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#雄英高校
𝑵𝒂𝐠𝒊.
33
#主にオリキャラ視点
15
雄英高校。
ヒーローを目指す者なら、誰もが一度は憧れる場所。
私にとっては、ただの任務先でしかない。
『……ここが雄英』
正門を見上げ、小さく息を吐く。
立派な校舎。整備された敷地。
ここから未来のヒーローが生まれるのだと思うと、なんだかひどく滑稽だった。
未来のヒーロー。
その言葉を聞くだけで、胸の奥がざらつく。
__私は、何を期待しているのだろう。
期待なんて、とうの昔に捨てたはずなのに。
「蛇神澪さんですね。こちらへどうぞ」
案内された職員室で、私は簡単な説明を受けた。
公安からの指示は明確だ。
雄英高校ヒーロー科1年A組に所属し、学校内部の情報を収集すること。生徒たちの能力や教育内容、学校生活の様子を定期的に報告すること。
余計な交流は必要ない。
任務を遂行し、報告する。
それだけだ。
『公安職員から、詳細は聞いていますよね』
根津「聞いているのさ。さて、君は相澤くんのクラスに行ってもらうけどいいかい?」
『イレイザーヘッドですね。構いません。』
相澤「できれば生徒の前では相澤の方で呼んでください。」
『わかりました。相澤先生、では先生も敬語はなしでお願いします。一応生徒ですので。』
相澤「あぁ。じゃあ教室に行くか」
担任教師の相澤消太に促され、私は廊下を歩き出した。
教室の前で足が止まる。扉の向こうから、賑やかな声が聞こえていた。
笑い声。くだらない会話。誰かを呼ぶ声。
随分と楽しそうだ。
私は、いつからあんなふうに笑わなくなったのだろう。
……いや。
考えるのはやめよう。
過去を振り返ったところで、何も変わらない。
相澤「入るぞ」
相澤先生が扉を開けた。
教室中の視線が、一斉にこちらを向く。
相澤「今日からこのクラスに加わる蛇神(なまえ)だ。事情があっての編入だが、余計な詮索はするな。以上」
簡潔な紹介だった。
助かる。
余計な説明も、愛想笑いも、最低限で済みそうだ。
相澤「じゃあ、蛇神。自己紹介」
促され、私は一歩前に出た。
『蛇神澪です。よろしくお願いします』
それだけ言って、頭を下げる。
沈黙。
……何か間違えただろうか。
芦戸「先生質問していい!!?」
誰かが声を上げた。
相澤「芦戸、静かにしろ。質問は各自でしとけ。迷惑はかけるなよ」
芦戸「はい!」
おいイレイザーなんてことしてくれるんだ。質問なんて答える気ないぞ。
そう思いを込めて相澤に一睨みするけど、本人は一瞥しただけで次の説明に入った。
相澤「席は窓側の空いているところだ。授業の準備をしろ」
私は指定された席へ向かった。
視線が追いかけてくる。
興味。好奇心。歓迎。
悪意があるわけではないのだろう。
だからこそ、少しだけ厄介だった。
緑谷「僕、緑谷出久! よろしくね、蛇神さん!」
席に着くなり、緑の髪の少年が話しかけてきた。
緑谷出久。
事前資料で名前は確認している。
(なまえ)『……どうも』
緑谷「えっと、前はどこの学校にいたの? あ、答えにくかったらいいんだけど!」
(なまえ)「…答えにくいです」
緑谷「そ、そっか! ごめん!」
あっさり引き下がる少年に、私は少し拍子抜けした。
もっとしつこく聞かれると思っていた。
飯田「緑谷くん、初対面から質問攻めにするのはよくないぞ!」
こんどは青い髪の少年が声を上げる。
飯田天哉。
彼もまた、事前資料に名前があった。インゲニウムの弟か。
緑谷「えぇ!ごめん…。 ただ、転校生って珍しいから……」
どうやら仲良くなろうとしていたみたいだ。
ただ私にはその気はないので、はっきり行っておくことにした。
『すみませんが、私はあなた方と友達ごっこするつもりはありません。』
教室中が静まり返る。
また伝え方を間違えたか。
まぁいい。私には関係ない。実際ほんとのことなのだから。
私は、彼らの顔を見ないように窓の外へ目を向けた。
青い空が広がっている。
あの日も、こんな空だった。
何も知らないような、何も失っていないような、残酷なほど綺麗な空。
『……っ』
指先に力が入る。
やめろ。
思い出すな。
ここへ何をしに来たのか、忘れたわけじゃない。
私はヒーローを目指したいからここに来たんじゃない。
彼らと仲良くするためでもない。
ただ、命令されたからここにいる。
それ以上でも、それ以下でもない。
緑谷「蛇神さん?」
『……何ですか』
顔を上げると、緑谷が少し心配そうにこちらを見ていた。
緑谷「顔色、悪いけど……大丈夫?」
大丈夫。
その言葉が、嫌いだった。
何も知らないくせに。
何もわからないくせに。
簡単に口にしないでほしい。
「大丈夫です。放っておいてください」
思ったよりも、冷たい声が出た。
緑谷は一瞬驚いたものの、小さく頷いた。
緑谷「……うん。ごめんね」
それ以上、何も聞いてこなかった。
私は再び窓の外を見る。
胸の奥に、名前のつけられない感情が残っていた。
罪悪感だろうか。
それとも、ただの苛立ちか。
わからない。
わかりたくもない。
__任務に私情を挟むな。
何度も教え込まれた言葉を、心の中で繰り返す。
ここにいるのは、蛇神澪。
公安の命令を受け、雄英高校に潜入した人間。
それだけでいい。
何も見つけなくていい。
何も変わらなくていい。
だって、私の世界はもう__。
あの日から、止まったままなのだから。
コメント
1件
あおいです、読ませていただきました🌷 「未来のヒーロー」という言葉に胸がざらつく、その感覚の描き方がとても印象的でした。窓の外の「あの日もこんな空だった」という回想——まだ何が起きたかは明かされていないのに、彼女の内側にぽっかり空いた空洞みたいなものが伝わってきて、切なかったです。 緑谷くんの「大丈夫?」に冷たく返すシーン、ああいう距離の取り方、すごく好きです。続きが気になります。