくかったらいいんだけど!」
(なまえ)「…答えにくいです」
緑谷「そ、そっか! ごめん!」
あっさり引き下がる少年に、私は少し拍子抜けした。
もっとしつこく聞かれると思っていた。
飯田「緑谷くん、初対面から質問攻めにするのはよくないぞ!」
こんどは青い髪の少年が声を上げる。
飯田天哉。
彼もまた、事前資料に名前があった。インゲニウムの弟か。
緑谷「えぇ!ごめん…。 ただ、転校生って珍しいから……」
どうやら仲良くなろうとしていたみたいだ。
ただ私にはその気はないので、はっきり行っておくことにした。
『すみませんが、私はあなた方と友達ごっこするつもりはありません。』
教室中が静まり返る。
また伝え方を間違えたか。
まぁいい。私には関係ない。実際ほんとのことなのだから。
私は、彼らの顔を見ないように窓の外へ目を向けた。
青い空が広がっている。
あの日も、こんな空だった。
何も知らないような、何も失っていないような、残酷なほど綺麗な空。
『……っ』
指先に力が入る。
やめろ。
思い出すな。
ここへ何をしに来たのか、忘れたわけじゃない。
私はヒーローを目指したいからここに来たんじゃない。
彼らと仲良くするためでもない。
ただ、命令されたからここにいる。
それ以上でも、それ以下でもない。
緑谷「蛇神さん?」
『……何ですか』
顔を上げると、緑谷が少し心配そうにこちらを見ていた。
緑谷「顔色、悪いけど……大丈夫?」
大丈夫。
その言葉が、嫌いだった。
何も知らないくせに。
何もわからないくせに。
簡単に口にしないでほしい。
「大丈夫です。放っておいてください」
思ったよりも、冷たい声が出た。
緑谷は一瞬驚いたものの、小さく頷いた。
緑谷「……うん。ごめんね」
それ以上、何も聞いてこなかった。
私は再び窓の外を見る。
胸の奥に、名前のつけられない感情が残っていた。
罪悪感だろうか。
それとも、ただの苛立ちか。
わからない。
わかりたくもない。
__任務に私情を挟むな。
何度も教え込まれた言葉を、心の中で繰り返す。
ここにいるのは、蛇神澪。
公安の命令を受け、雄英高校に潜入した人間。
それだけでいい。
何も見つけなくていい。
何も変わらなくていい。
だって、私の世界はもう__。
あの日から、止まったままなのだから。
コメント
1件
あおいです、読ませていただきました🌷 「未来のヒーロー」という言葉に胸がざらつく、その感覚の描き方がとても印象的でした。窓の外の「あの日もこんな空だった」という回想——まだ何が起きたかは明かされていないのに、彼女の内側にぽっかり空いた空洞みたいなものが伝わってきて、切なかったです。 緑谷くんの「大丈夫?」に冷たく返すシーン、ああいう距離の取り方、すごく好きです。続きが気になります。